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OCTOBER

15

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新春座談会
金型メーカー4社が語る
新時代の経営戦略

独自の力を醸成 壁を乗り越える

新時代の経営戦略

座談会出席者(50音順)

伊吹機械 伊吹宏一営業部長

伊吹機械
伊吹宏一営業部長

 事業の80%がプレス金型、20%がプレス金型組込産業機械。プレス金型はこの20年で自動車関連の仕事が大幅に増え、70%を占める。残りは住宅や建設機械、スチール家具などの金型。主力はトランスファープレスで800トンクラス、順送プレスで600トンクラスまで。本社は滋賀県長浜市。社員数18人。

中辻金型工業 戸屋加代総括部長

中辻金型工業
戸屋加代総括部長

 プレス金型メーカー。自動車をはじめ様々な業界の企業と取引する。最近は、3Dプリンタによる金型「デジタルモールド」も手掛ける。プレス機やロボット溶接機による試作や小ロットの量産、組立も。金型、試作、量産、組立を一貫してできるのが強み。本社は大阪府東大阪市。社員数20人。

福井精機工業 清水一蔵専務

福井精機工業
清水一蔵専務

 プラスチック金型メーカー。主力は軸受の球を保持する「樹脂リテーナー」の金型。40年来手掛け事業の50%を占めるほか、自動車のハンドル操作をアシストするパワステ向けの部品は、世界で走る車の4台に1台は同社の金型を使った製品。社内生産の半分は製品開発に関わるもので、金型、試作、量産立ち上げに携わる。本社は大阪市大正区。社員数は32人。

ヤマナカゴーキン 山中雅仁社長

ヤマナカゴーキン
山中雅仁社長

 冷間鍛造金型メーカー。そのうち90%が自動車向け。海外では冷間鍛造部品の成形も。米国で開発された鍛造や切削などのCAE解析ソフトは約80%のシェアを持つ。近ごろは、ドイツで開発されたIoTに用いるセンシング・システムも販売している。製造拠点は大阪府東大阪市(本社)と千葉、広島、中国(2カ所)、タイ。社員数は国内230人、海外320人。

 中国や東南アジアからの国内回帰や、製品ライフサイクルの短期化などを背景に、リーマン・ショック以降、堅調に需要を回復してきた日本の金型。しかしその一方で、国内に残る金型には、かつてない新たな技術や、より早く、低コストで造る力が求められている。こうした常に挑戦し続けなければいけない環境の中で、どのような次の一手を打てば勝ち抜けるのか。日本金型工業会西部支部の青年部・型青会の4社の経営者・幹部に「新時代の経営戦略」について語ってもらった。

司会 日本の金型はここ数年、月産額が300億円台で推移し、回復基調にあるようです(2009年頃は200億円台)。そうした経営環境のなかで昨年(2016年)の業況はいかがでしたか。

山中 7年前に社長に就任してから毎年売上を伸ばしてきたのですが、前期は、海外は堅調でしたが、国内は初めて下がってしまいました。顧客からの仕事はおしなべて例年並みの量があったのですが、対応力が足りませんでした。

伊吹 当社も最近5年間、毎年売上を伸ばしてきましたが、前年と比べると売上が少し下がりました。取引の多い自動車メーカー向けの仕事が落ち着いたことが1つ目の要因です。
 2つ目は、難易度の高い金型の製作依頼を多く受注したことです。プレス成形シミュレーションを活用して挑んだのですが、取扱いがなかなか一筋縄ではいかず、結果、量をこなすことができませんでした。
 しかし、難しい仕事に挑戦するからこそソフトを使いこなせるようになり、金型づくりのノウハウも習得できます。金型づくりの技術力を高めるという意味では大変意義のある一年だったと捉えています。

戸屋 当社は、売上は一昨年とほぼ同じですが、この1年を振り返ると同じ顧客からのリピート受注が増えたように感じています。今までは年に数回という顧客からも「数カ月先に必ず発注するからスケジュールを空けておいて欲しい」といったご依頼を頂くことが増えつつあります。
 これまでは、現場は忙しくしているものの、3カ月先の製作スケジュールは空白という状況がよくありましたが、少し先を見通せるようになりました。

