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【特集】どうなる、5Gで求められる金型技術

高速通信規格「5G」の社会実装が本格化することで、金型にはどんな影響があるのか。また、どんな金型技術が求められるようになるのか。日本情報技術産業協会(JEITA)や先進企業などへの取材を通じ、今後の方向性を探る。

目次
PART1 5Gが生み出す新市場
PART2 TOWA 薄型や大型基板に対応
PART3 ファスト 新工場で需要に対応
PART4 ワークス ダイヤ工具でナノオーダー
PART5 5G向け金型メーカー決算
PART6 記者の目

PART1

5Gが生み出す新市場 スマホ、PC、自動運転、ロボット…

高速通信規格「5G」の社会実装が本格化することで、IoT機器に関連する金型の需要増が期待されている。日本情報技術産業協会(JEITA)の2019年のレポートで、18年に3.6兆円だった5G対応のIoT機器の世界需要が、30年に104兆円に拡大すると見通している。では、どのような領域や産業分野でIoT機器は増え、金型への影響はあるのか。JEITAの資料などから、5Gの本格化が金型市場に与える影響を見てみる。

IoTの世界需要、30年104兆円に

左:表① 右:表②

高速通信や多数同時接続などが可能になる5Gによって、ビッグデータの収集やAIの活用が進展し、製造業だけでなく、あらゆる産業で新たなサービスが生まれ、関連市場が拡大すると予想されている。中でも、最も5Gと深いかかわりを持つマーケットが「CPS(サイバーフィジカルシステム)/IoT市場」だ。

同市場は製造業だけだく、流通、医療、金融、公共インフラなど社会全体を広くカバーする。JEITAでは18年に241兆円だったCPS/IoT市場の世界需要が30年には532兆円(表①)と2.2倍になると予測している。

その市場の拡大のけん引役となるのが5G対応のIoT機器やサービスだ。JEITAでは5G市場を基地局などの「インフラ」、電子端末などの「IoT機器」、ソフトウェアなどの「ソリューションサービス」の3つに分類。18年に5000億円だった。これらの市場の世界需要額が30年には168兆円になると見通した(表②)。

3分野ともに拡大予想を描くが、最も成長するのは、金型需要が生まれる可能性の高いIoT機器だ。20年に3.6兆円だった市場が30年には104兆円になると推定している。

では、どんな分野の金型が伸びるのか。JEITAでは、スマートフォンや、タブレット、パソコン、ネットワークカメラなどをIoT機器として挙げる。実際にこれらに関連する分野の金型需要はすでに旺盛だ。

その代表的な一つが、いずれの機器に必要な半導体関連。半導体封止用金型を手掛けるTOWAは前年比で二けた増を見込み、半導体の検査などに不可欠なICトレイ用の金型を手掛けるファストは昨年、福島に新工場を設けた。

さらに、JEITAでは、新たなIoT機器として、「ウェアラブル端末」、「自動運転車」、「ロボット」、「ドローン」、「農業機械」、「建設機械」を追加。その中でも、車の自動運転や電動化などにより需要が増える光学ガラスレンズの金型を手掛けるワークスは、その微細精密の技術に磨きをかける。 これらの分野で、5G対応の機種や新製品が出てくれば、金型需要の拡大も期待できそうだ。

PART2

TOWA 薄型や大型基板に対応

コンプレッション金型、連続無人加工を実現

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コンプレッション金型

「5G関連需要は好調。今後も案件は増える」とTOWA・プロダクトエンジニアリング部の坂本広助氏は話す。2021年3月期第3四半期の半導体製造装置事業は売上高182億円(前年同期比11.7%増)と飛躍。注力するコンプレッションモールドは5G関連に多い薄型や大型基板、微細に最適だ。

半導体樹脂封止には主に2つの成形方式があり、1つがトランスファ方式で金型中心部にあるポット内に樹脂を投入し、ランナーやゲートを通じて樹脂を流動させ成形するが、樹脂流動時の乱れによる不具合や品質の均一化においては成形プロセスウインドウが小さい。

コンプレッション装置

一方、コンプレッション方式は金型内に樹脂を敷き詰め、型内を減圧し真空状態にしたのち、溶融した樹脂にワークを押し当て成形するため、樹脂流動距離を極力抑えることができ、品質の均一化はもちろん、ワイヤ変形リスク低減や薄型、大型化にも対応する。パッケージ厚み精度は±10μ。その上、型構造もシンプルで、100%樹脂活用が可能。また、敷き詰めた樹脂の上にリリースフィルム(離型フィルム)を配し、金型メンテナンス頻度を大幅に削減した。「直近は基板内の部品も増え、成形難易度も高い。よりコンプレッションモールドのニーズが高まる」とし、ファブレス企業の多い米国や躍進続く中国などエンドユーザーの動向を各拠点間で情報交換し、迅速に対応する。

