金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

04

新聞購読のお申込み

―スペシャリスト―〈ヘラ絞り〉山村製作所〈ヘラ型〉田中鉄工
ものづくり支える匠の技

ヘラ棒と呼ばれる工具を回転する金属の板に押しあてて、滑らかな曲面や艶やかな平面に加工するヘラ絞り。品質の良い製品をつくるには、ヘラ棒を操る卓越した技術もさることながら、匠の技を受け止めることができる金型が必要だ。ヘラ絞りを手掛ける山村製作所とヘラ絞り金型メーカー田中鉄工には、長年の経験で培った職人技が息づいていた。

〈ヘラ絞り〉山村製作所

技術向上に終わりなし

山村製作所1

金属の板がみるみる形を変える

ぶぉーん…ぐぉーん…。山村製作所の工場に、ヘラ棒に押しあてられた金属の板が振動する音が鳴り響く。平らだった板は、緩やかな傾斜を描き、くびれ、みるみると形を変えていく。完成したのは底のない盃のような製品。押さえつけたり、膨らませたり。わずか2、3分程度で仕上がった。

山村製作所はヘラ絞りを専門に手掛ける。製作するのは照明器具の反射板や配管をはじめミラーボールなど多岐にわたる。照明機器や住設機器メーカーから注文があるのは球体などプレス加工では技術的に不可能だったり採算が合わなかったりする小ロット品(数個~7000個)や試作品だ。

山村製作所2

ヘラ棒

ヘラ絞りは経験やノウハウ、そしてセンスがいる匠の世界。ロクロと呼ばれる機械で金属の板を回転させ、ヘラ棒を板に押しつければいいわけではない。銅や真鍮、ステンレスなど材質によって柔らかさが違うし、気温や湿度によって加えるべき力加減は異なる。

この道何十年の山村烓一社長は経験と五感を生かし、手に力を与え、金属の板に命を吹き込んでいく。山村社長は「今までいろんな物を絞ってきた。その経験をもとにどうやって絞るかを考えるんです」と話す。

山村製作所2

できあがった製品

山村製作所のルーツは父が第二次大戦中に創業したヘラ絞りの会社。山村社長は3人兄弟の末っ子で、それぞれヘラ絞りで独立した。その当時、大阪には生野区や平野区、東大阪市にヘラ絞りの会社が沢山あったという。しかし後継者不足やプレス技術の進歩でずいぶん減った。

とはいえ、長男とふたりで営む山村製作所には今も注文が引きも切らない。「ヘラ絞りの技術に終わりはない。腕を磨くためには一生勉強です」という。

ところで、ヘラ棒で材料にかけた力を受け止める円錐やうりざね型の金属は、もしや金型ではないのだろうか…。素朴な疑問を聞いてみると、ヘラ絞りの金型をつくる田中鉄工に製作を依頼しているという。
NC旋盤が次々と切粉を吐き出していく。加工しているのはヘラ絞り専用の金型。町工場が集まる生野区にある田中鉄工はその専業メーカーだ。

山村製作所 山村社長

山村社長

山村製作所
本社:大阪府東大阪市柏田西1‐3‐18、06・6728・4965
代表者:山村烓一氏
社員数:2人
事業内容:ヘラ絞り加工

〈ヘラ型〉田中鉄工

一人で作り上げる妙味

田中鉄工1

ヘラ絞り用の金型

ヘラ絞り用の金型と一口にいっても様々な種類がある。円錐や円柱の形をしたヘラ型。側面に凹凸のある製品を加工するため製品よりも外径が細く製品を取り出せるロール型。これも側面の窪みを加工するため、窪みの頂点で分離する杵型。L字の加工をするためのウラ型。そして球体を加工するため蜜柑の房のように分解できる割型というものもある。

