金型はこれまで、金型職人の頭の中で製品形状や金型設計を描き、経験やノウハウで調整し、製造してきた。そして金型の「匠」の技は「背中」を見て学ぶもので、習熟への時間はとても長かった。しかし近年では、工作機械やCAD/CAMと…
金型メーカー座談会 若手経営者が語る
ー業界の魅力高めるためには 第二部ー
技術と経営 両輪が必要理念貫き外需開始
金型メーカー座談会 若手経営者が語るー業界の魅力高めるためには 第一部ー
新春座談会・第二部は「海外展開」、「金型経営に必要な要素」がテーマ。「外需を取り込む」「内需に絞る」と各社独自の戦略を進めている。金型経営には「技術と経営の両方が不可欠」など、名言も飛び交った。
サイベックコーポレーション 平林 巧造社長
チバダイス 千葉 英樹社長
ペッカー精工 小泉 秀樹社長
▪︎海外展開への対策
司会 前回は国内回帰の話も出ましたが、海外の需要も大きくなっています。海外の需要開拓についての考えや取り組みを教えてください。
千葉 以前は海外進出も考えましたが、マンパワーの問題で、国内で作ることに決めました。数年前からドイツでの展示会などに出ましたが、見積もりをして3年弱くらいかかりましたね。最近やっと受注につながったところです。
司会 国内製造を基本に、輸出で外需開拓する方向ですね。
千葉 これまでも海外との取引は何十年もやっています。英語ができる日本人スタッフは用意しているし、輸出書類も自分たちで作ることができる体制にしています。アジアが多かったですが、欧州などにも広げているところです。最近、うちの製品を見て「ドイツの方が20年遅れていた」と悔しがっていたのは嬉しかったですね。
平林 当社も国内生産で外需を開拓していく方向ですね。千葉さん同様に海外の展示会に出ましたが、展示会には我々が理想のターゲットとするユーザーはなかなか来ない。2年で1社しか出会えなくて、いつ理想とするユーザーに出会えるのかなと悩みました。そこでやり方を変えて、14年の1月からドイツの企業と営業の代理店契約を結びました。そこが我々のターゲットとするユーザーに出向いて、当社の技術のPRと、提案型の営業をしています。
司会 営業を委託しているんですね。製造はどうでしょうか。
平林 海外ユーザーでは「海外に製造拠点はあるのか」と聞かれますが「ありません」と答えていますし、「今後も基本的に日本で作ります」と言っています。ユーザーが「それではダメだ」という事になればお断りします。全てのユーザーと付き合えるとも思っていないですし、キャパもない。私たちのものづくりの考え方に共感してもらえるユーザーとビジネスをするのが理想です。なかには「共感していただき、次のプロジェクトを進めましょう」という話もあります。
司会 小泉社長は。
小泉 うちは海外無視ですね。海外と取引すると、海外に行かないといけなくなるから。海外に進出している企業は中国だ、ベトナムだ、メキシコだと、現地に頻繁に人を派遣して受注しています。そんな資金力が当社にはないというのも理由の一つ。そんなことを続けると体力が衰えていくし、それだけの人材も集まらない。どうしたら生き残れるのかを考えると、国内生産のみでやっている会社を見つけ出して取引するわけです。大手でも日本製にこだわっている会社を見つけるようにしています。
司会 そういう企業をどうやって見つけるのですか。
小泉 いろんな手法はありますが企業秘密ですが、取引先の9割は、メイド・イン・ジャパンを貫き通している会社です。量を追いかけると、ユーザーが海外に工場を移す時に自分も移らざる得なくなります。そうすると当社の規模では浮き沈みが激しすぎて生き残れない。
だから毎年数型でもいいので、そういうユーザーをたくさん持っていた方がいいと考えています。規模拡大で儲けるのではなく、小ロットでも利益率が高い方がいいですからね。
宮城島氏 品質の安定化と人の育成課題
司会 宮城島社長はいかがでしょうか。
宮城島 当社は中国に工場がありますが「次にどこに出るのか」とよく聞かれます。しかし現時点では出る気はないです。小泉さんが言う通り、我々規模の会社があちこちに拠点を作るくらいなら、協力してくれるパートナーを見つけた方がいい。今、中国で作る金型の95%は日本からの注文で、中国では営業はしてないです。中国に日系メーカーが出てくると「あそこに日本の会社がある」といって、仕事をもらう事が多い。あくまで買う人は、注文を日本の企業に出しているのであって、日本品質とサービスを求めてこられるわけです。日本人だったら1言えば10やってくれるとか、事前に報告して解決策を提案してくれるなど、そういうのを求めている人が発注してくれています。だから、中国のローカル企業とは一切付き合いがないですね。
司会 発注する側は日本の企業に仕事を出しているという感覚なんですね。
宮城島 だから、当社の課題は品質を安定化させることです。中国工場で働いている日本人が一生、中国で働くわけではないので、これから送り出す人材を育てなければならない。後継者問題や、人をどう入れる
