EV化などによる金型需要の変化やAMをはじめとする新たな製造技術の登場など金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型メーカーには今後も事業を継続、成長させていくため未来を見据えた取り組みが求められてい…
金型メーカー座談会 若手経営者が語る
ー業界の魅力高めるためには 第一部ー
エムアイモルデ
宮城島 俊之社長
ヘッドライトなど自動車関連が主力のプラスチック金型メーカー。従業員は5人。本社は静岡県富士市だが工場は中国蘇州にあり、日本で製造はしていないが、日本人が常駐し「日本品質」で提供する。プレスの昭和精工と提携し、FB型のパンチやダイも加工するほか、日本本社では3Dプリンタも導入し、開発の段階から参入を狙う。
サイベックコーポレーション
平林 巧造社長
長野県塩尻市で、金型開発からプレスの量産まで行う。従業員は82人。自動車関連が主力だが、最近では医療関連にも参入した。強みは順送プレス工程内で冷間鍛造を行い、プレスで複雑な3次元形状の部品を作るCFP(冷間鍛造プレス)技術。生産は国内だがドイツを中心に海外へも市場を広げている。
チバダイス
千葉 英樹社長
金属歯車やプラスチック歯車、それを作る工具や金型を製造。従業員は30人。創業80周年、設立50周年を迎える。プラスチックが6割、金属が4割程度。製造は国内だが、ドイツなどの展示会にも出展し、外需を取り込む。プラスチック・ギヤ・システム研究所も持ち、歯車の騒音や強度試験なども行う。
ペッカー精工
小泉 秀樹社長
埼玉県東松山市に本社を持つプラスチック金型メーカー。従業員数は54人。スマートフォン、自動車、医療、雑貨、住宅建材など幅広い金型を手掛け、特化しないのが特徴。工業デザインや3D造形などを手掛けるグループ企業4社を持ち、デザインから提案でき、量産手前までを請け負えることが強み。
金型の需給ギャップが改善している。経済産業省の統計によると、1998年と2013年と比べると生産額では7割程度に減少した一方で、事業所数はそれ以上の6割にまで減少している。加えて、この数年は円安で国内回帰も一部で進み、業界の回復も少し力強くなっている。新春恒例の座談会では、日本金型工業会東部支部の若手部会「天青会」の若手経営者に、今の状況を踏まえ「今後も日本の金型産業が魅力的であり続けるためには」をテーマに語ってもらった。後継者問題、人材育成、発想の転換の重要性など業界としての課題が示された。
司会 まずは金型業界の課題を明らかにしたいと思います。この5年から10年での大きな変化や課題を教えて下さい。
宮城島 パートナー企業が親会社に身売りしたり、ユーザーが工機部門を閉じたり、中国の金型メーカーがコンペに参入してきたりと、混沌とし始めたのが10年位前だったと思います。今に至る業界の変化が出始めた頃だった気がします。最近の変化だと数年前は8割程度が北米やインドネシア、欧州など海外工場向けだった金型が、今年に入ってからは日本向けが増えてきていますね。
司会 日本に戻ってきているということですか。
宮城島 単純にそうは言えないですね。自動車業界では、A車は北米で売る、B車は日本で売るというように販売国が決まった段階で自動的に生産拠点が決まっています。だから、今年になって日本で作って日本で売る車が増えただけかもしれない。ある自動車メーカーの一車種だけは、為替変動によって国内生産のほうがメリットがあるということで日本に戻った金型もありますが、そうでない車種もたくさんあるので、単純に日本に戻ってきているわけではないですね。売る所で作る方針は変わらないと思います。ただ、最近は日本の金型が一番使いやすいとユーザーも分かってきているので、日本が主体となって発注して日本のメーカーを通して金型を調達するスタンスはあまり変わっていないと思います。
司会 しかし、宮城島社長のところは中国で作っています。
宮城島 工場は中国にですが、中国で営業しているわけではなく、あくまで95%が日本で営業をしています。だから、中国で作っていても日本流のものづくりをしっかりできれば、受注は取れるという感覚はあります。
千葉 私の周辺でも、量産を海外から戻しているユーザーはあります。ただ国内で対応できる企業があるかというと優秀な企業はみんな仕事が一杯でやるところがない。一方で仕事がない会社もあるので、ユーザーも仕事を出せるだけの技術や能力のある先を見つけられない状況かもしれません。受け側のキャパや設備、人の問題などもあると思います。そんな状況を考えると、企業にとって継続していることが一番大事です。いい時は驕らず、悪い時は何とかやり過ごせるような基礎体力をつけて、長く仕事を大事にやっていくことが必要だと思っています。
