金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

APRIL

04

新聞購読のお申込み

自動車メーカーに聞く ギガキャストに取り組む理由 トヨタ自動車門野英彦氏【特集:ギガキャストの現在地】

トヨタ自動車は昨年、2026年に投入を予定している次世代EVの生産工場にギガキャストを取り入れると発表した。従来数十点の板金部品で作っていたものをアルミダイカストで一体成形することで、部品点数を大幅に削減し、生産工程を半減させることを目指している。なぜ、ギガキャストに取り組むのか。鋳造・ダイカストの生産技術や金型の設計・調達などを担当する素形材技術部鋳造領域統括主査の門野英彦氏に取り組む理由や課題、金型メーカーに求めることなどを聞いた。

トヨタ自動車 素形材技術部 鋳造領域統括主査 門野英彦(かどの・ひでひこ)氏
1966年生まれ、愛知県出身。89年名古屋大学卒業後、トヨタ自動車入社。入社以来、主に鋳造領域を専門とし、鋳造・ダイカストの生産技術の企画、開発などに従事してきた。2024年6月より素形材技術部鋳造領域統括主査として現在に至る。

操安性向上と軽量化に期待

ギガキャストに取り組む理由とは。

理由はいくつかあります。一つは一体化によって車両自体の剛性が高まり、操縦安定性が向上するという点です。ドライバーの思い通りに動き、運転する喜びや楽しさをさらに感じてもらえる車の提供が可能になります。もう一つは軽量化です。電動車(EV)でも内燃機関(ICE)車でも燃費・電費は大きな改善項目となっています。材料を鉄からアルミに置き換え、軽量化することで燃費・電費の向上が期待できます。

その他には。

リサイクル性の良さも理由の一つです。以前、複数の材料を組み合わせた「マルチマテリアル」による材料およびプロセスの適材適所が話題を呼んだこともありますが、現在はリサイクル性を考慮し、なるべく1種類の材料で作る「モノマテリアル」にシフトしようとしています。複数の材料を用いるにしても分別しやすい構造が求められる中、部品の一体化が可能なギガキャストによって、リサイクル性に優れた車づくりが実現できます。

ギガキャストの採用を発表している「LF‐ZC」は車体を3分割にした構造となっている。

一つ申し上げておきたいのは、ギガキャストはこうした新しい車づくりを実現する選択肢の一つということです。当社では電気自動車(BEV)だけでなく、燃料電池車(FCEV)やハイブリッド車(HEV)、ICE車も含めた「マルチパスウェイ」でカーボンニュートラルを達成しようと取り組んでいます。選択肢を増やすことで、さまざまなお客さまの声に応える魅力的な車を作っていきたいと考えており、ギガキャストはそのための一つの手段に過ぎないと考えています。

ギガキャストを採用する上で必要なことは。

鋳造はプレスに比べ、形状自由度が高いのが特長です。ただ、今までの車は鉄板で作ることを前提に設計されており、ギガキャストを採用するとなると、この工法の良さを引き出す設計に変えないといけません。製造コストや安全性などを考慮した最適な設計が求められ、当社でもトポロジー最適化解析などを活用し、取り組んでいます。

金型における課題は。

最も大きいのが重量課題です。ギガキャストの金型重量は、先行している中国や欧米でもその多くは100tを超えています。中国や欧米では重量物の運搬にも耐え得る軍事用道路が整備されていたり、許認可申請が容易だったりしますが、日本ではそれほどの重量物を運搬できる道路が少ないのと、許認可申請にも多くの時間を要します。日本で取り組むには金型の軽量化が必要で、強度など金型機能の必要要件を満たしつつ、金型を合理的に分解できるよう構想し、取り回しやすくすることが重要となります。

その他には。

金型を分割する理由は運搬だけではありません。材料調達自由度の確保や金型加工設備の問題も挙げられます。材料が大きくなれば、熱間ダイス鋼の製造も難しくなりますし、大型加工機や熱処理炉、クレーンなど大規模な設備投資が必要になります。いかに既存アセットを活用できるような設計にするかが重要です。

金型メーカーはどう立ち向かうべきか。

金型メーカー同士での積極的な連携が必要だと思います。例えば、ギガキャストの金型となると、従来の型締め力2500tクラスの金型に比べ、加工に約8~10倍の時間がかかります。これほどの加工量を限られた納期の中、既存のパワートレーン製品の金型も手掛けながらこなすのは難しいのが実状です。また、大型設備は1社だけでは負担が大きいため、上手く競争と協業のバランスを取りながら高度な相互連携・アライアンスの構築が重要だと考えます。

金型業界にメッセージ。

世の中のスピード感に対応するにはより多くの仲間を作り対応していくことが大事になると思います。いかにシナジー効果を発揮し新しい価値を見つけていくことができるか。自動車メーカーとしても金型メーカーの方々と一緒になり取り組んでいきたいです。

金型新聞 2024年9月10日

関連記事

ツバメックス 多田羅晋由社長インタビュー【特集:金型メーカーのコト売り戦略】

昨今、顧客の課題解決につながるソリューションやサービスなどを提供する金型メーカーが増えている。なぜ、従来の金型づくりだけでなく、自社が保有する技術を生かしたソリューションや、AI・IoTを活用したサービスなどを提供するの…

年間500型以上を生産する工場長が実践する現場のスケジュール管理、最適化術【特集:工場長の条件】

時には経営者、時には教え諭す教育者—。工場長には多様な役割が必要だ。こうしたマルチタスクをこなすために、どのようなことを意識しながら、責務を果たしているのか。現役工場長に、工場長としての哲学を聞いた。 工程管理の見える化…

自ら商品を生み出す道に 山添重幸氏(かいわ社長)【特集:次の10年を勝ち残る4つの道】

EV化などによる金型需要の変化やAMをはじめとする新たな製造技術の登場など金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型メーカーには今後も事業を継続、成長させていくため未来を見据えた取り組みが求められてい…

自律し、考える人材を【特集:自動車メーカーの金型づくり】

自動化と人材育成—。自動車産業に関わらず、あらゆる製造現場において共通の課題となっている。人手不足は深刻化しており、課題解消に自動化、省力化は欠かせない。いかに若手に技能を伝承していくかも喫緊の課題となっている。一方で、…

【この人に聞く】大同特殊鋼 次世代製品開発センター主席部員・井上 幸一郎氏「SKD61相当の粉末材」

ダイカスト金型などでパウダーベッド式の金属3Dプリンタによる金型づくりが広がり始めてきた。背景の一つには、金型に適した材料の進化がある。中でも、これまで金型で広く使われてきたSKD61に相当する材料が登場し始めたことが大…

トピックス

関連サイト