旺盛な半導体需要や生産性向上のため、金型製作の自動化も進めている。同社は受注した製品図から設計を実施し、部品発注や工程設計、加工データを自動で出力し、加工現場では加工を管理するPCが加工データを読み込み、各工作機械を自動化している。加工はワークやツールの状態及び加工後の形状測定を機上で行い、加工完了まで仕上げる。各工作機械にはAWCが備えられ、自動でワーク交換、ツール交換もできる仕組みだ。「当社では標準の機械を独自のアイデアとメーカーの協力でカスタマイズし、超精密加工や自動化に対応できるシステムを構築し、連続無人加工を実現した」とモールド生産技術部・課長の奥野伸志氏は語る。今後はさらに、人が介在する段取りの自動化を進めていく。

  • 本社  : 京都市南区上鳥羽上調子町5
  • 電話  : 075-692-0250
  • 代表者 : 岡田博和社長
  • 設立  : 1979年
  • 従業員数: 連結1633人
  • 事業内容: 半導体樹脂封止金型の設計・製造、モールディング装置の設計・製造など。
PART3

ファスト 新工場で、需要に対応

ICトレー向け金型、ロボ活用し生産2倍に

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MC4台と自動搬送システムを接続

半導体の製造工程では、あらゆる集積回路(IC)が、「ICトレー」と呼ばれる樹脂製の容器によって運ばれる。この「ICトレー」は、半導体製造には無くてはならないものであり、5Gサービスの本格化に伴って、今後さらに需要拡大が見込まれる一つと言える。

グループ会社にICトレーメーカーを持つプラスチック金型メーカーのファストは、2009年ごろからICトレー向け金型を手掛けている。ここ数年で受注が増加しており、5年前と比べるとICトレー向け金型の売上は約1・3倍に伸びたという。「年々需要が増加しており、来年度には現状の売上からさらに倍増させることを目指している」(齋藤利仁社長)。

ICトレー

この需要増加に対応するために、これまで生産していた群馬県太田市の本社工場に加えて、福島県相馬市に新工場を建設し、生産能力の強化に取り組んでいる。マシニングセンタ(MC)4台や三次元測定機などを導入し、今年から本格的に稼働を開始した。

新工場最大の特長は、ロボットなどを活用した自動生産システム。MC4台が自動搬送システムによって接続され、ワークの取り出しや供給を自動で行う。作業者は工具のセットや加工データを用意するだけで、金型を製造することができる。

ロボットでワークを搬送

また、加工データも熟練度の低い作業者でも作成できるシステムを目指した。メーカーと共同で開発したCAMシステムは、過去に製作した金型の加工データから似た形状のデータを呼び出すことで、簡単に新しい加工データを作成することができる。

「ICトレー向け金型は、入れ子のサイズがほとんど変わらないので、こうしたCAMシステムが実現できた」(齋藤社長)。今後は人工知能(AI)を活用し、加工データの作成もある程度自動化させていくことを目指すという。

新工場の建設によって、生産能力はこれまでの2倍に向上した。また、将来的には、新工場の生産システムごと海外に輸出し、グローバルで生産できる体制を構築していく。「技術者を一から育成するのは、国内でも難しい。高度な技能を必要としない生産システムで、今後拡大する需要に対応していきたい」(齋藤社長)。

  • 本 社 : 群馬県太田市吉沢町608-4
  • 電 話 : 0276-36-1555
  • 代表者 :  齋藤利仁社長
  • 設 立 :  1960年
  • 従業員 :  41人
  • 事業内容: プラスチック金型の設計および製作、NCフライス加工など。
PART4

ワークス ダイヤ工具でナノオーダー

ガラスレンズ金型、砥石による加工技術を凌駕

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金型の非球面加工

第5世代移動通信システム「5G」により飛躍的に技術が向上するとみられる車の自動運転や遠隔医療。そのキーパーツのひとつが光学ガラスレンズだ。金型を手掛けるワークスは、熟練技能を身につけていなくても高精度の加工ができる技術の確立に挑んでいる。

ガラスレンズはプラスチックと比べて透過性が高く、高度なセンサや通信機器に用いられる。成形時に溶かしたガラスは数百度の高温になるため金型には高硬度の特殊な超硬やセラミックが用いられる。そのため金型はダイヤモンド砥石で研削加工する。

1㎜非球面レンズ

しかし砥石は加工の過程で摩耗する。ワークスが手掛けるレンズの金型は、最小で直径0.5㎜。技術者は砥石の摩耗を計算したうえで、狙った精度に、ナノレベルで追い込んでいく。