平林 宮城島さんも指摘されたように国内回帰という話が出ていますが、自動車業界は、ユーザーの調達方針を聞いていると、国内生産数量はほとんど変わっていない状況です。現地で売るものは現地で作るという流れは変わらないと思います。それより調達の考え方が大きく変わってきていると思います。
司会 具体的にどういうことでしょうか。
平林 ユーザーは部品作り、つまり調達段階で競争力のある製品を作り込んでいきたいという思いがあるので、調達先に設計者が入って商品開発をしています。だから、中小企業も商品開発力・提案力のあるメーカーでないとビジネスにならないし、国内外のユーザーでもそれは変わらないと思います。逆に言えば、提案力や技術開発力のある企業は、十分に海外のユーザーとビジネスできるチャンスを切り拓けるはずです。そこが大きく変わってきたところだと思います。
司会 金属プレス業界では何が変わったと思いますか。
平林 リーマンショック後は、簡単な順送プレス型は海外でもできるようになっています。そこで、海外と差別化を図るために、当社のように切削品からの工法転換といった高付加価値製品を作り出すというメーカーが増えてきています。だから我々はさらにプラスアルファの技術を磨いていかないといけない。現状に満足してしまっては、成長は止まってしまいます。常に先に進むことが求められています。
▪︎ユーザーの変化
司会 ペッカー精工さんはユーザーに近いところで仕事をしていますが、変化はありますか。
小泉 平林さんの指摘のように、ユーザーが技術力をはじめ多くのことを我々に求める傾向は強まっていると思います。リストラの影響もあると思いますが、大手企業で製品や部品の企画力が低下していて、その分を中小企業が担うことが増えているように思います。従来なら自社で作っていたものを中小企業から調達し始めていますし、残念ながら大手の企業体力が落ちてきている気がしますね。
宮城島 確かにそうした面はあると思います。全世界で車を作ろうという目標に対して、人が足りなかったり、品質や法規の関連でやることが増えたりして対応できていないことが多いいですし。設計者が足りなくて派遣会社や設計委託会社に頼んでも、そこも人材不足なので、納期遅れや大幅な形状変更が昔より増えた気がしますね。
司会 平林社長はどうお考えですか。
平林 大手企業の設計者で、我々のような素形材分野まで網羅している人は少ないと思います。我々が持つ専任のスキルを使って、商品力の高い製品を作り出したいという考えが大きいのではないかと思いますね。
司会 素形材を知っているという事が金型業界の強みだと言えますね。
平林 それが我々の強みで、そこで差別化していくしか方法はないと思います。
▪︎後継や若手の課題千葉氏 アナログ技術教育が必要
司会 ほかに変わったことはありますか。
小泉 業界で一番変わったというか、問題は仕事の有無ではなく、継ぐ人がいなくなったということ、つまり後継者不足が一番の問題だと思います。大手金型メーカーも継ぐ人がいないからM&Aを受けていますよね。買収する大手からすれば金型の内製化ですけれど、実際は後継者がいないから買収されてしまっているんですよ。町工場だと2代目は「やらない」っていう人が多いのが実情で、残念ながら、他の仕事の方が魅力的で継承しないという現状もあります。
司会 若い人材の育成や確保も課題ですよね。
小泉 少子化が進む中で、金型屋に就職する人はほとんどいないですよ。工業高校でも情報管理科といってゲームソフトを作ったりする学科に人気が集まって、工作機械を動かすようなところは人気がないです。そんな状況では、採用条件でも、年間休日も大手に合わせて120日以上を出さないと来てくれないですよ。
司会 納期が急な金型は、休みが多いと回らないこともありますよね。
小泉 その通りです。だから、ギリギリの105日とかにして、給料は高くしなければいけない。年間労働時間=加工時間にもなるので、減らすことはできないですし。だから、ユーザーはベトナムなど日曜日しか休みがない国に仕事を出すことになるんだと思うんです。
司会 労働条件や環境も変化してきているんですね。
平林 当社はドイツのユーザーとやり取りしていますが、休日になると、仕事そっちのけで音信不通になってしまう。それでよくイノベーションを起こせるなあと不思議に思う時があります。
小泉 問題の一つは休みが多くなると、それが当たり前になることです。一方で我々は、過酷に土日も出勤して納期に間に合わせるという状況になってしまう。年配の人は休まず働いて納期に間に合わすという事に慣れていますが、そんなことをしたくない若い人は多いはずです。
司会 どうすればいいでしょうか?