手掛ける金型は最小でφ5㎜、最大φ1600㎜。取引先は約150社。1ヵ月に受ける仕事はヘラ絞り会社を経由する関節注文も入れて約130面。年間1500面もの金型をつくり全国のヘラ絞りの会社に納めている。

ヘラ絞りの仕事は、小ロット品や試作品であるため製品の形状、金属の材質、生産数量が変わる。金型づくりで大切なのは、そうした取引先の受注内容を考慮して、使いやすく、最も適したスペックに仕上げることだ。

金属の材質が鉄かステンレスか真鍮か。つくるのは数十個か数千個か。それによって金型の材質を選び、焼入れをするかしないかを決める。そして取引先が得意とするヘラ絞りの技術も考えて、形状も微妙にアレンジする。

田中鉄工2

旋盤で金型を加工する

田中敬一社長は「例えば、ある製品の金型を別々の2社から製作依頼を受けても完成する金型は微妙に違う。それぞれ最も使いやすいように工夫してつくりますから。まさに一品一様。ヘラ型づくりの魅力です」と話す。

田中社長は2代目。近畿大学理工学部で学び、大手自動車メーカーの技術者への道もあった。しかしそちらへは進まず、父が経営する金型メーカーへ。

「様々な人が関わり完成する自動車などと違って、ヘラ絞りの金型は、取引先から要望を聞き、設計し、旋盤で加工する、その全てを一人で完結させる面白さがある。納めた金型が褒められたとき、嬉しさがこみ上げてきます」と田中社長。

プレスや板金の技術が飛躍的に進化しているものの、試作品や小ロット品でヘラ絞りは今もなくてはならない。田中社長は「これからも金型づくりを通じて日本のものづくりを支えていきたい」。

田中鉄工 田中社長

田中社長

田中鉄工
本社:大阪市生野区中川東1‐3‐18、06・6752・7928
代表者:田中敬一氏
社員数:4人
事業内容:ヘラ絞り金型設計製作

金型新聞 平成29年(2017年)11月10日号

関連記事

大型設備導入で生産体制強化 永井製作所が目指す新規開拓【金型の底力】

弱電部品やライフサイエンス部品、自動車部品など幅広い業種のプレス用金型を手掛ける永井製作所。ここ数年、積極的な設備投資を進め、生産体制の強化に取り組んでいる。昨年には事業再構築補助金を活用し、約1億円をかけてマシニングセ…

【この人に聞く】ニチダイ・伊藤直紀社長「技術営業の強化に力 」

今年4月、冷間鍛造金型メーカーのニチダイは伊藤直紀氏が新社長に就任し、新たな体制で臨む。昨年、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの影響で金型受注が低迷したが、足元の景気は回復傾向にあり、事業の成長に向けて動き始めた。そこで…

【金型応援隊】太陽テクニカ ダメ元でも相談を

一桁ミクロンの加工精度 「マシニングで出せない精度の穴加工は、是非任せてほしい」と語るのは、長年ジグボーラー加工やジグ研削加工に携わってきた、太陽テクニカの大畠正陽社長。同社は、航空・宇宙産業の部品から工作機械の主要精密…

特集〜世界の需要どう取り込む〜
金型のサムライ世界で挑む –メキシコ–

 新天地を求めて、世界に進出していった日本の金型メーカーは、何を考え、どんな苦労や課題を乗り越えて、取り組みを進めてきたのか。また、さらなる成長に向け、どんな青写真を描いているのか。中国、タイ、メキシコ、アメリカ、欧州そ…

横田悦二郎氏

【プレス型特集】強みを維持し続けるには…
日本金型工業会 学術顧問 横田 悦二郎氏に聞く
プレス金型の強みと未来

ゼロベースで知恵絞る 得意な分野で連携を 顧客の生産技術をサポート  日本金型工業会の学術顧問を務める、日本工業大学大学院の横田悦二郎教授は、日本のプレス金型の強みを「他の型種に比べ、技術の蓄積が生かせる部分が大きい」と…

関連サイト