デジタルモールドに注目

司会 理由は何でしょうか。

戸屋 デジタルモールドなど当社の金型造りに興味を持って頂く機会が増えているからではないかと。

司会 デジタルモールドとはどんな金型ですか。

戸屋 3Dプリンタで造る金型です。従来の金属型では成形できなかった加工が可能となるほか、短時間で造ることができ、物によっては試作のみならず、小ロットの量産も可能です。一昨年から製作を始めました。
 昨年はこのデジタルモールドを展示会などで発表させて頂きました。当初はそれほど注目されませんでしたが、次第に問い合わせを頂くようになりました。

司会 どういった企業が問い合わせを?

戸屋 部品メーカーが多いですが、中には最終製品を手掛けるメーカーもあります。メーカーは高度な技術を確立していますが、その技術に長年捉われてしまい、新たなことに挑戦する時、壁に阻まれることがあるようです。そういった企業がデジタルモールドに興味を持って下さっています。
 当社はデジタルモールドに限らず、常識にこだわらない金型造りに取り組んでいます。金型造りの通説や定石に縛られない自由な発想で造る。そういう金型造りの姿勢に共感し、関心を寄せてくれていると感じています。

外製減らし利益増へ

清水 昨年は内製化率アップに励んだ年でした。一昨年に得意分野の仕事が減り、それを補うために不得意な金型をずいぶんと受注しました。当社にノウハウが殆ど無い上に、機械が古くて加工効率が悪く精度も出ない。結果的に、外製に頼らざるを得ませんでした。
 そのため昨年度は売上が過去最高だったのに外製の費用が驚くほど増えました。これではいけないと思い、内製化へと舵を切ったんです。今期は内製化を進めるため、大きく設備投資し、加工機械を6台新たに導入しました。技術者も採用し、できるだけ社内の生産能力を上げ、外製の費用を減らしました。

司会 その不慣れな仕事は今も?

清水 いえ、今期は全てお断りしました。長年取引する顧客から自動車のパワステ関連の金型を受注しました。その他にも大手自動車メーカーからの開発案件なども増えました。
 そのため今期(1月末)の売上は前期と同じ、もしくは上回りそうです。ただ、その顧客からの仕事が売上のおよそ60%を占めています。今後は仕事の領域をより広げるため、様々な種をまいて新規顧客も増やしたいと思っています。

▪︎今取り組んでいること

座談会の様子1

3Sで「現場力」高める

司会 それでは、今最も取り組んでいることは何でしょうか。

山中 3Sです。一昨年から始めました。従業員全員で整理、整頓、清掃をする。私も箒を手に掃除しました。
 その目的は、社員一人ひとりに発想力や人と協力する精神をより高めて貰うためです。整理、整頓、清掃は工夫次第で能率が上がるし、人と協力することでより良い方法が生まれます。
 発想力や協力する精神を育む。それを通じて技術力やチームワークといったいわゆる「現場力」を高めて欲しいと思っています。

司会 成果は出ていますか。

山中 約1年が経ち、徐々にその効果が現れています。工場の外を掃除したり、書棚を整理しやすい方法を考えたり。指示待ちだったのが、自ら考えて行動する人が増えてきました。
 その行動やアイデアは、どんな些細なことでもいいんです。自ら考え、行動することが大切です。この活動は大阪の本社と広島だけですが、今後は千葉の工場にも広げていきたいです。
 ちなみに昨年末には、取組みの成果を発表する場を設けました。最優秀者は表彰されて記念品も贈られる。3Sがテーマですから、記念品は洒落を利かせて「お掃除セット」にしました(笑)。最優秀チームのリーダーのスピーチでは、「当初はこんな活動はどうせ続かないと考えていたが、やってみると楽しい。社長、楽しかったです」と、その言葉に感極まりました。

司会 それは良い話ですね。一方で金型向けに開発されたセンサはいかがですか?

