金型づくりの世界では、自動化やAM、脱炭素向けなどの最新技術が数多く登場し続けている。その進化は止まることがなく、4年ぶりに開催されたJIMTOF2022でも多数の最新技術が披露され、注目を集めた。今年最後となる本特集で…
匠の技を自動化し、技能を伝承【特集:自動車メーカーの金型づくり】
自動化と人材育成—。自動車産業に関わらず、あらゆる製造現場において共通の課題となっている。人手不足は深刻化しており、課題解消に自動化、省力化は欠かせない。いかに若手に技能を伝承していくかも喫緊の課題となっている。一方で、既存分野の効率化や、次世代の自動車づくりに対応した人材の育成も不可欠だ。自動車メーカーの金型現場ではどのような取り組みを進めているのか。自動化における各社の取り組みを取材した。
熟練技能をプログラム化、作業工数50%に短縮
自動車メーカーの金型づくりで特に進んでいるのが設計と機械加工の自動化。「金型図面の作成は人への依存度が高い反面、形式知化が進んでおり、自動化できる部分が多い」と話すのは本田技研工業プレス金型設計課の村田好隆氏。本田技研工業では2018年頃から金型設計の自動化に取り組む。
同社では金型図面作成の流れを図式化したフローチャートを作成。現在、部品の配置など20%ほどの作業を自動化し、実用化を進めている。この自動化によって、設計に必要な人員を10%ほど削減できるという。将来的には、自動化率を50%まで高めることを目指している。


同じく設計の自動化に取り組むトヨタ自動車では、形式知化できていない部位でも熟練設計者の設計フローをプログラム化し、自動設計データを構築することで自動化を進めている。フェンダーの抜き工程では従来の設計に比べて作業工数は50%ほど削減できたという。トヨタ自動車モビリティツーリング部開発設計室の曽羽竜也氏は「部品や工程にもよるので、一概には言えないが、将来的には8割程度まで自動化率を高めたい」。
機械加工の自動化では、SUBARUが20年から技術ロードマップを策定し、技術開発に取り組む。すでにプロファイル加工やエアー穴加工などを自動化。別々の加工指示で行っていた複数の加工を一つにまとめて連続加工する「複数加工種同一加工化」も可能にした。


また、加工精度を向上させるために、工場環境の改善にも取り組む。工場窓や鉄壁に遮熱アルミシートを貼り付け、温度変化を抑制する工夫を施した。今後は設備投資も行い、さらに加工精度を向上させる。SUBARUツーリング課の八木橋健也課長は「現在の自動化率は65・5%。2025年までに自動化率100%を目指している」。
CBN工具で高面品位を実現し、手磨きの工数削減
設計や加工での自動化が進む一方、磨きや組立はまだまだ人の感覚や細やかな動きを必要とする部分が多く、自動化が難しい。そうした中、日産自動車ではこの磨き工数を減らし、なるべく人の手を介さずに機械加工で完結できる取り組みに注力する。
その一つがバニシング加工。CBN工具を使い、手磨きと同等の面粗さまで仕上げる工法で、21年頃から適用を始めた。機械加工のみで、Ra0・35μmを実現した。日産自動車圧型技術課の福元賢巳主管は「砥石を使っての磨き工数を省くことが可能になった。金型製作にかかるトータル時間の短縮につながっている」。

金型新聞 2023年8月10日
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