金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

APRIL

25

新聞購読のお申込み

「現場で活躍できる人材育て、学生の未来を後押しする」 大分県立工科短期大学校校長・䑓博治氏[鳥瞰蟻瞰]

入社したその日から金型づくりや保全の現場で活躍できる。当校の機械システム系金型エンジニアコースはそんな人材を育てています。アカデミックな指導はしません。指導するのはあくまで金型をつくり、使う実践の現場で必要な技術や知識です。

なぜそのような方針で学生を指導しているのか。それは地元・大分県下の金型や成形、プレスメーカー、県下に進出した自動車や部品メーカーの生産拠点が人材採用で求めることであり、それに応える能力を育てることが学生の未来を後押しすることにつながるからです。

この方針を進める契機となったのがダイハツ車体(現ダイハツ九州)の大分への生産移転(2004年)でした。それまで日産自動車やトヨタ自動車が福岡県に相次いで工場を新設。自動車は北部九州の基幹産業へと成長しつつありました。

そこに、当校(1998年開校)と同じ中津市にダイハツ車体の工場新設に伴い金型や成形・プレス部品メーカーも進出すれば、多くの雇用が生まれる。それが予想されたため当校は金型を専門に学べるコースの新設を検討しました。

開校時からの大学方針はアカデミックに指導するものでした。私はそのような指導を受けた学生を県下の企業や進出企業の工場が求めているのか、学生が望む職域に就くことができるのかと疑問に感じていました。

県下の企業や工場での実際の仕事は金型づくりや金型保全。その現場が求めるのは金型技能者です。であればアカデミックに金型を学ぶのではなく、金型づくりや保全の実践で役に立つことを指導した方が良いはずです。

仮にアカデミックに指導しても就職先は見つかりますが、そんな人材を求めるのは生産技術や研究開発部門。当校を卒業しても学士を取得できないので狭き門。それに当校の学生の約65%は地元企業への就職を望んでいる。生産技術などは名古屋や大阪の本社にあり、望みを叶えられない。

私は地元の企業や進出企業を訪ね、人材採用についてヒアリングし、金型づくりや保全の実践で役に立つ人材を求めていることを確認できたので当校や県に提案。承認を得て、2007年当コースをスタートしました。

当コースの学生は実践に極めて近い指導を受けます。金型向けの工作機械やソフト、プレス機、成形機を使い、金型を設計製作、試作し検証します。講師には三井ハイテックのOB技術者の協力のもと実践さながらのプロの技能や知識を得ることができます。

そして学生には自らの得意分野の理解を促します。グラインダで精密に磨けたり、自由な発想で設計できたり、金型の不具合がすぐにわかったり。得意なことを理解し、就職先で活躍できる職域を具体的にイメージするよう指導します。

これらは学生と企業とのミスマッチを減らすためで、当コースはこの15年、約120人の学生を企業に送り出してきました。評価はその約75.8%が「4大生並み、4大生以上」。離職率は13.6%。学生の将来を後押しできていると感じています。

しかし「入口」が課題です。自動車のEV化などが取り上げられ、「金型やものづくりに未来がない」と思う人もいますが、そんなことはありません。世の中の多くの物が金型からできていますし、製造業は今なお日本の基幹産業です。

「金型やものづくりの魅力を知って欲しい」。その思いから当校では学園祭で様々なものづくりを体験できる企画を催しており、地域の大人や子ども約3千人が訪れます。それが金型やものづくりに興味を持ってもらえる機会になれば。そう願っています。

金型新聞 2022年8月10日

関連記事

ジヤトコエンジニアリング<br>永倉 均社長に聞く CVT技術を磨く

ジヤトコエンジニアリング
永倉 均社長に聞く CVT技術を磨く

この人に聞く 2018 電気自動車(EV)の登場で部品点数が減少したり、エンジンがなくなったりするのではないかといった金型への影響を危惧する声は絶えない。オートマチックトランスミッション(AT)や無段変速機(CVT)など…

【ひと】誠武製造部・伊澤高雄さん(44)

天職の金型磨きでコンテストを優勝した  与えられた時間は3分。その限られた時間の中で、金属を磨き、表面の精密さを競う。鏡のように輝く仕上がりにするには卓越した技能とノウハウが要る。  昨年、インターモールド2019のジー…

差別化できる設備投資、従来とは違う戦い方で次世代につないでいく 中村稔氏(日新精機社長)【鳥瞰蟻瞰】

当社は創業から50年間、冷間圧造金型一本で事業を続けてきました。しかし、10年後も同じように事業を続けていられるかというと、そうは考えていません。今ある仕事は相当減っていると思います。感覚的な予測になりますが、だいたい3…

【インタビュー】リヒト精光 鋼に命を吹き込む技術

鋼に命を吹き込む技術 『鋼に命を吹き込む』を合言葉に、プレス金型やプラスチック金型、ダイカスト金型ほか、半導体向け金型など幅広い型種の長寿命化に貢献する技術集団がリヒト精光(京都市南区、075-692-1122)だ。同社…

高野 英治さん 第50代天青会会長に就任した[ひと]

今年5月、日本金型工業会東部支部の若手経営者や後継者で組織される天青会の第50代会長に就任した。「つながりを創る」をスローガンに掲げ、コロナ禍で希薄化した会員同士のつながりや、海外とのつながりを強化する活動に取り組む。 …

関連サイト