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DECEMBER

12

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新金型産業ビジョン
6つのテーマから金型業界の未来を考える

逆境乗り越え、攻め

需要の国内回帰広がる

 厳しい経営環境が続いてきた日本の金型業界。 しかし、 ここに来て円安によるユーザーの国内回帰や、一部で需給バランスが改善するなど、好転の兆しも見え始めた。 過酷な時期を乗り越え、経営体質の改善も図ってきた日本の金型メーカーが、守りから攻めに転じる業界の動きに迫った。

勝ち残った企業に商機

 日本の金型業界は残念ながら、縮小の一途をたどってきた。生産額のピークは1991年の1兆9575億円で、2012年には1兆1871億円と6割程度にまで減少。事業所数で見ても90年の13115事業所から12年は8344にまで減った。

 一方で、その長く厳しい環境は金型メーカーに変化をもたらした。コスト改革、 ユーザーへの営業強化、他分野への進出、海外展開、大手企業との提携など、各社各様のやり方で変化している。

 さらに追風も吹く。円安で電機メーカーを中心に大手ユーザーが国内での生産を増やす動きも見え始めた。日本の金型供給が減ってしまったがゆえに、需給バランスが改善しつつあり一部では売り手市場になっている金型もある。

 この状況を踏まえ、日本金型工業会では昨年、守りから攻めの経営へ変革を促す指針として、新金型産業ビジョンを策定。営業力、海外展開、周辺分野への進出、人材育成、研究技術開発、連携と6つのキーワードを軸に、インタビューや事例紹介などを通じ、守りから攻めに転じる金型業界の動きをまとめた。

テーマ1 海外展開
テーマ2 営業力
テーマ3 周辺分野への展開
テーマ4 人材育成
テーマ5 技術研究開発
テーマ6 連携・提携の推進

 


 テーマ1 海外展開  

技術を売り込む

企業連携でリスク減

海外進出、または海外企業との連携
輸送機械の海外事業所数

 経産省の海外事業活動基本調査によると、自動車業界(輸送機械)の海外展開はこの10年で急増した。2000年には1071だったが海外事業所が、12年は1950と倍増。自動車関連が約7割とも言われるほど、自動車依存が高い金型業界もこの動きと無縁ではいられない。

 日本金型工業会が14年に150社に取ったアンケートによると「海外進出、または海外企業との提携」の有無について、約30%が 「既に実施している」と回答した。「考えている」、「状況によっては考える とする企業が25%近くあり、5割以上が海外での前向きに考えている。しかし一方で、中小規模の金型メーカーの海外進出が難しいのも事実。新産業ビジョンでは、提携や営業拠点といった独自の海外展開を提示している。

 プラスチック金型の狭山金型製作所は「日本で金型を作り続ける」ため、ネットワークで海外との需要を取り込む。12年にシンガポール企業と提携。「金型は打ち合わせ、補修が必要なので売るのが難しい。技術ならば高く売れる」とし、提携先に技術供与しながら、市場を広げている。特徴的なのは決して価格勝負しないこと。「価値を認めて頂けことが前提。取引先も一人あたりのGDPが日本と同程度以上の国に限定している」という。

 プレス金型メーカーの昭和精工の木田成人社長は「軒先営業」と自社の海外戦略を表する。海外拠点を持つ企業と提携するなどして、設備使わせてもらったり、自ら投資したりして、金型の補修などを行う。中国、タイ、メキシコで体制を整えた。何より、独資で進出するのに比べ、資本が少なくて済む。3拠点の初期投資額は1億8000万円だという。ただ、「タイでは金型も作っているが、現地調達の要求が強まる可能性もある」と見ている。

 

 円安とはいえ、日系ユーザー企業の海外進出が減ることはなく、外需を取り込むことが課題だ。いきなり海外展開となるとハードルは高くなるが、やり方はある。


  テーマ2 営業力  

小出製作所 小出悟社長に聞く

想定を超える提案を
小出社長_R

 金型メーカーの営業力の強化とは。 「複合的にレベルアップを図ることが必要」 と言う日本金型工業会の総務財務委員長で中部支部長も務める小出製作所の小出悟社長に、 金型メーカーの営業力について聞いた。

