金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

JULY

14

新聞購読のお申込み

新栄ホールディングス 金型、プレス加工メーカーをグループ化【特集:連携・M&Aで乗り越える】

金型、プレス加工メーカー3社を傘下に置く新栄ホールディングス(東京都中央区、中村新一社長)。金属プレス加工メーカーの新栄工業(千葉市花見川区)がM&A(合併・買収)で取得したアポロ工業(埼玉県吉川市)と飯能精密工業(同飯能市)に新栄工業を加えた3社の持ち株会社として、2023年に設立。中小企業が単独で取り組むのが難しい経営戦略の策定や資金調達などを担い、グループ会社の持続的な成長を目指している。

技術者の安定雇用と育成目指す

「金型産業最大の課題は繁閑の差が激しいこと。閑散期には人材採用や投資を抑え、縮小する方向に意識がいく。それでは人材育成も安定した雇用も難しい。ホールディングス化の狙いは、繁閑の差をできるだけ平準化し、金型技術者を安定して長期的に育成できるような環境をつくることだ」。ホールディングスおよびグループ3社の社長を務める中村氏はこう語る。

中村社長はもともと父親から引き継いだ新栄工業で社長を務めていた。新たな社内体制づくりに取り組む他、プレス専業メーカーだった同社で金型部門を立ち上げ、金型の内製化を進めた。しかし次第に、自力で技術レベルを向上させるのに限界を感じるようになり、金型メーカーのM&Aを検討するようになった。「色々と条件に合う企業を探す中、出会ったのがアポロ工業だった」(中村社長)。

飯能精密工業では現場の安全性が向上

アポロ工業は自動車部品を中心とした金型の設計製作からプレス加工までを手掛け、高い技術力を持つ一方、後継者が不在で廃業も検討していた。新栄工業はM&A仲介会社を通じてアポロ工業を見つけ、2019年に約5000万円をかけて買収した。

事業譲受後、アポロ工業の高い金型技術力によって、EV部品や難加工材の加工など、他社ではできないような付加価値の高い仕事が増加した。特に自動車の電動化に伴い、EV部品の受注が増加。ただ、「工場をこれ以上拡張するのが難しく、生産能力を増強することができなかった」(中村社長)。

こうした課題を解決するために、並行生産できるプレス加工メーカーのM&Aをさらに検討。そこで22年に取得したのが、電子部品や医療機器などの精密プレス加工を得意とする飯能精密工業だった。

EV部品の並行生産体制を構築

同社は高い技術力によって年間1000万円ほどの利益を上げる高付加価値企業だったが、その一方で、創業者がつくった20件近い多重債務によって単独での返済が困難な状態に陥っていた。当時経営者だった中山久喜専務は「年間4000万円の返済が必要となっており、このままだと資金がショートしていく状況だった」と振り返る。この負債が同社のM&Aの大きな課題だった。

中村社長は飯能精密工業のM&Aを実現するためにさまざまな方策を思案。そこで活用したのが、複数の金融機関が協調して融資を行う「シンジケートローン」。新栄工業、アポロ工業、飯能精密工業の3社の株式を保有する持ち株会社「新栄ホールディングス」を設立し、金融機関からの借り入れを一本化。京葉銀行や千葉銀行など4行のシンジケート団から5・2億円を調達した。

こうして調達した資金を使い、飯能精密工業の既存借り入れを一括返済し、多重債務を解消。さらに、約1500万円を投じてEV部品の生産プレス加工ラインを導入し、並行生産体制を確立した。

左から飯能精密工業の中山専務、新栄HDの中村社長、山内取締役、飯能精密工業の田村部長

新栄ホールディングスではこうした資金調達に加え、リソースの限られる中小企業では取り組むのが難しいとされる戦略策定や管理、社員教育なども担う。飯能精密工業でも組織図を見直し、新たな経営理念を策定した。今後、目標や人事考課制度の策定などに取り組んでいくという。

グループ傘下に入って約1年。飯能精密工業ではすでに多くの従業員が変化を感じている。製造部の田村雅史部長もその1人。「一つは現場の安全性が大きく改善された。以前は安全装置のないプレス機もあったが、現在は全ての機械に取り付けられ、安全に作業できるようになった。もう一つは経営理念が策定され、目標や目的が明確になったことで、チームワークが生まれたこと。現場の雰囲気が明るくなり、働きやすくなった」。

また、グループ全体で人材育成にも取り組む。特に中間ポストが増えることで、従業員のキャリアアップの機会が広がり、リーダーの育成につながるという。「今は子どもが親の会社を継ぐ時代ではない。上場か売却しないのであれば、社内もしくはグループから後継者を見つけるしかない。ただ、1社単独で後継者を育成する環境をつくるのは難しい。グループならば、そうした環境を整えることができる」(中村社長)。

今後は、金型事業を手掛ける新会社をホールディングス傘下に設立することを検討している。グループ内の金型製作を新会社に集約し、安定した受注の確保を目指す。「金型技術者の安定した雇用と育成に取り組んでいきたい。金型は日本のコア技術。優れた金型技術は次世代に残していかなければならない。そのための取り組みを今後も続けていく」(中村社長)。

会社概要

  • 本社:東京都中央区日本橋富沢町16-5
  • 電話:048・981・5156
  • 代表者:中村新一社長
  • 創業:2023年
  • 従業員:90人(グループ全体)
  • 事業内容:金属プレス加工、精密金型・治工具設計・製作など(グループ全体)

金型新聞 2024年6月10日

関連記事

ミヨシ 未来見据えたひとづくり【金型の底力】

自社ブランドなどで魅力発信 東京都葛飾区の住宅街に工場を構えるミヨシは、アルミ製の簡易型やカセット型を主力とする。試作や小ロット生産向けに、成形までを一貫で手掛け、一歩進んだ人材育成にも力を入れる。こうした取り組みを基盤…

金型メーカーの新分野展開が加速する

事業再構築補助金を活用 金型メーカーの新分野展開、業態転換が加速している。コロナ禍や、自動車の電動化などによって事業環境が大きく変化する金型業界。多くの金型メーカーが2021年からスタートした「事業再構築補助金」を活用し…

TOWA 22年3月期、売上・利益、過去最高へ

半導体向け需要拡大続く TOWAの2021年3月期連結決算は売上高297億円(前期比17.6%増)、営業利益33億8800万円(同5.5倍増)で増収増益となった。 新型コロナウイルスの世界的な流行で厳しい状況が続いたが、…

ササヤマ FA装置ファブレスを子会社に

エナミ精機の技術を継承、販路開拓でシナジー 自動車部品などのプレス金型を手掛けるササヤマは、FA装置のファブレス企業ファストプランエンジニアリング(FPE)を子会社化した。親和性のある互いの販路や技術を生かし、新たな販路…

座談会 全景

新春座談会
金型メーカー4社が語る
新時代の経営戦略

独自の力を醸成 壁を乗り越える 新時代の経営戦略 座談会出席者(50音順) 伊吹機械 伊吹宏一営業部長  事業の80%がプレス金型、20%がプレス金型組込産業機械。プレス金型はこの20年で自動車関連の仕事が大幅に増え、7…

トピックス

関連サイト