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金型メーカー座談会<どうなる2014年 どうする今後の展開003>

経営者が語る
精密加工や新分野に挑戦

2月10日号のつづき

司会 次年度には設備投資の一括償却が可能になるという話も出ていますが、投資計画に変更などありますか。

鈴木 毎年の積み重ねが重要ですからね。日本でどのようにものづくりを継続していくかを考えながら投資も考えています。

司会 日本で作るということは自動化などの投資になるのですか?

鈴木 金型製作には人が関与する部分が多く、単なる自動化のためではなく、いかに安く早く製作できるのかが重要です。中国で作れる金型もありますし、日本でやらなきゃいけない金型もある。となると、日本で作り続けるためには短納期で難しい仕事を受けていくしかありません。そのためには最新の設備に更新していき、工数削減と高精度を追求していくことが必要です。

司会 利益の何%など基準はあるんでしょうか。

鈴木 今期の業績を判断しながら、最終的には、経営者の勘と言うことになると思います。

渡辺 わたしも大半が勘だと思いますね。なんとなく、先々の動向を読みながら、利益も出そうな感じだし「買っちゃおうかな」って感じだと思いますよね。

司会 今のお話では、マインドが高まってきていると言えそうですね。

渡辺 そうだと思います。うちも15台機械があって、2台ずつぐらいは更新していきたいイメージは持っているんだけど、1台の時もあれば2台のときもあります。ただその決め手は、古くなったし、スピードが出ないし、とかそんな感じですよ。

司会 樫山金型さんは、光造形機も持っておられます。金型での活用はどうでしょうか?

樫山 金属光造形を長い間やっていましたが、この4、5年動かしていません。というのも、金属光造形機は4、5年前にレーザーの方式が大きく変わったんです。これを境に機械が全然違うんですね。最近では大型化も進み、安いものが出てきて3Dプリンターが流行っているのだと思います。この3年内の新しい機械は使える分野は広がっているんじゃないかと思います。

司会 「D3テクスチャ」などでの光造形機の活用はどうですか。

樫山 従来の樹脂光造形機を使った場合、テクスチャを手で触ったら、ガタガタで手仕上げが必要でした。今は細かいピッチで表現ができやすくなったので、見た目も、触っても、成形品とかなり似た質感ができます。それでデータを作って、光造形機で作ってみて、テクスチャを触ってみて、トライ&エラーを繰り返していくわけです。従来の荒いプリンターだと今言ったようなテクスチャの確認ができなかったのですが、今はできるようになっています。しかも同じSTLデータを使って造形をするので、デザインと光造形で作ったもの、金型を切削加工して成形したものがかなり近いものができるんです。デザインの部分に入り込めるようになっているのは大きいですね。

司会 金属粉末の造形機は?

樫山 古いと全く使えないですね。レーザーが4、5年前に変わってから、照射による密度が99%から100%に近いところまで出来るようになりました。しかし、熱応力がかかるので高さがあるワークは根元にクラックが入りやすい。金属造型機に関しては使える分野が実は限られているのではないかとも思います。

司会 活用の用途はあるでしょうか。

樫山 切削できないような構造部品などが最適ではないでしょうか。金型部品でも3次元の水管などがありますが、耐久性やコスト面でのことを考えると、理解してくれるお客さんが少ない気がしますね。粉末の粒径や大きさを変えていくことで、ランニングコストを縮めるといいのかもしれないですね。

司会 生き残り戦略というのは、換言すると強みを磨くことだとも思います。皆さんの強み、自慢の技術をお聞かせ下さい。

小原 当社は微細彫刻から始まったので、模様を彫ったり金型への加飾をしたりする微細切削技術は得意ですね。例えばポリゴンにしても、サーフェスにしても、特にポリゴンでやる場合は、微細加工では現物に合わせて精度を上げようとすると、加工データが大きくなってしまいます。そのような時に、精度を上げつつ、加工スピードも速くするという矛盾する要素を両立できるような提案をしています。また、大きなものや取り数が多いモノでも短納期でできるような提案をしています。

司会 具体的には

小原 他社と単純には比べられないですが、色々聞いてみると、一般的なものの倍ぐらいのスピードでできているようです。細かいエンドミルで細かい加工をするとどうしても時間がかかってしまう。化粧品のコンパクトくらいのサイズならいいですが、もっと大きなもので何十時間と加工時間がかかるものを半分くらいで作ってしまいます。例えば4個取りのものが400時間かかっていたらそれを100時間に短縮したこともあります。

司会 どのような方法で。

小原 加工ノウハウですから当然秘密です(笑)。また、金型メーカーのお手伝いもしているので、金型部品とかブロー金型も当社ではつくっています。
ブロー金型は100個などざらで、取り数が多いんです。そうすると、
スピードとの戦いになるので、数を多くやるものに関しては段取りを調整することで、
他社ではできないスピード納期を実現させています。

司会 可能でしょうか。

小原 人数が少ないので、一人一人の負荷状況が見えやすく、対応しやすいのです。社員が10人以上いて10台以上MCがある現場では、それなりに遊んでしまう機械も出てしまいます。うちには、MCは4台しかないけれど、最善の段取りや流し方ができれば、半分くらいの時間でできます。お客さんが間に合わない時とか、加工がうまくできない時とかに対応する形で商売をやっています。また、現場は5人ですし、お客さんの問題解決には私が携わっています。問題になったところに必要な設備を選んだりできるのが、能力を発揮できるところです。営業も打ち合わせも私がこなしているので、お客さんへの解決法もマルチに対応しています。

司会 フットワークと技術ノウハウを活かして他社の半分の時間でやることができるのは圧倒的な強みですね。樫山さんところは?

