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進化する技能伝承【特集:技能伝承最前線】

金型メーカーやプレス部品メーカーがデジタル技術や暗黙知の定量化による技能伝承にチャレンジしている。MR(複合現実)によるマニュアルで新人が経験者並みの作業をできたり、トライ結果を蓄積し改善方法を導きやすくしたり。熟練技能者の高齢化や労働人口の減少で人手不足が加速する中、新たな方法で課題を乗り越えようとしている。

タイメック

トライ結果を蓄積

プレス試作品メーカーのタイメックは、試作品開発における失敗や成功の原因を報告書に残す。ベテラン技術者の暗黙知を定量化し、経験の浅い技術者も改善方法を導き出しやすくしている。

報告書は、トライで起きた金型のかじりや焼けなどの状態とそれを改善した方法を数値や図解、写真で記録する。約150の事例を蓄積。これを金型設計チームで共有して活用する。

タイメック 報告書を活かし改善方法を導き出す

タイメックが手掛ける試作品は、自動車や農機、建機など業種が様々で、外装部品や構造部品など形状や大きさも幅広い。1カ月に実に150‐200の金型を作り、試作品を開発する。

報告書を始めたのは今から3年前。似た形や加工の試作品で同じミスを重ね、課題解消をベテラン技術者のノウハウに依存する。その状態を改善するためだ。

成果として感じているのが、似たミスの削減と、若手技術者が高度な金型設計の技能を習得していること。営業本部の剣持正人次長は「今後は報告書を体系的に分類し改善方法をより正確に早く導き出せるようにしたい」。

キョーワハーツ

基礎作業のノウハウ動画で

精密プレス部品やその金型を手掛けるキョーワハーツは、基礎的な作業で心掛けたり身につけたりするべき技能を動画で伝える。プレス加工や金型づくりの経験がほぼ無い新入社員への基礎学習の教材として役立てている。

動画は、プレス機に金型をセットする際のスパナの正しい使い方や、金型を持ち上げる時のコツなど(全約20種類)。ベテラン技術者が作業する様子を撮影したもので、新入社員は社内共有した動画をスマートフォンで閲覧できる。

キョーワハーツ スパナの締め方の教育動画

動画の教材を社内で作り始めたのは2010年頃。それまでの文章のマニュアルは新人にはイメージしにくかった。しかし動画は身体の動きやその前後のプロセスがあり理解しやすい。坂本悟社長は「新人の基礎教育に役立っている」と話す。

永井製作所

MRゴーグルに作業手順

MRを活用したマニュアルで未経験者でも作業ができるように取り組みを進めるのが永井製作所(群馬県邑楽町)だ。一昨年から群馬県産業技術センターや電通総研(東京都港区)の支援を受け、MRゴーグルに三次元(3D)モデルや作業手順を表示し、金型の組み付けなどの作業が行うことができるシステムを開発している。

作業者はゴーグルに映し出される手順を見ながら作業ができ、作業内容を映像で記録することもできる。オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)に頼らず、金型の組付け作業など属人的な作業を効率的に伝承するツールとして活用できる他、測定工具と連携させ、測定値や作業内容を記録することで、トレーサビリティの強化にもつなげることができる。

永井製作所 属人的な作業を効率的に伝承できる

開発したプロトタイプは、プレス金型の穴にピアスパンチを差し込む作業の手順が分かるもの。今後は抜きや絞りなど基本的なモデルを10種類ほど用意し、まずは教育で活用していく考え。

永井慎也社長は「これまでの“見て覚えろ”といった教育や紙での指示だけでは若手は付いてこない。楽しんで仕事に取り組める環境をつくることが未来につながると考えている」と話す。開発を進め、2年後の実用化を目指している。

金型新聞 2024年8月10日

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