小泉 中には、ものづくりが好きで金型メーカーに来ている若者もいて、当社はそういう人を毎年採用しています。しかし金型業界全体で見れば、設計など上流をやりたい人は多いけれど、製造に就く人は少なくなっていますよ。
▪︎人材育成宮城島氏 ものづくりの領域広がる
司会 千葉社長の所の課題は何でしょう?
千葉 人材教育に一番力を入れていながら、一番うまくいっていないことですね。昔は、先輩が「お前、これじゃダメだぞ」って教えていたのが、そういう個性を持った人は減っています。習う方も「背中を見て覚える」という人材は少ない。昔は10人採用したら8人はそういうことができましたが、今は先輩の仕事を盗み見て勝手に覚えるタイプの人は1人いるか、いないかじゃないかな。だから割り切って、今の人に合った教育をしていこうと試行錯誤しています。
小泉 教える人はアナログで、習う人はデジタルという状況になっているんですよね。
司会 そのギャップはどのように埋めるのでしょうか。
小泉 汎用機の時代とNC化された今では大きく作り方が違います。教える方はコンピュータ化されたことは教えられないし、習う方もアナログが面倒だと感じてしまっています。でもアナログはすごく大事。カッターを研げないときれいな面は出ないし、そういう部分は習わないといけない。アナログとデジタルの融合を進めていかないととんでもないことが起きると思いますね。
千葉 私はデジタルな部分はあまり心配していないんです。CAD/CAMなんかやらせると若い人は早いですし、むしろアナログ教育が心配ですね。例えば油砥石で磨く作業で、怪しい手つきで砥石を当てていたりする。そういうことも先輩が通りがかりに「こうやるんだ」と教えてくれればいいけれど、「油砥石のかけ方」という教育プログラムを作らないと教えないですからね。
小泉 アナログの仕事をやってこずに、いきなりデジタルに入っているので、自転車に乗れないのにいきなりバイクに乗るようなもんでしょう。
宮城島 習う人は分からないから仕方ないですが、教える側にも問題があると思いますね。
千葉 教える人は知っているのに教えないんですよ。教えることができる人もいますが、うまく教えられない人や、教えることを忘れてしまう人が多いですね。
宮城島 それは何歳くらいですか。
千葉 教える方が30歳超で、教わる方が20歳前後。人に教えたり、人にやらせたりすることが嫌で、自分でやるという人が多いです。
司会 人の育成や採用、後継者は普遍的な問題ですね。
千葉 千葉さんが先に言ったように、「継続は力なり」で、人が育たないと企業はなくなってしまいます。この間も大手メーカーの金型部門で工業高校から10人採用しようとしたけど、一人も応募がなかったらしいですよ。
平林 金型を学生時代に学んできているかというと、今なら大学で金型を学ぶことができるけれど、私たちの時代は学科もなかったので「ものづくり」という大きな概念で金型業界に入ってきています。だから物を作るという楽しさを伝えて、魅力的な市場にしていかないといけない。
宮城島 ユーザーも以前は社内で研究開発をやっていましたが、今は作りたいものがあった時に自社で作らず、作れる技術のある企業を探していることも多いです。だから、我々のものづくり領域は広がっている気がします。実際、昔は金型だけ作っていれば良かったのに、今は提案も試作もしますしね。金型メーカーとしての仕事の内容は今の方が充実しているかもしれない。ただ残念なのが、金型メーカーがなければできない物が増えているのに、金型がものづくりとして魅力あるように若い人には映りにくいですよ。
小泉 ヒーローを作ればいいんですよ。そうでもしない限り、業界に若い人が就職してこないですよ。就職はその企業に対して夢を持ってくるわけだし、将来的に「俺もこうなりたい」と思って入ってくるわけですから。
▪︎人材の採用
司会 採用はいかがでしょうか。
小泉 「好きこそものの上手なれ」で、そういう人に一から教えてやらせる方が絶対いい。うちは去年採用したのが農業高校で、その前が商業高校出身でした。
司会 ものづくりをしたいと言って入社したんですか。
小泉 もちろんです。