ノウハウ生かし海外も

人材育成がカギ

―小出社長が考える営業力とは?
 「顧客の想定を上回る金型やコストパフォーマンスを提供することだと思います。 そのために当社としては大きく2つの舵を切りました。 一つは海外進出。 日本の顧客だと国内金型メーカーとの競争が厳しく、 価格競争に陥りがち。 海外なら、 価格は高くてもメリットを感じてくれるお客様がたくさんおられます。 韓国に加えて中国やインドに進出し、 近くバングラディッシュにも事務所を設ける予定です」。

―もう一つは?
 「自動車のエンジンブロックやミッションケースのような大物に特化することで、 どこにでもできない技術を持つことです。 量産メーカーの立場になって、 他社にできない金型をつくる。 金型には銘板が付いているので、 人づてに小出製作所の名前が広がり、 声がかかるようになる」。

―どちらの戦略も人財が必要です。
 「海外では金型だけでなく、 材料や熱処理、 成形までのノウハウを聞かれるため、 それらに答えないといけない。 トータルで提案できる人が必要です。 そのために教育は重要ですし、 鋳造知識のある人を採用し、 語学力の問題をクリアするために中国人を採用するなど工夫しています」。

 

―営業力を強化するには。
 「新金型産業ビジョンのキーワードにある①海外展開②周辺分野への事業展開③人財育成④技術研究開発⑤連携・提携の推進…をトータル的に底上げすることが営業力強化につながると思う。 そのためには人間力の向上がカギ。 人の質が上がれば組織力や技術力も向上し、 複合的な優位性を築けるでし
ょう。 海外に目を向ければ仕事は無尽蔵にある。 商社を使う、 展示会に出展する、 現地に事務所を作る…などできることから始めるべきだと思います」。


 テーマ3 周辺分野への展開  

部品加工や自社製品

もう一つの柱で競争力

周辺分野 写真_R 日清精工 写真_R
▲左:一体型エルボ 右:アイフォンやつけまつげのケース

 金属部品の加工や部品の成形、 自社開発の製品―。 金型メーカーが金型づくりで培った技術やノウハウを生かし新たな分野への展開に挑戦している。 主力の金型とは別の事業の柱に成長させて競争力を高めたい考えだ。

 中辻金型工業はプレス金型を手掛ける一方で、 部品の成形や機械加工の依頼も受ける。 数年前から 「金型屋のしないことをやろう」 (戸屋総括部長) と方針を転換。 「金属加工のお困り事を解決」 をテーマに取引先企業や個人の要望に応える。 今ではホームページから見て問い合わせてくる企業も多いという。

 鍛造金型やプラ型などを造る野田金型では、 独自開発した切削一体型エルボで航空機部品の市場開拓を目指す。 一体型エルボは、 従来のエルボと比べて耐久性に優れ、 プラントの配管などに採用されてきた。 国内外の展示会にも出品し最近は航空機関連企業から注目されているという。 堀口社長は 「金型メーカーの高い加工技術があれば部品加工にも参入できる」 と話す。

 

 一方、 自社製品を開発したのは日清精工。 「BtoCへと舵を切ろうと思った」 (岩谷社長) とプラ型の技術を生かして、 製品デザインに知識を持つ女性スタッフを中心にオリジナルのつけまつげケースを開発。 当初は美容院などに売り込んでいたが、 あるきっかけでアイフォンケースも造ることに。 今後は、 販売ルートの開拓も視野を入れているという。


 テーマ4 人材育成  

大学に金型学科

岐阜大など実習で次代育てる

 新金型産業ビジョン及び金型業界で課題と言われている 「人材育成」。 一人前の職人になるには10年以上かかると言われる中、 各大学では、 職人になるための基礎技術作りが行われている。

 岐阜大学は平成18年に金型創成技術研究センターを創設。 工学部4年生から金型製作を学べる場となった。 まず金型製作の基本を座学と実習で学び、 修士課程2年間は継続的に実習と金型理論を学ぶ。 実習では設計から機械加工、 成形まで金型から製品になるまでの過程を経験させ、 卒業後、 学生達が製造業で働くための基礎固めを行う。

