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シブヤハイテクノ 渋谷公良 社長

 自らの強みを活かし、他分野に事業を広げていくことは経営においては常套(じょうとう)手段だ。シブヤハイテクノは創業以来、磨き続けてきた放電技術を武器に、この戦略を地で行く。形彫りやワイヤ放電の受託加工から始め、電極や、金型部品製作と事業を拡大。最近では金型で培った高精度や多品種少量への対応力を源泉に、自動車、航空機、船舶部品まで手掛ける。今後は増加する難加工材や、複雑形状など放電加工でしかできないニッチな分野で更なる専門性を追求していく。

放電極め新たな道拓く

 創業は1997年だが、渋谷公良社長が前の職場で放電加工に携わり始めたのはそれより14年前。つまり、35年以上放電技術を極め続けてきたことになる。独立した際には「(放電の受託で)自らの食い扶持を稼ぐことくらいはできると考えた」と謙遜して語るが、目指したのは「放電加工に特化して、金型メーカーから信頼してもらえるパートナー」だった。金型メーカーを目指さなかったのは「設計や加工などを考慮すると、現金化まで時間が掛かるし、金型はパーツの管理業務が膨大」との判断もあったからだ。

 以降、金型メーカーからの高精度なミクロンオーダーに応え続け、信頼を得てきた。近年では、金型で培った技術を活かし、自動車や航空機、船舶など、複雑で特殊な部品が多い業界に広げている。ホームページや口コミ、紹介などで顧客を広げ、今や7割以上が金型以外の分野だ。

金型から航空機まで
高精度、複雑形状に強み

 そんな同社の強みの一つは、単なる放電の受託に留まらず、電極製作から形彫り放電、ワイヤ放電まで加工をトータルで提案できること。「部品メーカーは切削に強くても放電の知見が少ない企業も多い。全体で受けることで当社のノウハウや知見も提案できる。そのおかげで、仕事の幅が広がったと言って頂けた顧客もある」。

 例えば、放電を熟知しない企業では思いつかない、横から放電することなども好例だろう。同社が持つ形彫り放電加工機の加工槽の主軸ストローク400㎜に対し、最大で800㎜までの部品に対する事例で、通常であれば主軸での加工ができない場合でも、部品を横方向に段取りし、横軸の放電制御を駆使して加工するスキルを有している。もちろん、同等の精度を維持する。

②荒中仕上げを一体にした電極

 「一か月に50種類ぐらいの電極を制作する」(渋谷社長)という、多品種少量への対応力も大きな武器だ。その分、加工方法や工程も工夫する。同社には、ATCやパレットチェンジャーの付いた加工機はほとんどない。「多種多様な加工をすればするほど、段取り替えが必要になり、自動化は逆に非効率になる」。その代わり、一つの電極に荒・中・仕上げを高精度に配置したデザインで制作し、段取り変えなしで仕上げまで行うなどの工夫を凝らす。「放電加工機の稼働率は8割以上」だという。

③浸炭焼入れしたワークは放電が不可欠

 このように部品業界にうまく参入した同社だが、「手が荒れないように気を付けている」という。手が荒れるとは、簡単な仕事に慢心してしまい、技術が低下してしまうことを指す。部品業界では金型より精度が低い加工も多いが、そんな時も「気を抜かない」ように放電スペシャリストであることを強く意識している。手が荒れ、強みが損なわれる危険があるからだ。

 今後狙うのは放電加工でしかできない加工領域の拡大だ。浸炭焼入れしたワーク(写真3)を精度内に収めるには放電が不可欠で「どうしても放電しか無理」という加工が確実に存在する。こうした分野の取り込みに加え、新たな要求にも対応していく。

④ 放電の稼働率は8割以上

 例えば最近では金属3Dプリンタで造形したワークに、放電で高精度に穴をあけて欲しいなどの要求にも取り組む。チタンやインコネルなど難加工材が増えており、「イリジウム合金を持ち込まれたことも」あるという。今後も長年磨いた放電加工技術を武器に、難加工材や複雑形状など、放電加工でしかできないニッチ分野を開拓し、専門性に磨きをかける。

⑤放電の波形を監視するオスロスコープ
  • 本 社=埼玉県さいたま市桜区宿192
  • 代表者=渋谷公良社長従業員数=6人
  • 主要設備=ワイヤ放電加工機5台(ソディック)、形彫り放電加工機7台(ソディック)、マシニングセンタ1台(ソディック)。
  • 事業内容=放電加工・ワイヤーカットによる、金型部品や自動車産業向け試作部品、形彫り放電加工・ワイヤ放電加工・細穴放電加工など。

金型しんぶん 2019年9月10日

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