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MARCH

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金型産業の未来・トヨタ自動車
高見 達朗氏に聞く

粗形材改革の〝要〟
孫の代まで続く金型産業
②写真、トヨタ自動車高見達朗常務理事。

「金型は、常に進化させながら孫の代まで延々と続く重要産業」――トヨタ自動車ユニット生技領域長、常務理事高見達朗氏はこのほど、日本の金型産業について熱く語った。日本産機新聞の自動車特集(9月25日発行)の取材で、トヨタ自動車が「もっといいクルマをつくろうよ」(豊田章男社長)を基盤に、ものづくりを大改革させている話の中で、「金型産業は不滅。日日之改善」とラブコールを送った。

金型は、粗形材革新が一段と進むことで品質・精度、数量拡大がますます高まるから、と背中も押す。高見常務理事に金型への思いを聞いた(場所:トヨタ自動車本社、パワートレーン共同開発棟で)。

*「もっといいクルマをつくろうよ」と、トヨタ自動車が創業以来の大改革を進める記事は、日本産機新聞社9月25日発行の「自動車産業特集」に掲載する。ご参考下さい。

―「もっといいクルマづくり」に必要なこと。
「生産技術に関して言えば、そのキーは『素形材革新』。なぜ粗形材革新かと言うと、粗形材分野は工法上、材料自体や熱的処理による組成変態をコントロールする必要があり、技術的難易度の観点から、長年大幅な生産技術革新は停滞してきました。

この粗形材の世界が革新できれば、我々が理想とする粗形材から機械加工スルーの究極の『1個流し』一貫生産体制が構築でき、生産リードタイムは大幅に短縮できる。ここを我々生産技術は目指しています」。

TNGAへ向け挑戦

―実用化の見通しは。
「今はまだ道半ば。TNGA(きょうのことば参考)に向け、更なるチャレンジを続けている」。

―80年代からネットシェイプを進めていますが、その現況は。
「目指すところは、究極のネットシェイプを行い、削りを限りなく少なくする。されど研磨は残り、必要に応じて仕上げる機械はいる。どこまで革新ができるか、と言うと、90年代のネットシェイプ率は75%~80%ぐらい。つまり粗形材ができ、ものを削り出すのに2割5分も捨てていた。

その後、さまざまな革新を行い、現状は85%~90%。特に鍛造部品は今後、ネットシェイプ率の高い焼結部品への置換えも検討されており、TNGAの時代は、90%以上を目指したい」。

―切削工具に何を求めますか。
「削りの側から言えば、現状に甘んずることなく、もっと革新的な工具の開発を求めたい。切削能率、加工能率を90年=1とすると、現状の加工能率はアルミ材で4倍くらい、鋼材で2倍くらい上がっている。2020年ぐらいまでにはその倍に持っていってもらいたい。アルミで8倍、鋼で4倍」。

―相当な改革です。
「ぜひやっていきたい。何故かと言えば、私は工具屋出身で、工作機械の進化は歴史上刃物で決まってきた。工具が進化することで工作機械も進化せざるを得なかった。そうした意味で、工具メーカーさんにどんどん革新的工具を開発してもらいたい」。

―金型産業への期待は。
「先程、粗形材が鍵を握ると申し上げた。そのためにはネットシェイプを更に推していく必要があるが、粗形材を成形する上で金型加工分野に課題が大きく圧し掛かる。つまりは金型を削る世界は必ず残り、今後、その重要性がどんどん増していく」

母材の強度などカギ

―具体的には。
「ネットシェイプを追求していくと、金型母材の高強度化や耐熱合金化、コーティング被膜の革新が鍵を握ってくる。つまり、難削材加工を極める必要性が生じ、金型を精密に能率よく加工できる技術が来るわけ。

金型加工の進化は、我々が自動車部品を加工するレベルでなく、次元の違うレベルに向かっている。もう少し具体的に言うと、昔はほとんどダイス鋼だった金型が、工具のような超硬材やコーティングを施したものに変わろうとしている。これは何を意味するかと言うと、超硬材の工具を一刀彫で削って下さいと言っているようなもので、全然削れなくなるわけです。