 工学部の機械工学科の山下実教授は 「金型作りは一長一短ではできないが、 基礎を教え込む役目が大学だと思っている」 と述べ、 学生金型グランプリなどを通じた実際の金型作り、 産官学連携の技術開発に携わるなど、 金型業界への貢献を図っている。

 

 そのほか、 岐阜大学は地域に貢献することを標榜にし、 岐阜県金型工業組合が昨年提携した大韓民国光州特性化高等学校との国際インターシップにおいて、 現場学習を実施するなど、 地域貢献も深めている。


 テーマ5 技術研究開発  

一体成形、ハイテン

ニーズ先取りで需要開拓

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▲ファンの一体成形品

 日本の金型メーカーが世界で戦うには、 付加価値を生み出すための技術研究開発は不可欠だ。 近年では、 炭素繊維強化プラスチックや、 1GPa以上の高張力鋼板などの新素材が出てきており、 それらを最適に成形する技術を追求する企業も多い。

 このような新技術への投資も大切だが、 新産業ビジョンでは 「市場獲得を第一義に考えた技術開発」、 つまり市場ニーズに合致した研究開発の重要性を指摘している。 海外メーカーでは真似できない超多数個取りの金型や、 複雑形状を一発で成形する金型などはその最たる例だろう。

 日本の金型メーカーもそうした技術開発への挑戦を続けている。 一つの指標となるのが、 戦略的基盤技術高度化支援事業 (通称サポイン事業) での採択件数だ。 過去5年間での累計採択数は824件あり、 うち 「金型開発」 を主たる文言にするのは59件。 全産業のなかでの割合は相対的に高い。

 2011年に採択を受けたプラスチック金型メーカーの松田金型工業 (東京都荒川区) は、 ブロワーに使われるファンの一体成形用金型を手掛ける。 従来はファンの構造上、 一体で型を取るのが難しかったが、 ユーザーのニーズを受けて開発に取り組み始めた。 現在では4種類の製品を開発し、 特許も取得。 ブロワーメーカー各社で採用が進んでいる。

 

 松田正雄会長は 「画期的な製品が生まれにくい時代と言われるが、 既存の製品でもさらに高い性能を求める声は多い」 と話す。 これから先、 金型メーカーが生き残っていくためには 「そうしたニーズに合わせて、 日々工夫し、 新しい提案をしていくことが強みになる」 と市場ニーズに合わせた技術研究開発の重要性を指摘している。


 テーマ6 連携・提携の推進  

ユーザー、同業者と技術交流や営業に力

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▲会員がIPFに共同出展

 新金型産業ビジョンで 「サプライチェーンを有効にするための連携や提携」 を推奨している。 特に 「縦」 と 「横」 両面での連携を強調。 「縦」 とは、 金型から部品、 組立、 顧客へとつながる軸で、 「横」 は、 金型企業同士のつながりを指す。

 前者で言えば、 昨年末三井化学のグループに入った大型プラスチック金型の共和工業などが最たる例だろう。 両社は素材と金型のノウハウを擦りあわせ、 互いの顧客である自動車業界に付加価値を提案する。 自動車メーカーから資本を受け入れたり、 成形メーカーと組んでユニットメーカーに売り込んだりするのも、 全て 「縦」 の連携を強化する動きだ。

 一方で 「横」 の連携も広がる。 金型メーカーが集まる日本金型工業会の存在そのものも、 ある意味で連携だ。 最近はそこから派生し、 様々なつながりが生まれている。

 例えば昨秋開かれた国際プラスチックフェア (IPF)。 日本金型工業会のブースには5社が共同で出展し、 日本の金型をPRした。 また埼玉では金型やプレスメーカーなどがチームを組むなど、 全国各地でそうした動きは広がっている。

 横の連携は海も超える。 池上金型工業のメキシコ法人のイケガミメキシコの工場には、 昭和精工、 エムエス製作所など異なる業種の金型メーカーが集まり 「金型長屋」 を展開している。


金型新聞 平成27年(2015年)4月14日号

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