EV金型を高精度加工、自動化提案や技術向上に力 安田工業はこのほど、立形5軸マシニングセンタ(MC)の新機種「YBM Vi50」を発表した。立形5軸MCの中型機で、EV(電気自動車)部品の金型を高精度、高能率に加工できる…
TMW 切削工具メーカーと挑む金型製造の効率化【Innovation〜革新に挑む〜vol.1】
自動車向け大型プラスチック射出成形用金型メーカーのTMWが、金型製造の効率化に向けた取り組みを進めている。販売代理店も務めるクランプシステムや、5軸加工に対応した最新の切削工具などを活用し、加工時間や段取り工数の短縮、5軸加工技術の開発を行う。将来的には人手を介さずに金型製造を行う〝オートメーション〟による生産システムの構築を目指す。

深物金型の製造技術が強み



愛知県稲沢市に本社工場を構えるTMWは、自動車のインストルメントパネル(インパネ)やドアパネル、バンパーなど30t未満の大型プラスチック射出成形用金型を得意とするメーカーだ。特に深物金型の製造技術に特長を持ち、金型設計から製造、組立、トライまでを一貫して提供している。近年はより彫りの深い金型が増え、「従来だとパネルからフロントエンドまでの長さが300~400㎜ほどだったが、最近では700~800㎜といったニーズもある」(MF部アドバイザー・臼井勝氏)という。
こうした深い金型のキャビティ側には周辺部品を取り付けるためのボスやネジ穴などが設けられ、その加工は放電加工で行う。加工精度は100分の5㎜と高く、放電加工に使う電極製作にも高い加工技術が求められる。同社では20年ほど前からMOLDINO(モルディノ、東京都墨田区)の工具を使って高精度な電極加工を実現している。「当社の加工技術は放電加工と電極製作と言っても過言ではない」(臼井氏)。
切りくずによる加工トラブルを解決

近年、インパネ形状の複雑化によって、同社が手掛ける金型の構造も複雑化している。特に金型のコア側では押上げ機構やアンダーカット処理を行う駒(入れ子)を入れ込むポケット加工が増加。こうしたポケット穴は立形加工機で加工する同社にとっては切りくずの噛み込みが多く、加工トラブルが絶えなかった。
この課題を解決したのもMOLDINOの工具だ。切りくず排出性に優れる刃先交換式エンドミルによって、これまで多発していた加工トラブルが減少。金型加工の効率化や品質向上につながったという。「導入以降、現在に至るまで当社の金型加工に欠かすことのできない工具の一つになっている」(臼井氏)。
同社は現在、金型製造の他、成形やホットランナーなど複数の事業を展開する。その中でも注力しているのが、18年から日本総代理店を務める伊FCSSystem社(以下、FCS社)製のクランプシステム「FCSSystem」だ。ワークを固定する治具をモジュール化したクランプ装置で、安全に誰でも簡単に段取り作業を行えるのが特長。「MF部」が取り扱い、日本を始め、韓国や中国、東南アジアなどに拡販を進めている。
本社工場のマシニングセンタ(MC)にも搭載し、「作業の安全性や作業効率が向上し、段取り時間を75%削減できた」(MF部マネージャー・菊田克己氏)と効果を上げている。
同時5軸加工で加工時間短縮


「FCSSystem」はワークの底面をクランプする構造のため加工時の干渉エリアが無く5軸加工にも適している。昨年ポートメッセ名古屋で開催された「メカトロテックジャパン2021」では、MOLDINOと共同で同時5軸加工のワークを展示した。
展示したのはインパネ用金型のスライドコア。このワークは形状部、側面、底面と色々な方向からの加工が必要で、従来の3軸加工だと膨大な段取り工数がかかっていた。「FCSSystem」を活用することで、段取り工数を大幅に削減。これまで120分かかっていた段取り時間を30分に短縮することができたという。
また、加工時間が長いのも大きな課題となっていた。この問題を解決したのがMOLDINOの高能率工具。荒加工に高能率ラジアスミル「TR4F」を使用した他、仕上げには工具径より大きなR(アール)や側面と先端で異なるRを持つ異形工具シリーズ「GALLEA(ガレア)」などを駆使し、加工した。
特にバレル(たる)形状で側面に大きなRを持つ刃先交換式工具「GF2T」は通常のボールエンドミルに比べ、約3.0倍の加工能率を実現。また、先端と側面で異なるRを持つボールエンドミル「GS4TN」は壁部と隅部を1本で加工できるため、工具交換による加工段差が無くなり、修正にかかる時間などを削減した。これらの工具によって、加工にかかる時間を従来工法に比べ、36%削減できたという。
「5軸加工は機械だけでなく、治具や工具を上手く組み合わせることが重要だ」(MF部執行役員・立松祐一氏)。
金型製造の完全自動化を目指す

こうして培った知見は同社の金型製造現場にも展開する。現在、18年に導入した5軸MC「D200Z」(牧野フライス製作所)を活用し、小物(30~50角程度)の同時5軸加工に取り組んでいる。AWC(オートワークチェンジャー)に「FCSSystem」で外段取りしたワークを載せ、24時間加工できる仕組みの構築などを目指している。
将来的には人手の介入を要することなく、完全自動で金型を製造する〝フルオートメーションシステム〟を構想する。「今後、5軸加工を始めとした自動化・省人化に向けた取り組みを進め、金型製造における〝オートメーション〟の先陣を切りたい」(立松氏)。
会社概要
- 本 社:愛知県稲沢市奥田大沢町27
- 電 話:0587-32-6281
- 代 表 者:立松宏樹社長
- 創 業:1949年
- 従 業 員:174人
- 事業内容:自動車内外装プラスチック成形用金型の設計・製作など。
金型新聞 2022年4月10日
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