のかが重要ですね。機械は資金があれば買えるし、操作を間違えなければいい製品ができます。今は金型を作っていない日本が、金型がなくなっても食べていける体制づくりがひとつのテーマですね。
平林氏 「何もしない」が最大のリスク
司会 結局自社のスタンスを明確にすることは大事ですね。
小泉 結局オーナー自身が、何が好きで、何をしたいかということが大事なんだと思います。日本が好きなら日本でやるし、一時の利益を重視するなら海外に拠点を持ってやればいいだけです。すべてオーナーの経営方針で変わると思います。 例えば最近でも買収された会社が「日本で生産するのは不採算」というオーナーの考えで、日本工場を閉鎖し、海外に工場を集約した話もあります。これなどもオーナーが変わって会社が変わった典型的な例で、全て経営者の考え方次第です。
千葉 時代の流れで、海外進出やM&Aなどの流行がありますが、技術や人が大事という根本は変わらないと思います。逆にそこさえしっかりしていればいいと思います。例えば10社中9社が海外に進出してもオーナーが日本でやるというならそれでいいと思う。
平林 結局何もやらないのが一番良くない。皆さんの話を聞いても、企業風土にあった戦略を各社取っていますよね。小泉さんが言う通り、自分は日本が好きだからでいいと思います。私はドイツも好きですから営業をしています。自分の好きなところに行って、自分たちの技術を売り込んでいくやり方の方がいいのだと思います。
▪︎金型経営に必要な要素小泉氏 技術も経営も理解する人材を
司会 後継者や金型経営者に向いている人物像ってありますか。
小泉 残念ながら金型メーカーの経営者は技術者であって経営者でない人が多い。今後は技術も経営も分かっていないと金型メーカーの経営はできないと思います。
千葉 経営に興味がある人が、何年か現場を経験して経営者になるのが理想だと思いますね。
小泉 金型メーカーの社長は、いわゆる「おやっさん」みたいに技術も知っていて、従業員からも慕われないと若手が育たない。でも技術だけ分かっても経営が成り立たない。これからの金型業界は技術も分かって経営も分かる人材を育てることが一番重要だと思います。金型は技術の積み重ねですから、オーナーが目を光らせて次世代の人材をしっかり育てていかないとだめです。
一方で、ファンドが金型メーカーに投資することも増えてきていますが、技術を知らないと経営してもうまくいくとは考えられません。ちゃんと技術を知らなければ現場は動かないし、口も出せなくなりますから。
平林 技術を知らないと数字でしか判断できないから、数字以外の価値が分からないのだと思います。将来、実を結ぶだろうこの技術をいかに継続できるかできないかといった技術的な判断ができない。その場その場の決断は良いかもしれないけれど、企業は継続していくことが大事なので、それではうまくいかないと思います。
小泉 金型を内製する成形メーカーもありますが、金型技術を持った人がいない企業は「内製は不採算」と判断して結局やめてしまう。金型だけでは儲かっていなくても、その大切さを分かっているオーナーは不採算でも残そうとするはず。金型というコア技術を残している企業はうまく行っているはずです。でも、金型だけでは今の時代は儲けづらいのが難しいところですね。
司会 儲けづらいですか。
小泉 なぜそれだけでは儲からないかというと、金型メーカーは長い年月をかけて人材を育てなければならないから。投資金額が非常に高いんです。だからファンドが金型メーカーを買って、すぐにそれを理解できるとは思えないです。
千葉氏 「これはできない」は成立しない
司会 そうなると、M&Aも金型メーカー同士の方が上手くいくケースが多いのでしょうか。
小泉 技術が育つまでオーナーが見られるか見られないかで大きく変わってくると思います。採算性だけを考えたら、金型技術を育てるのは難しいですから。
千葉 難しいのは技術だけじゃないと思います。最近よく営業に、サービス業だと思えと言っています。すべて丸投げで仕事を受けることがよくあるんです。信じられないようなことも受けたりします。
ただそうしたことも全て引き受けて、その分の対価をもらえばいい。今までみたいに、あれはできます、これはできませんでは成立しなくなってしまいます。
▪︎意識改革の重要性
司会 一般的に製造業では原価を積み上げて価格を決めているケースが多いと思いますが、そうした考えを変えた方がいいということですか。
千葉 そういう考え自体をなくした方がいいかもしれない。日本に発注するということは、日本の高い技術が買いたくて注文するのだから「自らが売りたい価格」を決めていいと思います。原価の積み上げだと、新興国に勝てないですからね。
司会 意識の改革が必要かもしれないですね。
小泉 営業活動なんかもそうだと思います。今はユーザーから「仕事を頂く」という営業活動が主流ですが、「仕事が自然に自社に流れてくる」仕組みに変えていく努力をすべきだと思います。
※次号に続く
金型新聞 平成28年(2016年)2月10日号
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