樫山 微細切削加工が得意なので、その技術を活かしていきたいですね。その一つはケイズデザインラボさんと一緒にやっています、先ほども言いました「D3テクスチャ」というデジタルシボ加工ですね。メリットは1からデザインする時に、従来工法よりかなり早くできるんです。しかもトライ&エラー&修正も早い。さらに職人さんがテクスチャを貼り付けるわけではないので、均一性も高いんです。

司会 D3テクスチャによるビジネスへの効果はありますか。

樫山 金型の話を頂いた時に、成形品の形状に合わせた表面のデザインをユーザーと1から立ち上げていけます。しかも、非常に微細な切削加工を得意としているので、表現力高く再現できます。もう一つは元々ある3次元の微細切削技術を活かして、非常に微細な医療機器などの金型など違う分野に広げていこうと思っています。

司会 牧野会長はいかがでしょう。

牧野 高い設計力も含めて、鏡筒に代表される複雑な形状を精度良く成形できるプラスチック金型を作ることが強
みです。人数が多いので、なんでもできる総合力も強みです。ナノレベルの加工もできる体制を取っているので、光学分野だけにとらわれるのではなく、他の様々な分野に広げていきたいですね。

「ちょっとだけ違う」も強み

司会 ナノレベルだと医療関連へ・・・

牧野 それもありますが、ほかにも広げようと進めているところです。それから、メーンの顧客が光学系なので、品質レベルの要求も高く、測定関係の機器を充実させているのも特長ですね。

司会 中国では成形工場を持つなど海外展開も積極的ですね。

牧野 今は中国だけですが、グローバル展開と言うことで、中国で成形品が欲しいのに十分対応できるのは強みだと思いますね。

司会 測定が充実しているとのことですが、測定は強みとなりえますか。

牧野 光学系の仕事だけをしていた時は感じなかったのですが、自動車関連などの仕事させて頂くと、(光学系のように)測定している企業がないらしく、評価して頂いた部分もあると思います。

司会 マルスンさんは・・・

鈴木 設備が充実しているところでしょうか。オークマさんの門型加工機を定期的に導入していますし、トライ用のメガプレスなども人数の割に多く所有していると思います。少ない人数で多くの金型を作るということを常に心がけています。それから無借金経営なので、財務面の健全性も強みです。厳しい中での和を大事にし全てに感謝の気持ちを持って仕事に取り組むことが重要だと思います。うちの社員は本当に良く働いてくれています。

司会 マルスンさんは分社経営(マルスンのほか、駿河ダイテック、駿河エンジニアリング、駿河マシンサービ
ス)を持っていることも特徴的です。

鈴木 確かに分社経営は強みだと思います。グループ全体では420名くらいで、大局的な部分は社長をはじめ幹部で見てはいるんですが、基本的には各工場が独立して経営して、戦略を立てています。例えば中小型のプレス金型の駿河ダイテックは、高ハイテン材向けとしてホットスタンピングの研究をしたり、プラスチック型の駿河エンジニアリングではCFRPなどの金型も作ったりしています。マルスンも、富士と大垣に工場がありますが、営業は別々で独自の顧客を持っています。技術面では、富士地区では定期的に技術交流会を行っています。逆に違う会社だからこそ、情報交流も活発になります。大きくなりすぎては駄目だという意識が強く、50人から100人までが良いと思っています。

司会 日型工業さんの強みは。

渡辺 CAD/CAMと高度な工作機械があれば、今の金型メーカーでは同程度のものはできると思います。そこにどういった付加価値をつけるかが重要でしょう。(前述の金型保温技術は)始めたばっかりなので分からないですが、装着すべき金型は少なくないと思います。だけど、そこに過度な期待をするのも危険ですし、最近は「ちょっと違うところ」を目指そうと思っています。

司会 どういうことでしょう?

渡辺 うちはオンリーワンとか、ナンバーワンを目指していないんです。というのは、多分お客さんが金型を買う時の判断って「ちょっとだけ違う」ところなのではないかと思うんです。ちょっとだけ違いを出して価値をつけて、価格は同じならいいよねってところなんだと思います。もしかしたら際立った強みはないのかもしれません。

司会 「ちょっと」を出せることが強みでしょう。

渡辺 強みとしてあるならば、トヨタさんのモータスポーツのほうで色々と仕事させてもらっていることでしょうか。これが色んなところにつながっていると思います。レースの技術者はいつも極限を目指すので、非常に複雑な要求が多い。そういうものをやらせて頂く中で技術が磨けたように思います。精度も厳しい、厳しい精度を評価する測定はかなりお金かけたことも信頼を得られたのかなと思います。

司会 お忙しいところありがとうございました。

座談会出席者

小原社長_R
小原彫刻工業
代表取締役
小原基雄氏

樫山社長_R
樫山金型工業
代表取締役社長
樫山剛士氏

牧野会長 (1)_R
長津製作所
代表取締役会長
牧野俊清氏

渡辺社長_R
日型工業
代表取締役
渡辺隆範氏

鈴木常務_R
マルスン
常務取締役
鈴木將生氏

金型新聞 平成26年(2014年)3月10日号

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