三重野計滋社長は、「温度や湿度、加工機のコンディションで加工条件が常に変化する。それを『五感』で判断し最適なプログラムを作り加工しないといけない。まさに匠の技の領域。そのため作れる数も限られていた」と話す。

それを熟練者でなくても実現できるようにしたのが、ナノ多結晶ダイヤモンド工具による加工だ。微細な粒子が緻密に結合した組織を持つ多結晶ダイヤは超硬やセラミックを加工しても欠けない。そのため加工条件を割り出す際、工具の摩耗を考慮しなくてもいい。

ある大学で研究していた技術を応用したもので、工具は自社で開発し、加工用のマシンや治具も特別に用意して実用化した。三重野社長は、「これにより今ではパートタイマーもレンズ金型を加工している。生産できる数も1日5型だったのが20型になり、効率も高まった」。

超硬合金製レンズアレイ

微細加工の高い技術力やノウハウ、最新の加工設備が必要なガラスレンズの金型を作れる企業は今なお、国内や海外でも少ない。5Gの本格導入が進む中で、ワークスには海外からも製作依頼が頻繁にあるという。

しかし三重野社長は、「世界との競争に勝ち抜くためには常に一歩先をいかないといけない。微細精密の加工技術や、生産効率を高める技術を磨き続け、競争力を高めていきたい」。

  • 本社  : 福岡県遠賀町虫生津1445
  • 電話  : 093-291-1778
  • 代表者 : 三重野計滋社長
  • 創業  : 1991年
  • 従業員 : 56人
  • 事業内容: 光学レンズや医療機器の金型、精密微細部品の製造。
PART5

5G向け金型メーカー決算 業績好調、拡大する金型需要

コネクタ、半導体が増加

5G関連機器に携わる金型メーカーの業績が好調だ。背景には、5Gサービスの本格化に伴い、コネクタやセンサ、半導体などといった関連部品・機器の需要が増加していることが挙げられる。今後もさらなる需要拡大が見込まれており、関連する金型メーカーは新工場の設立や研究開発など、需要を取り込むための取り組みを進めている。

新製品開発、拠点新設も

5Gに対応したコネクタやその金型を手掛けるI-PEX(京都市伏見区)の2020年12月期の民生部門の売上高は、前期比21.8%増の284億1500万円と大きく伸長した。5Gスマホやパソコン、スモールセル(基地局)などでコネクタの需要が増加したことが影響した。

同様に5G用コネクタや金型などを手掛ける鈴木(長野県須坂市)も20年7‐12月期の売上高は、前年同期比13.6%増の159億3100万円と増収だった。

5Gの普及などによって需要が急増している半導体関連も好調だ。TOWA(京都市南区)では、20年4‐12月期の半導体製造用精密金型の売上高が62億7500万円と前年同期に比べて11.8%増となった。5G関連のほか、パソコンやゲーム機などでの需要増加も追い風になった。

5Gサービスが本格的に稼働していくことを見据え、関連する部品や機器向け金型を手掛けるメーカーの見通しは明るい。I‐PEXは、中期成長のけん引役の一つとして5G対応のコネクタを挙げている。昨年には、さらなる需要拡大に対応するために、福岡県小郡市に金型製造のための新工場を建設し、生産性や品質の向上に取り組んでいる。

5G基地局向け光通信用部品などを手掛ける精工技研(千葉県松戸市)は、三重大学などと共同で5G向け光電界センサを開発するなど新製品や新技術の開発を加速させている。20年4-12月期の売上高は前年同期比9.9%減の106億700万円と足元の業績は減少しているが、中期的な需要増加を期待する。

拡大する需要をいかに取り込めるか。各社の対応が今後のカギとなりそうだ。

PART6

記者の目

5Gサービスの本格化によって、半導体、電子部品、基地局用部品、デバイス用部品といった5G関連機器・部品は、自動車や家電製品などと同様に、大量生産・大量消費の時代に突入した。これらの機器や部品をより効率的に生産していくためには、量産のためのツールである金型が不可欠となる。今後、5Gが普及していくに伴い、金型の重要性はさらに増していくことが予測される。

今回の特集では、5Gの普及によって、どんな金型技術が求められるのかをみてきた。半導体封止用金型、ICトレー用金型、光学レンズ用金型など、その種類は多岐にわたる。これらの金型の需要が増加することで、これまでこうした分野に参入していなかった金型メーカーにもチャンスが広がる可能性は高い。

自社の技術と市場ニーズがどう適合するか。金型メーカー各社は、常に注視しながら、営業や開発などの取り組みを進め、拡大する需要を取り込んでいきたい。

金型新聞 2021年5月14日

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