山中 成形品の品質不具合や設備不具合の故障を検知したりするためのものです。例えば、ピンやパンチの欠損などに反応して知らせたり、設備を停止させます。今はまだお客様と共同で実験を行っていますが、すでに有効性を確認しており、今後も研究を重ね、用途開発事例を積み上げる計画です。将来の当社の主力商品に育てたいですね。

3Dデータを使いこなす

伊吹 当社では、かれこれ7年になりますが、金型の3次元ソリッド設計に力を入れています。当初は「取り組む意義があるのか」という声もありましたが、「他社とは違うことを」と、今もチャレンジし続けています。

司会 なぜですか。

伊吹 最新の加工機や装置の能力を最大限に活用し、より効率よく金型を製作できるようにするためです。近年、5軸加工機や3Dスキャナー、サーボプレス、切削加工シミュレーションや成形解析ソフトなど次々と新たな投資を行っています。しかし、これらの機械や装置を使いこなすには、3次元データに精通しないといけない。その核となるのが、3次元ソリッド設計と捉えています。
 ただ加工機や解析ソフトを導入すれば、たちまち効率的な金型製作ができるというわけではありません。活用のノウハウを蓄積していくことが大切です。時間はかかりますが、試行錯誤しながらも、使いこなすノウハウと技術力を高めていきたいと思っています。

トライ&エラーを削減

司会 なかでも成形解析ソフトは活用が難しいと聞きます。

伊吹 そうですね。解析結果が実際のトライ結果と異なることがあります。そこで、なぜ異なるのかを追求し、運用方法を少しずつ改善していくことが大切な業務となります。一方で、解析の作業を兼務するなど設計者への負担も増えています。けれども、金型を製作してからのトライ&エラーを減らすため利用すべきツールと捉えて取り組んでいます。
 当社ではトライ&エラーが付き物で、以前はウルトラハイテン材など難易度の高い金型だと10回にも及ぶことがあります。それだけ何度も調整し時間がかかると、計画の1・5倍のコストがかかることもありました。解析を上手く活用することで、トライ&エラーの回数を減らす。そうすれば、1型あたりのコストが削減できますし、製作時間の短縮にもつながります。また、設計前に解析することで、製品形状の変更などを顧客に提案でき、量産に入ってからの問題の芽を事前に摘むことも可能です。そういった姿勢が顧客との信頼関係を深めていくのだと思います。
 昨年は解析の技能がずいぶんと向上しました。顧客の担当者からの視点に立つと、「安心して金型を手配できる」という点も重要ではないかと考えています。今年は、より成果が出るよう取り組んでいきたいですね。

司会 解析ソフトは金型メーカーではまだまだ普及が進んでいないイメージがありました。

戸屋 当社では今も解析ソフトは導入していないですよ。高額ですし、使いこなすには知識やノウハウも必要です。設備計画ではマシニングセンタや放電加工機などの生産財をつい優先してしまいます。
 ただ、デジタルモールドを活用することで解析できないかと考えています。3Dプリンタでアクリル製の金型を造り、それで実際に金属の板材をプレスしてみる。デジタルモールドの場合、板材がどのように塑性変形していくかが分かり、シワやクラックの原因なども目で確認できます。
 この金型は既に、樹脂の金型の分野では使われているようです。エラーの原因が一目瞭然ですから。今までのベテラン技術者が持つ塑性変形の知識とは全く違う結果が現れるということもあるらしいです。

司会 新たな発想ですね。非常に興味が沸きます。

戸屋 その真の目的はブランディングです。部品メーカーや最終製品メーカーに「中辻金型工業に頼めば、要望を叶えてくれる」と当社の事業に共感し信頼して貰うようにしたいと考えています。
 彼らが金型メーカーに注文するのは「高品質の金型」ですが、その本質は「新たな製品を造りたいから、その手助けをして欲しい」です。
 デジタルモールドによる解析は、その一環。ほかにも、当社にはない技術を持つ企業と連携することでメーカーの製品づくりを支援できるようにしたいと思っています。

司会 先ほど話に上がったトライ&エラーには、対処する取り組みをされていますか。

戸屋 トライ&エラーは3回までにとどめようと挑戦しています。その方法として金型の部品を寸法通りに造ることに取り組んでいます。公差を設けず、図面通りの寸法に公差ゼロで造ることを狙うんです。

