ギアやシャフトなど自動車部品の冷間鍛造金型や精密プレス金型を手掛けるナゴヤダイス(名古屋市緑区)は金型製作における技術やノウハウのマニュアル化(言語化・数値化)を図り、若手の技能伝承や人材育成に活用している。20~30代…
―成形をゆく―
佐藤金属工業(堺市堺区)
3~6㎜の板厚を3次元成型するところに得意技術を持つ。3、4工程掛かる鍛造加工を順送加工にする、切削加工をプレス加工に置き換える、焼結やダイカストをプレス加工する…など工法の転換を図りコスト削減、納期短縮、高精度部品加工を提案する。ところが佐藤金属工業は、そこに止まらない。「隣の国に負けへん価格で精度の高い成型品を日本で造る」(佐藤隆幸社長)ことでユーザーの心をとりこにする。幾つか見せてもらった成型品は凄い技術のものばかり。非公開という加工品は首を傾げる。「今晩の酒の肴に考えて下さい」と、佐藤社長は笑った。
成型品は、手のひらに収まる。材料はハイテン材かハイパーリンク材を含めた鉄で、板厚は6㎜まで。自転車部品と自動車部品が売上の約8割占める。絞り、抜き、曲げ、冷間鍛造(順送、単発、油圧)技術を駆使し、成型する。
設備機械は、300tのダブルナックルリンクプレス(アマダ製)はじめ300tサーボプレス(同)、200tサーボプレスなど大小28台を保有する。年間平均約100種類、1700万個という多品種中大量生産を行っている。一方で、受注の最低基準を1部品5000個以上としている。それ以下になると割高になる。
金型を内製する。「創業者である祖父が金型職人だった」ことが源流にあり、「金型を基盤」にして技術を磨いた。「成型加工がスムーズにできるかできないかは金型。その金型を核に、早く一番いい成型品をお客様に届ける」ことを強みにしている。
仕事の流れは、ユーザーから図面をもらい見積りを作成するところから始まる。金型代、材料費、レイアウト…の明細を作成しFAXを入れ、受注後に図面を検討し、直ぐに金型の作成に入る。初打ちし、1〜2回修正を加え、商品をお客様に届ける。「OKをもらい量産に入る」まで早い。この繰り返しが続く。
金型は、大小含め年間約20面製造する。単発4工程の大きさのものもあれば、順送1面(1400㎜)で16工程のものもある。それを現在5人の金型スタッフで造る。
主な設備機械は、マシニングセンタはじめNC倣いフライス盤、NCワイヤカット放電加工機、細穴放電加工機、平面研削盤などとCAD/CAMなど11台。「関西地域のいろんな業種のお客様と取引をしているが、金型は不思議なもので発注が重なることが多い。このため、仕事が溢れれば成型部門が金型の応援を、無い時の金型スタッフは次の成型品の開発をし、仕事の標準化を図る」。また、板鍛造は金型にとって過酷な工法になるためメンテナンスが欠かせない。「メンテナンスのできる人員と金型を一体化させる」ところにも気配りする。
数々の成型品
取材のキッカケとなったワークは、材質SPHCt3・2の順送による増肉加工(h=4・2)。輸送部品を想定した順送6工程で、「鍛造4工程を経なければならないところをコイルから順送にしたのがミソ」。3・2㎜厚の材料から1・5㎜に潰し(減肉)、100山のロレット加工をする。これにより従来工法に比べコストを3割低減したという。また、鍛造は位置決めが外基準になるため、位置精度が振れる。これに対し、順送は位置精度をパイロットピンで拾うため振れない。高品質にも繋がった。
細穴加工例もその一つ。右はSPCCt0・8の板厚でφ0・26の穴をプレスで抜き、左はSPCHt6・0に対しφ1・0の細穴加工例。特に右の成型品は穴が明いているかどうか分からないくらい小さく、左はt=φを超えた加工例。
また、展開不可能形状の試作加工品もある。
SPHCt1・6の部品は、窓部の幅が9・7㎜、曲げ部高さが10・5㎜。窓の大きさと立ち上がる板の高さが異なる。「板厚は変化していない。ならば立ち上がっているのはどこから出してきたのか。プレス加工と言うのでなく、自慢したい話し」と、佐藤社長。プレスを知っている人が見れば「ホー何やこれは」になるそうだ。手品にもネタがあるように、部品加工もネタがある。「今晩酒を飲みながら考えて見て下さい」と、言われたが今だ分からないままにいる。
最後に写真はご法度と言うかなり高度な成型品を紹介したい。文字にすることも嫌がられたが、同社の金型技能・技術の高さと成型加工技術の凄さをお伝えしたく、ほんの少しオープンにさせてもらった。
加工品は、溝付きピンの一体成型(社外秘)。板成形から4本のピンを立て、ピンの上部にそれぞれ2本の溝を付けた。「これはあるところに提案中。普通の鉄でも量産が難しい」代物と言う。角度を変えて穴の開くほど見ても、ピンの溝付けがさっぱり分からない。「こんなことをやっているプレス屋が堺にいることを覚えてもらえればいい」と佐藤社長。そして、「わが社は、常にチャレンジする。お客さんが次の開発の参考にしてもらい、その時に呼んでもらえる会社でありたい」とした。面白い会社に、また出会えた。
会社名:佐藤金属工業
所在地:堺市堺区南辺町5-152-5
創 業:1948年1月
設 立:1974年7月
資本金:2,000万円
代表者:佐藤隆幸氏
従業員数:23人
売上高:5億円
主要製品:自転車部品、自動車部品、民生用部品の金属プレス加工(板鍛造、精密せん断、順送加工)
主な取引先:シマノ、特殊発條興業、小川工業、モリ工業、三和バネなど
金型新聞 平成27年(2015年)11月14日号
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とみた・ひでし1999年慶応義塾大卒。システム会社での開発経験を始め、日本ヒューレットパッカードや日本オラクルでコンサルティング部門の部門長を歴任。直近では政府系ファンド出資のランドデータバンクの立ち上げに専務執行役員と…
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