金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

APRIL

26

新聞購読のお申込み

プラスチック射出成形品の離型抵抗評価金型【金型テクノラボ】

プラスチック製品を射出成形金型から突き出す際に生じる離型抵抗は、製品に変形や破損を引き起こすため、様々な抑止方法が提案されている。この抑止方法を検討する際には離型抵抗の定量的な評価が重要となる。本稿では、離型抵抗を評価するために設計・製作した金型と計測事例を紹介する。

図1 離型抵抗評価金型の構造

離型抵抗の定量的評価が課題

プラスチック射出成形品は形状が複雑であることが多いため、成形品を金型から突き出す(離型させる)際に、成形品に無理な力(離型抵抗)が作用して変形や破損などが発生することがある。レンズなどの光学部品や歯車などの精密機構部品では高い形状・寸法精度が要求されるため、それを満たすには金型内に射出される樹脂に高い圧力が負荷される。

高い樹脂圧力は成形品面へのキャビティ面性状の転写を高める一方で、成形品とキャビティ面との密着も高めるために離型抵抗が大きくなり、問題となっている。離型を円滑に行うためにキャビティの表面性状を調整したり、離型性の良好な材料をコーティングしたり、成形材料に離型剤を添加したりするなどの対策が採用されている。しかし、それらの効果を定量的に評価するための統一された方法が見当たらず、離型技術の開発における課題となっている。

力センサで離型抵抗を計測

離型抵抗は次の2通りに大別できる。①レンズなどの成形品が貼り付いているキャビティ面に対して直交方向に発生する場合②筒状やリブ付き成形品などの成形品が貼り付いているキャビティ面に沿って発生する場合—。①ではアンカー効果やメニスカス力、負圧などが原因とされ、②ではキャビティ表面上の細かい凹凸内で起こる樹脂の掘り起こしやメニスカス力などが原因とされている。

筆者らはこれまでに、①の離型抵抗を計測するための金型を設計・製作した。そして新たに、②を計測するための金型を設計・製作した【図1】。本金型では、金型分割面に対して垂直方向に設けられた矩(く)形状のキャビティ面に沿って発生する離型抵抗を、キャビティ底面に設置された角形エジェクタピンを介し、力センサによって計測する。

②の離型抵抗は樹脂の掘り起こしが主な原因となるため、離型開始時に成形品面に作用している垂直抗力を計測することが重要となる。そこで本金型では一方のキャビティ側面ブロックに樹脂圧力センサ、対向するブロックの後方にひずみセンサを挿入し、成形品に生じる垂直抗力を推定する。

離型抵抗と垂直抗力の相関関係

図2 各種センサ出力の経時変化(樹脂:汎用ポリスチレン、保持圧力:90MPa)

【図2】は本金型で計測した、射出開始から保圧、冷却、型開、成形品の突き出しに至る全工程におけるセンサ出力を示している。成形機の射出圧力や角形エジェクタピンによる成形品の突き出し動作、樹脂圧力、力センサ出力、キャビティ側面ブロックのひずみの経時変化を読み取ることができる。

射出開始と同時に、射出圧力および樹脂圧力、力センサ出力、ひずみが立ち上がり、その後、保圧・冷却工程において緩やかに低下し、型開と同時に急激に低下している。ただし、金型が開いても、樹脂圧力と力センサ出力、ひずみはゼロに戻らず、ほぼ一定の値を保持している。

つまり、突き出し前には成形品内部に残留圧力、キャビティ側面ブロック内に残留ひずみが生じ、これにより成形品面に垂直抗力が作用していることが分かる。その後、突き出しが開始されると離型抵抗が出力される。保持圧力の増加に伴い、離型抵抗が増加することや、離型抵抗と垂直抗力には相関関係があることなどが明らかになった。

また、キャビティ側面ブロックは交換が可能なため、キャビティ面の粗さや形状、ダイヤモンドライクカーボンなどの離型膜が離型抵抗に及ぼす影響について評価ができる。今後、これらの評価を進めていくことを予定している。

日本工業大学

  • 基幹工学部機械工学科 
  • 教授
  • 村田  泰彦氏
  • 埼玉県南埼玉郡宮代町学園台4-1

記者の目

自動車の軽量化や環境負荷の軽減などを背景に、様々な新しい樹脂が登場している。また、成長分野のEVや5Gでは複雑、微細な成形部品が求められている。こうしたニーズに対応し、高品質な射出成形を可能にするには最適な離型技術の開発が不可欠。この金型で定量的な離型抵抗評価が可能になることによって、さらなる技術の進化につながることを期待したい(平)

金型新聞 2022年10月10日

関連記事

日立金属 ハイテン向け冷間金型用鋼を量産化

被削性3.5倍に 日立金属(東京都港区、03-6774-3001)はこのほど、被削性を従来品よりも約3.5倍に高めた冷間ダイス鋼「SLD‐f」を開発、8月から量産を開始した。自動車部品のハイテン化が進む中、金型の寿命向上…

板鍛造プレスによる金型内ねじ転造工法の確立【金型テクノラボ】

雄ねじの加工では鍛造と切削や転造などの2つ以上の工程を必要とする。工数が多くなるため、リードタイムの悪化やコストアップという課題が指摘されてきた。当社ではコンパクトな「ねじ加工性金型」を開発し、金型内で一貫してねじ転造が…

入野機工が内面研削の新機種を発売

初心者でも使い易い汎用機 内面研削盤メーカーの入野機工(埼玉県川口市、046・874・7444)はこのほど、「汎用精密内面研削盤IIGシリーズ」を発売した。累積販売台数が3100台超の実績を誇る「YIGシリーズ」をリニュ…

刃先交換エンドミルに
ダイジェット工業

高硬度材用インサート  ダイジェット工業(大阪市平野区、06・6791・6781)は、刃先交換式ボールエンドミル「ミラーボール」に高硬度材加工用インサート「TSインサート」を追加し発売した。  加工時の発熱を抑えるため、…

「金型台帳」を データベース化
打田製作所

 「金型メーカーが情報管理をするのは、自社の知的財産を守るためと顧客情報を守るための2つの意味で重要だ」と話すのは、飲料や化粧品などのプラスチック金型を手掛ける打田製作所の打田尚道社長。同社は15年ほど前に社内で情報シス…

関連サイト