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【金型テクノラボ】高硬度金型の加工に最適な工具の開発

情報通信産業や自動車産業の進歩に伴い、部材の集積・小型化が進んでいる。部材の生産に用いられる高硬度な金型の加工では工具の摩耗が早く進行する課題があるほか、様々な被削性のある被削材の加工にも対応する必要がある。本稿では、これらの課題に応える京セラの高硬度材加工用(微細加工)ソリッドボールエンドミル「2KMB」を解説する。

新コーティング「MEGACOAT HARD EX」について。

高硬度材加工用(微細加工)ソリッドボールエンドミル「2KMB」は高硬度金型の切削加工において、工具摩耗の進行改善や様々な被削材に対応するため、新たに開発したコーティングの「MEGACOAT HARD EX」(※MEGACOATは登録商標)を採用し、調質鋼から70HRCの焼入れ鋼まで幅広い硬度の被削材の加工に対応している。

図1 MEGACOAT HARD EXのコーティング構成

「MEGACOAT HARD EX」の特徴は、図1のコーティング構成が示す通り、高靭性で耐熱衝撃性に優れる1層目、高硬度で高い耐酸化性を有している2層目、コーティングと超硬母材との間に形成される密着層で構成されていることで、優れた耐チッピング性・耐摩耗性を両立させた。これにより、硬度や被削性の異なる様々な鋼材の加工にも対応することができる。後述は被削性の異なる3つの鋼材を用いて切削性能を検証した加工の事例である。

①55HRCの「STAVAX」(※ウッデホルム社の商標または商標登録)の場合
図2 STAVAX切削における摩耗幅推移

図2が示すように、「2KMB」は緩やかな摩耗進行を見せ、先に述べた密着層の効果でコーティングの早期剥離を抑制し、耐摩耗効果が維持されている。

②SKD11(60HRC)の場合

SKD11の切削加工では微小チッピングを生じやすいが、「2KMB」はチッピングなく安定加工できる結果となった。1層目である高靭性結晶層の効果により刃先の微小チッピングを抑制した結果、このチッピングを起点とする摩耗の進行を防ぎ、安定して加工できる。チッピング損傷が生じやすい被削材においても同様に長寿命化を実現した。

③70HRCの「HAP72」(※日立金属の商標または登録商標)の場合

今回の加工事例の中で最も高硬度なHAP72においても「2KMB」は優れた耐摩耗性を示している。硬度が高い被削材は、切削点が高温化し、コーティングの酸化を促進するため、工具摩耗の進行が早くなるが、2層目の特殊積層構造層の高硬度・高耐酸化性の効果で、工具摩耗の進行を抑制することができた。

『高硬度材加工に適した新設計形状』について。

続いては、高硬度材加工において、優れた切れ味や高い面品位、耐摩耗性能を発揮する新設計形状について紹介する。

図3 2KMBの形状特徴

「2KMB」の新設計形状のポイントは3つあり、図3の「2KMB」の形状特徴が示すように、「Sを描く切れ刃形状」、「徐変すくい面・徐変逃げ面形状」、「高剛性形状」がある。

「Sを描く切れ刃形状」は、底刃のねじれを大きくすることで優れた切れ味を発揮し、高品位な仕上げ面と工具の良好な耐摩耗性能を実現している。

「徐変すくい面・徐変逃げ面形状」は、ボール先端部から外周刃にかけてすくい角・逃げ角を徐々に変化させるなど、高硬度材の加工に最適な設計とした。

「高剛性形状」は大きな芯厚・断面層を確保し、剛性を高め、たわみやびびりを抑制し、安定加工と優れた加工精度を実現している。こうした新コーティングと高硬度材加工に適した工具形状により、工具摩耗の進行抑制や優れた高品位な仕上げ面を可能にした。今後も金型加工に最適な工具ラインアップの拡充に向け研究開発を進めていく。

京セラ

  • 機械工具事業本部 
    • 機械工具材料開発部 渡邉  賢作氏
    • 機械工具形状開発部 中園  陽二氏
  • 京都市伏見区竹田鳥羽殿町6
  • TEL:075-604-3651

金型新聞 2022年3月10日

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