金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

26

新聞購読のお申込み

企業と学生つなぎ交流の場をつくる 鳥飼祐介氏(経済産業省企画調整係長)【鳥瞰蟻瞰】

経済産業省 企画調整係長 鳥飼 祐介氏 

素形材産業の人手不足は、業界共通の課題です。製造業全体の平均から見ても、求人倍率が高い傾向にあります。中途採用や外国人労働者に頼り、人手を確保している企業が多い。

しかし、人手を確保できれば誰でも良いわけではありません。後継者の育成や技術の伝承が進まなければ、事業存続が危ぶまれます。これらを行うには、若い人材を長い期間かけて育てなければいけない。若手人材として有望なのが工業高校の新卒学生。純粋で素直な子が多く、教えがいがあるため需要は高いです。

一方、少子化の影響を受け、定員割れしている工業高校が軒並み増えています。学生に対し、倍近くの求人が出ており、採用競争は激化。中小企業が多い素形材産業は地元の大企業と比べ、学生に目を向けてもらう機会が少なく、採用に苦慮している企業が多いと聞きます。

また、工業高校生は鋳造や鍛造以外の素形材産業について学ぶ機会が少ないみたいです。例えば金型という言葉は知っていても、どのように作られているかは知らない。これでは進路選択の候補にも挙がりません。

このような現状を踏まえ、人材確保のサポートとして、素形材産業を知ってもらうことがスタートだと考えました。生徒が金型製作の魅力を知り、興味を持ってくれれば採用につながります。そこで、企業が製造現場の「ものづくり」を教える「出前授業」を始めました。

出前授業では企業が工業高校に訪問し、1コマ50分で授業を行います。教科書に載っていない製造現場の最新技術などを知ることができるため、多くの生徒は面白いと感じてくれているようです。

私の仕事は、企業と工業高校を「つなげる」ことです。出前授業をしたい企業の要望をヒアリングし、工業高校との交流の場を作ります。授業後のアンケートを取ると、継続的な交流をしたいという生徒の声は多い。このような機会を学校、企業の双方が求めていることを改めて実感しました。

進路を選ぶ際、高卒生は「一人一社制」という就職慣行があります。学校などの推薦により決められた企業に就職活動をし、採用されればそこにしか行けません。高校生は、学問を優先すべきであるという考えに加え、学校側の負担も踏まえた慣行であると理解しています。しかし、就職後のミスマッチも多く、厚労省などの資料によると高卒生の早期離職率は約4割と非常に高い。

私も工業高校出身で、学生時代は工業化学を学んでいました。私の学生時代も進路選びの際に得られる情報は少なかった。さまざまな企業の話を聞く機会があれば、もっと視野が広がったのではないかと思っています。

工業高校の後輩達には、普段学んでいること以上に多くの産業があることを知り、進路の選択肢を増やしてもらいたい。そして色々見聞きし、考えた上で本当に自分がやりたい仕事に就いて欲しい。その一助になればと思い、素形材産業と工業高校の交流を行っています。

人材確保のため、出前授業のような地道な活動も必要ですが、全体的な視点からも対策を考えなくてはなりません。サプライチェーンの中には、金型メーカーや成形メーカーなど複数の企業が存在します。同業他社が多くいる中、シナジーがある企業との事業提携、資本提携をし、人材交流や人材確保、技術の伝承をするのも一つの選択肢ではないでしょうか。

今の出前授業は企業単体の活動がメインですが、業界単位で取り組みたいと考えています。これにより、素形材産業の認知度向上を目指します。また、工場見学やインターンシップなど、活動の幅も広げたいです。さまざまな活動を通じて、素形材産業の人材確保につながるサポートを今後も続けていきます。

金型新聞 2023年2月10日

関連記事

「世界のオギハラ」再建<br>-長谷川 和夫社長に聞くー

「世界のオギハラ」再建
-長谷川 和夫社長に聞くー

米に工場、生産力強化  自動車ボディ向けプレス金型を手掛けるオギハラの社長が今年1月に交代した。新社長はアメリカ現地法人副社長の長谷川和夫氏。製造部門を経験し、長く海外畑を歩み、海外自動車メーカーの金型調達や開発にも携わ…

「顧客の課題をもっと聞きたい 専門部署を設立」牧野フライス製作所社長・宮崎正太郎氏【この人に聞く】

牧野フライス製作所は今年4月、6年ぶりに社長交代を発表した。6月に新社長に就いた宮崎正太郎氏は、就任後わずか3か月で増産体制の強化や開発テーマの絞り込みなどを相次いで発表。さらに、顧客の課題を聞くための部署を新設するなど…

この人に聞く2015 <br>製造業コンサルティング <br>O2(オーツー)松本 晋一社長

この人に聞く2015
製造業コンサルティング
O2(オーツー)松本 晋一社長

潜在する魅力引き出す 製造×サービスで価値を創造  プラスチック金型メーカーの安田製作所は今春、社名を「IBUKI」に変更した。昨年9月、同社を傘下に収めた、製造業向けのコンサルティング会社O2(東京都港区)の松本晋一社…

南海モルディ 金型補修を自動化【金型応援隊】

特殊鋼材料の販売や金型のメンテナンスを手掛ける商社の南海モルディ(22年9月に南海鋼材から社名変更)は、オリジナル製品「予熱くん」や「肉盛りくん」を開発、販売し好評を得ている。 「予熱くん」は、製造前の金型予熱、焼き嵌め…

鳥羽工産 甦れ!往年の名車たち【金型の底力】

「コロナ禍で航空機など需要が落ち込み、試作車市場も変化している」と語ったのは鳥羽工産の傍島聖雄社長。同社は金型製作(プレスや射出成形)から量産(少ロット)まで一貫生産体制を強みに、これまで自動車の試作型や試作車の製作、航…

トピックス

関連サイト