そういった難課題を解決する工具開発や設備開発は、今後、どんどん需要が高まると申し上げています。愛知県の場合、産官行政が連携して共同研究をしている開発拠点『智の拠点あいち』があります。

ここでは難切削材を超音波で楕円振動させながら型彫りする基礎実験や摩耗を物凄く少なくする特殊な刃先処理を行った工具の基礎研究なども行っており、金型加工の分野もそういう研究段階に入っているのです」。

―未来に夢があるお話です。
「それを極めていくと、もっとやわらかいアルミ材や鋼材を削る時にも、その技術が生きると考えています。これから増えてくる金型の材料革新、被膜の革新に対し削れる技術をぜひつくってもらいたい。これが『もっといいクルマをつくる』ところにつながれば我々も革新がさらに進むと考えております」。

 

(大変お忙しい中、取材に応じていただけ有難うございました。日本産機新聞の取材の中で、まさか金型に関連するお話しが聞けるとは思いもしませんでした。日本産機新聞の自動車特集と併せ、ぜひこの記事をお読み下さい。トヨタ自動車の明日の姿が浮き彫りになります。最後に私から金型産業の皆さんに「もっといいクルマ」に乗るために、「もっといい金型」をつくろうよ、とお伝えしたくなりました。

きょうのことば TNGA
「もっといいクルマ」つくるための改革

トヨタ自動車は昨年、技術ベースで中長期製品戦略TNGA(Toyota New Global Architectureの略。以下、TNGA)をまとめた。「もっといいクルマづくり」に向けて、商品力の飛躍的向上と原価低減を同時に達成する。骨格は5つ。

  1. 商品力の向上
  2. グルーピング開発による「もっといいクルマづくり」と開発効率化
  3. ものづくり改革
  4. グローバル標準への取り組み
  5. TNGAと連動した調達戦略

金型産業に関連する項目、 ①「商品力の向上」。クルマを骨格から変え、低フード化、低重心化を実現し、かっこいいデザイン、良好な視界確保、運動性能の向上など、お客様の感性に訴えるクルマとなるよう、次期プラットフォームを開発し、2015年に発売する新型車から順次導入する。基本部位(プラットフォームやユニットなど)の性能をレベルアップし、「もっといいクルマ」の実現を目指す。また、クルマの中核となるパワートレインユニットについても、低重心・高性能なユニットを開発し、順次搭載する。

②「グルーピング開発」。TNGAの開発プロセスでは中長期の商品ラインアップを確定し、それらに搭載するユニットやその配置、ドライビングポジションなどをトヨタの「アーキテクチャー」(クルマづくりの設計思想)として定める。定められた「アーキテクチャー」に基づき、複数車種の同時開発を行う「グルーピング開発」により、部品・ユニットの共用化を進め、「もっといいクルマづくり」と開発の効率化を推進する。なお、TNGAの導入により、20~30%の開発効率向上を目指し、その結果として得られたリソーセスを、さらに「もっといいクルマづくり」に投入する。

③「ものづくりの改革」。仕入先と調達(部品・ユニットの調達を担当する部門)・生産技術(生産技術を担当する部門)・技術(研究・開発を担当する部門)の各部門が四位一体の活動により、よりつくりやすく、よりシンプルな、部品・ユニットの構造を実現する。以上が、TNGAの一旦。

プロフィール

1985年3月芝浦工業大学 機械工学科卒。同4月トヨタ自動車入社、2000年1月生技管理部ユニット生技企画室主幹、04年1月同主査、同年9月トヨタモーターエンジニアリング アンド マニュファクチャリングノースアメリカ出向、07年6月同社生技管理部ユニット生技企画室主査、09年5月同社経営企画部BR明日のトヨタ準備室主査、10年1月同社衣浦工場第1TM製造部長、13年4月常務理事就任、衣浦工場長、三好工場長、ユニットセンターユニット統括部主査、14年4月現職。主な現兼職2013年6月アイシン高丘取締役、14年6月大豊工業監査役。

金型新聞 平成26年(2014年)9月10日号

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