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需給ギャップが改善し、明るさも戻り始めた金型業界。後押しの一つとなっているのが、一部で言われる金型の国内回帰だ。果たして本当に国内に回帰しているのか。どんな金型が戻っているのか。一方、ここにきて「職人」不足を危惧する金型メーカーも増えている。これを補うべく、一部の金型メーカーで汎用機を活用した「職人」育成の動きも広まってきている。国内回帰の現状と人材育成の課題をまとめた。

金型の国内回帰進む

金型時事1

価値高い金型にニーズ

 金型の国内回帰が進んでいる。円安や品質問題の影響に加え、長寿命化や複雑化、大型化など、なかでも難度の高い金型のニーズが増していることが理由だ。日本の金型メーカーには、こうした高付加価値な金型づくりが求められている。

 日本金型工業会が実施した景況アンケートによると、昨年10︱12月期に「海外から戻ってきた金型を作った、もしくは作ったことがある」と回答した企業は全回答企業のうち35・6%と、昨年4︱9月期の同項目の回答企業が22・9%だったのに比べ、10%以上も増加した。

 円安で生産コストが海外と遜色ない水準に低下したことや、昨今の品質問題の影響で、製造業全般で国内に生産を戻す動きが広がっている。あるプレス金型メーカーも「日本で生産するという選択肢が増えた」とみる。ただ、それだけが金型の国内回帰の要因ではない。

 日本工業大学院の横田悦二郎教授は「日本に戻る金型は以前より高度化している場合が多い」と指摘する。ある電機メーカーも「国内ではハイサイクル、一体化など難度の高い金型を調達することになる」と話す。

 実際、金型メーカーもそうした認識を持っている。松野金型製作所の松野行秀社長は「回帰している金型は間違いなく難易度が増している」とし、「複数の金型だったのが、一体成形するために大型化して戻ってきた」という。ホクト精工の竹森勝彦専務は「事務機関連の複雑構造の金型や、自動車関連の微細型の受注が増えた」と話す。 

 こうした国内回帰の動きがある一方で、アンケートの約60%が「海外からの回帰はない」と回答している。たしかに、「自動車は地産地消で大きな変化はない」や「海外の仕事を取っている」などもともと実感しにくい企業もある。

 ただ、間違いなく日本メーカーに求められる金型は高度化している。海外展開も積極的に行う大手プレス金型メーカーの社長は「日本では納期、難易度、品質などレベルの高い金型を作るようになっており、海外で作るものとの住み分けができつつある」という。日本の金型メーカーにとって付加価値の高い金型づくりに挑戦することは不可欠だ。それを実現するには、設備、技術、人材、または連携など、より競争力を強めていく必要がある。

汎用機で「職人」育成

金型時事2

デジ、アナの融合必要

 金型を熟知した「職人」の育成が急務になっている。ITを駆使したデジタルな金型づくりが増える一方で、最終の型合わせや、不具合が発生した際の改善策を提案できる「技」を持った職人が減ってきているためだ。競争力低下に繋がりかねないことから、アナログにも精通した職人を育成するため、一部の金型メーカーでは汎用機を活用した「職人」育成の動きが広がっている。

 モータコアの金型を手掛ける黒田精工は昨年、「クロダものづくり道場」を開設した。ベテランやOB社員を講師に招き、若手技術者はもとより、営業や管理職にも汎用機を使って、数日間にわたり基礎加工を教える。黒田浩史社長は「ものづくりの会社として、技能を深める場が欲しかった」と目的を話す。

 「汎用世代からNC世代への伝承の最後のタイミングかもしれない」と話すのは、精密プレス金型の昭和精工の木田成人社長。汎用機が使えなくなることを危惧し、汎用フライスや研削盤を活用して、ベテランから若手への伝承を進めている。プラスチック歯車金型のチバダイスも、新入社員に入社後1年のうちに、旋盤や研削盤、フライス盤など一通り汎用機を使えるように教育している。汎用機を使った教育の目的は技能伝承や職人育成だけでなく、NC技術を高める意味もある。汎用機で五感を使わなければ身につかないことも多いからだ。工具に極端に負荷をかけるツールパスでもNC機では加工できてしまったり、効率を考えない加工順を組んでしまったりすることもあるという。

 チバダイスの千葉英樹社長は「汎用機を学んではじめて気が付くこともある」と話す。木田社長も「NC機が主流なのは変わらないが、加工原理を知らなければ、最新機の性能も最大限まで引き出せない」と汎用機を学ばせる意味をそう話す。

 日本金型工業会東部支部の若手部会の天青会で会長を務める、ペッカー精工の小泉秀樹社長もアナログ技術の重要性を指摘する。「汎用機の時代とNC化された今では作り方が違う。けれどアナログはすごく大事。アナログとデジタルの融合を進めないと、とんでもないことが起きると思う」と警鐘を鳴らす。デジタル化が進めば進む一方で、職人のアナログ技術の重要性も高まってきている。

金型新聞 平成28年(2016年)4月18日号

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