司会 そんなことが可能なんですか。効果はありますか。

座談会の様子2

戸屋 エラーの原因を突きとめやすくするためです。構成する部品の一つひとつがきっちりと加工されているのであれば、原因はそのほかの要素にあると考えることができます。
 今までのように、公差内に入っているけれど寸法通りではない部品を組み立てて、削ったり磨いたり微調整して造るという方法では、エラーの原因を分析するのに、部品の寸法も改めて測り直さないといけない。
 それだと結果的に、検証する時間がかかり、原因を追究しづらい上に、何度もトライ&エラーを繰り返さないといけない。それに図面に公差を書き入れる手間もかなりかかります。

司会 なるほど。けれども公差を無くしたら加工現場は大変でしょう。技術者の方たちは納得してくれましたか?

戸屋 熟練技術者の方たちは少し戸惑いもあったようです。しかし目的と手段をしっかりと説明したら理解してくれました。逆に若い人は固定概念がないですから、すんなり受け入れてくれました。
 ただ、寸法通りでないと何度でもやり直さないといけないので、現場の人たちには大変な思いをさせていますが(笑)。

司会 寸法通りに造るのは部品全てですか。

戸屋 必ず全ての部品を寸法ぴったりに加工するということではないですね。例えばダイホルダーなどの部品を寸法通りに加工する必要はないですから。主となるのはダイやパンチ、ストリッパなど製品形状の成形に関わるものや、ガイドピン、ガイドポストなど金型の動きを司る部品です。

司会 ところで、なぜ始めようと?

戸屋 部品加工を手掛けるようになってから、ある日ふと思いついたんです。その部品は極めて精密で、加工や測定など品質の管理にとても神経を使う。一方で、金型はそれほど神経を尖らすことなく作っています。そのとき「この考え方おかしくない?」と思ったんです。なぜ部品加工と金型で挑む姿勢が違うのか。金型も部品と同じようにするべきではないのか。できるのにやらないから、組み立てに時間がかかるのではないか。それなら金型の部品を正確に造れば、調整の手間や時間も減らせるのではないかと。
 この方法を始めてから最終調整する時間が格段に減りました。それに「金型は製品を成形することが第一義だから、内部にツギハギがあっても構わない」という考え方も無くなりました。部品一つ一つの品質を高めて、熟練者でなくても組み立てることができる金型を造ることを目指しています。

作業時間の背景を究明

清水 当社では、金型づくりにおけるあらゆる作業にかかっている時間の把握と理由の分析、改善に取り組んでいます。それによって金型の品質を高めながらも製作コストを削減し利益率を高めたいと思っています。
 例えば、年度の粗利益率30%を目標とするとき、まず一型あたりの製作時間を何時間に抑えないといけないかを導き出します。そこから逆算して、各作業に費やす目標の時間を算出する。設計ならば何時間、加工には何時間といったように。
 その一方で、現在、要している作業時間も洗い出す。その時間と目標の時間とを比較する。するとどの工程や作業に時間がかかり過ぎているのかが分かります。
 そして、それらの作業になぜそれほど時間を費やしているのか、その理由を探究し、一つ一つの改善策を導き出し、実行していきます。そうすることで作業一つ一つの時間を減らしていき、トータル時間を短縮する。
 例えば300時間を要していた金型の製作時間を250時間に短縮できたら、それだけ製作コストや残業代を減らし、利益が増えます。それに納期短縮にもつながります。

司会 QCD(クオリティ、コスト、デリバリー)のうち、コストとデリバリーを体系的に徹底して取り組むということですね?

清水 そうです。これまでQCD活動といっても漠然としているだけでした。これを改めてチャレンジしています。
 これによって国内で利益を増やし、海外からの仕事にも、もっと取り組めるようにして事業を成長させていきたいと思っています。

新春座談会ー第2部ー
金型メーカー4社が語る 新時代の経営戦略
へ続く

金型新聞 平成29年(2017年)1月10日号

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