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拡散接合技術で3D水管を自由に設計 特殊電極【金型テクノラボ】

ダイカスト金型などで、自由な形状に水管を設計・制作し、金型の冷却効果を高める技術が注目を集めている。自由水管の製作手法として金属3Dプリンタがあるが、拡散接合技術もその有力な一つだ。本稿では、スロベニアのHTS IC社が開発したMFT(金属融合接合)技術を生かした、「iTherm3D製品」の効果や実用例を紹介する。

はじめに

iTherm3Dは日本の特殊電極と販売・技術提携しているスペインのALROTEC社が販売する3D冷却部品。ALROTEC社はEU域内で活動するHTSグループのメンバーで主にダイカストプランジャー製品を取り扱う。iTherm製品は、そのHTSグループの一つであるHTS IC社が開発した。同社はハイプレシャーダイカストや射出成形用のコンポーネントを設計製造、シミュレーションを得意とする。また、工具鋼の販売、機械加工、熱処理、研究開発などを専門とするため、ダイカスト分野における高い開発力を持つ。

その代表例がMFTといわれる技術で熱間工具鋼の拡散接合を行うもの。大きな特長としては、工具鋼のモノブロックに匹敵する強度特性を有する金型部品を製造することができる。

【図1】サイクルタイム19%減少、寿命を2倍にした iTherm3Dの事例

MFT技術の製造プロセス

MFT技術を使用して iTherm3D製品を製作するプロセスを紹介する。①まずは用途に適した工具鋼の材料を選択する。②3D冷却回路および組付けのための複雑形状へ機械加工を行う。③そして複数の組付けられた部品を専用の装置で拡散接合するというシンプルな工程だけ。

接合後の複雑な切削加工も必要ない。その結果、工具鋼モノブロックに匹敵する強度と耐久性を備え、最適な冷却内部回路を有した冷却部品の製作ができる。

3Dプリンタ部品との違い

3Dプリンタでは冷却回路の表面粗さがRa20μm以上となるのに対し、iTherm3D製品では冷却回路の表面粗さがRa5μm以下に抑えられる。これにより、冷却水の流れがよりスムーズになる。また、表面粗さが小さいため表面積が小さくなり、スケールの発生やそれに伴う内面を起点とする割れ発生が低減できる。

サイズは最大 W600 x H600 x L900mmまでの製造が可能で、熱間工具鋼モノブロックの機械的特性と同等レベルのものが得られる。一方で、3Dプリンタ部品の強度特性は、金属粉末を使用する製法のため、熱間工具鋼モノブロックのレベルには到達しない。

【図2】機械特性は熱間工具鋼モノブロックと同等

MFT技術の利点と事例

こうした特長により、MFT技術はダイカスト製造におけるいくつかの鋳造上の課題を大幅に改善できる。その中で最も重要なのは冷却性能の改善。ダイカスト製造のサイクルタイム短縮、ビスケット凝固時間の短縮、ポロシティーの改善、鋳造部品の品質改善などさまざまな要因に対して良好な結果をもたらす。

性能評価は実績がその証左といえる。すでに欧州では、従来の冷却穴の機械加工部品(ドリル加工)から、 iTherm3D製品に置き換えられた多数の実績を持つ。

また、iTherm3D製品は、部品内で必要とされる場所に、必要な冷却を設計することを基本とする冷却回路形状が特長。そのため、冷却回路全面積は従来の機械加工部品と比べて一般的に大きくなり、冷却性能が大きく向上することになる。それぞれの用途アプリケーションに合わせて、最適な冷却回路形状設計ができる。

実績例として、図1にiTherm3D製品のショットブロック部品を示した。2つのバージョンが設計されているが、各バージョンともサイクルタイムが大幅に減少している。2番目のバージョンでは、従来の機械加工部品と比較して、サイクルタイムが19%短縮、寿命が 2 倍となっている。

最後に

このようにMFT技術を活用したiTherm3D製品は、ダイカスト業界における金型設計者の自由な回路設計に対応することができる。これにより、従来の金型設計、鋳造方案を大きく変える可能性を秘めている。SDGs(持続可能な開発目標)を含めた、次世代ダイカスト技術に大きく貢献できると確信している。なお、日本国内でのMFT技術を活用したiTherm3D製品の相談や、供給、技術サポートは特殊電極が対応するので、お気軽にお問い合わせ頂きたい。

特殊電極

  • 執筆者:自動車室部長 松野  茂弘氏
  • 住所:愛知県名古屋市名東区藤里町2105
  • TEL:052-776-7020

記者の目

ダイカスト金型をはじめモールド系の金型では、冷却効果を高めることは永遠の課題。近年では、自由水管を造形できる3Dプリンタでの活用が広がりつつあるが、拡散接合も有力技術の一つだ。拡散自体は古くからあるが、アプリケーションや技術は進化していることから、今後も注目していきたい(山)。

金型新聞 2023年2月10日

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