金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

21

新聞購読のお申込み

新栄ホールディングス 金型、プレス加工メーカーをグループ化【特集:連携・M&Aで乗り越える】

金型、プレス加工メーカー3社を傘下に置く新栄ホールディングス(東京都中央区、中村新一社長)。金属プレス加工メーカーの新栄工業(千葉市花見川区)がM&A(合併・買収)で取得したアポロ工業(埼玉県吉川市)と飯能精密工業(同飯能市)に新栄工業を加えた3社の持ち株会社として、2023年に設立。中小企業が単独で取り組むのが難しい経営戦略の策定や資金調達などを担い、グループ会社の持続的な成長を目指している。

技術者の安定雇用と育成目指す

「金型産業最大の課題は繁閑の差が激しいこと。閑散期には人材採用や投資を抑え、縮小する方向に意識がいく。それでは人材育成も安定した雇用も難しい。ホールディングス化の狙いは、繁閑の差をできるだけ平準化し、金型技術者を安定して長期的に育成できるような環境をつくることだ」。ホールディングスおよびグループ3社の社長を務める中村氏はこう語る。

中村社長はもともと父親から引き継いだ新栄工業で社長を務めていた。新たな社内体制づくりに取り組む他、プレス専業メーカーだった同社で金型部門を立ち上げ、金型の内製化を進めた。しかし次第に、自力で技術レベルを向上させるのに限界を感じるようになり、金型メーカーのM&Aを検討するようになった。「色々と条件に合う企業を探す中、出会ったのがアポロ工業だった」(中村社長)。

飯能精密工業では現場の安全性が向上

アポロ工業は自動車部品を中心とした金型の設計製作からプレス加工までを手掛け、高い技術力を持つ一方、後継者が不在で廃業も検討していた。新栄工業はM&A仲介会社を通じてアポロ工業を見つけ、2019年に約5000万円をかけて買収した。

事業譲受後、アポロ工業の高い金型技術力によって、EV部品や難加工材の加工など、他社ではできないような付加価値の高い仕事が増加した。特に自動車の電動化に伴い、EV部品の受注が増加。ただ、「工場をこれ以上拡張するのが難しく、生産能力を増強することができなかった」(中村社長)。

こうした課題を解決するために、並行生産できるプレス加工メーカーのM&Aをさらに検討。そこで22年に取得したのが、電子部品や医療機器などの精密プレス加工を得意とする飯能精密工業だった。

EV部品の並行生産体制を構築

同社は高い技術力によって年間1000万円ほどの利益を上げる高付加価値企業だったが、その一方で、創業者がつくった20件近い多重債務によって単独での返済が困難な状態に陥っていた。当時経営者だった中山久喜専務は「年間4000万円の返済が必要となっており、このままだと資金がショートしていく状況だった」と振り返る。この負債が同社のM&Aの大きな課題だった。

中村社長は飯能精密工業のM&Aを実現するためにさまざまな方策を思案。そこで活用したのが、複数の金融機関が協調して融資を行う「シンジケートローン」。新栄工業、アポロ工業、飯能精密工業の3社の株式を保有する持ち株会社「新栄ホールディングス」を設立し、金融機関からの借り入れを一本化。京葉銀行や千葉銀行など4行のシンジケート団から5・2億円を調達した。

こうして調達した資金を使い、飯能精密工業の既存借り入れを一括返済し、多重債務を解消。さらに、約1500万円を投じてEV部品の生産プレス加工ラインを導入し、並行生産体制を確立した。

左から飯能精密工業の中山専務、新栄HDの中村社長、山内取締役、飯能精密工業の田村部長

新栄ホールディングスではこうした資金調達に加え、リソースの限られる中小企業では取り組むのが難しいとされる戦略策定や管理、社員教育なども担う。飯能精密工業でも組織図を見直し、新たな経営理念を策定した。今後、目標や人事考課制度の策定などに取り組んでいくという。

グループ傘下に入って約1年。飯能精密工業ではすでに多くの従業員が変化を感じている。製造部の田村雅史部長もその1人。「一つは現場の安全性が大きく改善された。以前は安全装置のないプレス機もあったが、現在は全ての機械に取り付けられ、安全に作業できるようになった。もう一つは経営理念が策定され、目標や目的が明確になったことで、チームワークが生まれたこと。現場の雰囲気が明るくなり、働きやすくなった」。

また、グループ全体で人材育成にも取り組む。特に中間ポストが増えることで、従業員のキャリアアップの機会が広がり、リーダーの育成につながるという。「今は子どもが親の会社を継ぐ時代ではない。上場か売却しないのであれば、社内もしくはグループから後継者を見つけるしかない。ただ、1社単独で後継者を育成する環境をつくるのは難しい。グループならば、そうした環境を整えることができる」(中村社長)。

今後は、金型事業を手掛ける新会社をホールディングス傘下に設立することを検討している。グループ内の金型製作を新会社に集約し、安定した受注の確保を目指す。「金型技術者の安定した雇用と育成に取り組んでいきたい。金型は日本のコア技術。優れた金型技術は次世代に残していかなければならない。そのための取り組みを今後も続けていく」(中村社長)。

会社概要

  • 本社:東京都中央区日本橋富沢町16-5
  • 電話:048・981・5156
  • 代表者:中村新一社長
  • 創業:2023年
  • 従業員:90人(グループ全体)
  • 事業内容:金属プレス加工、精密金型・治工具設計・製作など(グループ全体)

金型新聞 2024年6月10日

関連記事

日本コーティングセンター IHI Ionbond社と提携 金型向け被膜を相互提供

日本コーティングセンター(神奈川県座間市、046-266-5800)はこのほど、表面処理メーカーのIHI Ionbond社(スイス)と自動車用プレス金型向けPVDコーティングで業務提供契約を締結した。国内外で両社のコーテ…

金型経営者アンケート 次の10年を勝ち残るために取り組むこととは?【特集:次の10年を勝ち残る4つの道】

自動車の電動化などによる金型需要の変化、少子高齢化による人手不足、アディティブ・マニファクチャリング(AM=付加製造)を始めとした新たな製造技術や技術革新―。金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型…

日立金属 工具鋼など全製品で価格改定

22年4-6月期納入分から 日立金属(東京都港区、03-6774-3001)はこのほど、原材料・副資材の価格およびエネルギー・輸送コストなどの高騰に伴い、2022年4‐6月期納入分から工具鋼など全製品で価格を改定すると発…

特集 : 金型づくりを変える6大テーマ

 次世代自動車による自動産業の変革や、少子高齢化による人手不足など金型産業を取り巻く環境は大きく変化し、新型コロナウイルスの感染拡大によって、そのスピードはさらに加速している。一方で、金型づくりを支える製造技術も進化を遂…

【金型の底力】カワマタ・テクノス 顧客深耕と成形事業を強化

顧客深耕と成形事業強化事業承継に未来図  ゴム金型の製造から成形まで手掛けるカワマタ・テクノスは事業承継を進めるため、事業改革に取り組んでいる。高い金型技術と成形を知る強みを活かし、既存顧客へのコンサルティング活動を強化…

トピックス

AD

FARO 樹脂成型品や自動車シートの測定での3次元測定アームの活用と新製品Qua...

樹脂成型品の工程管理・不具合解析 樹脂成型品の工程管理や不具合解析の現場では、実際の製品や試作品と設計図との差異把握や、製品や金型の工程ごとの変化量把握、不具合解析や要因分... 続きを読む

関連サイト