金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

MARCH

24

新聞購読のお申込み

【鳥瞰蟻瞰】三条市立大学学長・アハメド シャハリアル氏 「創造性豊かなテクノロジスト」の育成を

技術とその価値を理解し
市場を創る人を育成
企業と共に未来考える場に

三条市立大学は、4月に開学した、技術とマネジメントに特化した一学部一学科で「創造性豊かなテクノロジスト」の育成を目的としています。その定義は、技術が生み出す価値を理解し、新たな市場を創り出すことができる人材です。そうしたイノベーションを起こしてこれからの高度なモノづくりをリードする人材を育成するとともに、地域の企業と一緒になって、持続的な成長を考えることが我々の役割だと考えています。

本学は、前市長の國定勇人氏と市の総合計画を議論する中から生まれました。三条市はものづくり技術の集積地として広く知られていますが、他地域と同様に技術者の育成や人材流出が課題でした。これは本当に根深い問題です。

これを解決するには、これまでと同じ教育で単に技術者を育成するだけでは困難です。特に今の日本の教育システムでは難しい。というのも、日本の大学は特定分野を追究する研究者の育成がメインであり、地域が求める人材を育成できていなかったからです。時間はかかりますが、地域の中小企業に必要な人材を育てることこそが、地域の持続的な成長につながるのではないでしょうか。

では中小企業に必要な人材はどんな人なのか。金型を例に考えましょう、金型の本質的な機能は量産のための道具で、金型メーカーが求めるのは、型をうまく早く精度よく作ることができる技術者です。

しかし、それだけでは不十分です。金型技術を使って生み出される価値は何か、市場はどこにあるのかと考える人材も重要です。まさにそれが「創造性豊かなテクノロジスト」なのです。その育成のために、技術だけでなく、ものづくりへの考え方、学び続けることの大切さなどを教えることが重要だと考えています。また、職人が持つ技術を数値化し、技能伝承につなげることなども「創造性豊かなテクノロジスト」の役割でしょう。

日本の中小企業には、残念ながらこうした人材が少なかった。なぜなら、これまで、言われたものを作るだけでよい時代が長かったからです。しかし、今後は、技術を理解し、未来を見通せる人材が中小企業にも必要になります。採用や人材育成にも関係してくるからです。

一般的に大企業が就職先として人気がある理由の一つは、安定や安心という未来が見えているからです。中小企業であっても、今作っている部品が将来も必要なのか。この事業はサスティナブルか。こうした未来を提示できなければ、優秀な人材は入ってきませんし、育ちません。

「創造性豊かなテクノロジスト」の育成だけでなく、大学自身も同じような存在でありたいと思っています。例えば、金型メーカーさんに集まって頂き、みなさんの声を聞いたり、議論をしたり。その声をもとに研究開発の支援や、サスティナブルな成長を一緒に考えたいと思います。先が見通しづらい時代ですが、トンネルの先のかすかな光を示せる存在になりたいですね。

金型新聞 2021年7月10日

関連記事

【この人に聞く】大同特殊鋼 次世代製品開発センター主席部員・井上 幸一郎氏「SKD61相当の粉末材」

ダイカスト金型などでパウダーベッド式の金属3Dプリンタによる金型づくりが広がり始めてきた。背景の一つには、金型に適した材料の進化がある。中でも、これまで金型で広く使われてきたSKD61に相当する材料が登場し始めたことが大…

【新春特別インタビュー①】日本金型工業会会長・小出 悟氏(小出製作所社長)「旧態依然の手法通用せず、今こそ変わるべき時」

旧態依然の手法通用せず 今こそ変わるべき時 〜金型産業ビジョン〜  1955年静岡県生まれ。78年に工学院大学機械工学科を卒業後、名古屋の金型メーカー高橋精機工業所に入社し、金型づくりを学ぶ。81年にアルミダイカスト金型…

新しい価値の金型を
キヤノンモールド 斎藤憲久社長に聞く

 キヤノンモールドが発足したのが2007年。前身のイガリモールドとキヤノンの金型部門で伝承されてきた技能や最新技術など互いの得意分野の融合を図ってきた。「新しい価値を生み出す金型メーカーを目指したい」と語る、昨年4月に同…

3Dプリンタ活用を支援する研究開発拠点を開設 酒井仁史氏(NTTデータザムテクノロジーズCTO)【この人に聞く】

独EOS社の金属3Dプリンタの日本代理店を務めるNTTデータ ザムテクノロジーズ(XAM)。昨夏に、大阪市内に金属3Dプリンタ15台のほか、多様な検査装置を備えた「デジタルマニファクチャリングセンター(DMC)」を開設し…

電動化3種の神器に挑む
〜生産現場を訪ねて〜 ニシムラ(愛知県豊田市)

特集  次世代車で変わる駆動部品の金型(バッテリー、モータ、電子部品)  「自動車向けの金型を手掛ける企業は今後、バッテリー、モータ、電子部品、この3部品に携わっていないと生き残れない時代になる」と話すのはプレ…

関連サイト