平林 当社もそうです。ものづくりがしたいと言って来る人を採用しますね。
千葉 昨年は4人の新卒を採用できましたが、今年は2人しか採用できませんでした。大手の就職活動の時期が変わったのが影響しましたね。
平林 10年ほど前は全く人が集まらなくて、就職イベントで学生が誰も来ない時期があって大変でしたが色々工夫した結果、企業説明会で立ち見が出るくらいまでに増えたのです。けれど、ある日「この人達は本当に入りたいのかな」と感じたんです。小泉さんが言うように、我々の仕事は「やりたい」っていう人が一番伸びる。だから人集めのための活動をやめました。今は松本山雅FCのスポンサーなどをやったり、大学の先生と繋がったりしています。そうした付き合いの中から「サイベックに入りたい」とか、地元のご両親から「うちの息子・娘を入れてほしい」という問い合わせがあります。数は少なくなったけれど、本当に入りたい人を選べるようになりました。3年前からホームページ上に問い合わせてくる「本当に入りたい」という人のみを採用しています。
司会 学校の求人には出さないのですか。
平林 高校生は1回しか面談の機会がないので、高校生が必要な時には求人を出していますが、大学にはあまり出してないですね。
小泉 当社はインターンシップですね。インターンシップだと、興味があるかどうかわかりますし、そういう人に声をかけています。
▪︎投資への考え方
司会 どのような基準で投資したり、設備を選択したりするのか考え方を教えて下さい。
平林 当社は積極的な大型投資を行いました。経営の分析をされている方から言わせるとありえない額で「どう返済していくつもりですか」とよく言われます。でも、起業家はそこまで細かく分析して投資するわけではありません。リスクを背負って、夢へ投資をするわけです。数字だけで言い表せません。私の場合、二代目ですがこの大型投資は起業化の精神で決断しました。
千葉 うちも今年だけで12台設備を導入しましたが、償却のことは一切考えていません。なぜなら、育つのに時間のかかる仕事だから。これでいくら儲けようとかではなく、精度を一ランク上げたいとかの方が重要だと思います。
小泉 こうした考え方が金型メーカーのオーナーだと思います。減価償却とかを考えて目先だけ見ていては、将来への投資ができない。
司会 売上の5%とか10%を投資に回すなど定期的な投資をいう考えもあると思うのですが…。
小泉 面白そうだなと思って欲しければ投資しちゃいますね。
平林 当社は売上の1・5倍投資したこともあります。この機械があればあの技術に転用できるなとか、可能性が広がると思ったら積極的に投資しますね。次に花咲く要素技術だなと判断したものにも積極的に投資しています。活かされる時は必ずくると思いますから。
宮城島 綿密に計算していたら機械なんて怖くて買えないでしょうね。外注していた仕事を、外注費と設備費を比較して、これだったら機械買った方が良いから設備しようということもありますが。
小泉 うちは朝礼で、「この機械買ってきたけど、やりたい人間はいるか」って従業員に聞いたりしますよ。
千葉 うちはいまだに誰も動かさない機械がありますし。
平林 世の中にこの機械があるのに、それがないがためにできないという状況にはなりたくないですね。この機械があるから、うちの差別化になるというものには積極的に投資をしたいですね。
小泉 度胸じゃないけど、思い切りがないと金型メーカーの経営はできないと思います。
宮城島 実際、この設備を入れたからこの仕事を出すよっていうユーザーはいないです。仕事を受ける側としたら、いざという時のために武器は持っておきたいし、断るのはもったいない。あとからいくらでも仕事はついてきますから。
平林 今、中小企業の支援政策として、多くの補助金が出されているので、活用させていただいています。毎年返済するお金がある中で、成長のために投資もしていかないといけないので、補助金制度は大変ありがたいです。
※次号に続く
金型新聞 平成28年(2016年)1月10日号
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