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スズキ 勘や五感を「電承」

無線センサー、AI活用がカギ

自動車メーカーのスズキは、金型の生産現場における熟練技能者の勘や五感を見える化し、次世代へ継承する活動「電承」を進めている。フルオーダーメイドの無線センサーから得られるデータを活用し、経験や感覚に依存していた判断基準を数値化。また、現場の技術者がAIを使い、電気制御プログラムの作成やデータ分析などを手掛ける。技能伝承を進める専任チームを作り、暗黙知を形式知としている同社の活動に迫った。

「電承」の活動を開始したのは2024年。活動を進める背景は、熟練技能者が今後数年で大量に定年を迎えることだ。ものづくり推進部金型技術課の組谷智之主幹は「実質的な活動年数を考えると、残された時間は5年しかないという危機感から活動が始まった。特に金型技術は経験則に基づく五感による判断が多く、文書化されていない暗黙知も少なくない」と話す。

取り組みの中核となるのが、オーダーメイドの無線センサーと取得したデータの見える化だ。同社は、無線式でフルオーダーメイドのセンサーを手掛けるKMC社の協力を得て、計測システムを構築。生産設備や金型内部の瞬間的な内圧、温度、型開き量などをデジタルデータとして取得できるようになった。

得られたデータを見える化する作業は、現場の技術者が生成AIを使い、自ら手掛けた。電気制御の専門知識が必要なため、従来は電気担当者に依頼していたが、対応に時間を要するのが課題だったという。「AIの活用により、専門知識がなくてもラダープログラムなどを作成し、制御装置を自分たちで組み上げることができる。これにより、技能伝承のスピードが大幅に上がった」(組谷主幹)。

製造現場の技術者がAIを活用し、自ら制御装置を手掛ける

AI活用は、熟練技能者が持つ技術の言語化にも貢献した。組谷主幹は「技術者は現物と向き合う仕事が中心で、言語化に慣れていない人が多い。対人だと、うまく説明できるか分からないという心理的ハードルもあった」と話す。

そこで威力を発揮したのがAIとの対話だ。判断の理由や基準を繰り返し言葉にするだけでよく、話が整理できていなくても構わないという。「話した内容をAIが整理し、暗黙知を文書化していった」(組谷主幹)。

成果の一つが、ダイカスト金型の温度測定による製品不良の削減だ。無人で一晩、金型表面をサーモカメラで撮影したところ、ライン停止時に温度上昇がみられた。「原因を調べると、アルミインゴットを溶解する際の投入間隔にばらつきがあった。これが保持炉の温度上昇を招き、停止につながっていた。そこで、投入間隔を一定にすれば、不良が半減すると分かった」(組谷主幹)。

ダイカスト金型の温度測定により、製品不良が半減すると判明した

プラスチックの射出成形でも、最終目標に向かい進んでいる。無線センサーで射出直後の圧力や温度を実測したところ、CAEの設定温度が実態とずれていたことが判明。実測値に解析条件を合わせ込むことで、解析と実測の波形が近づき、精度の高いシミュレーションが可能になった。「データを基に熟練技能者と若手技術者が議論し、判断根拠の深掘り・定量化が進んでいる」(組谷主幹)。

活動の推進にあたっては、専任チームを作った。「兼任では既存業務が優先され、活動が後回しになる。専任化して初めて継続的に取り組める」(組谷主幹)。当初は数人だったチームは、現在30人超に拡大。メンバーは志願して加わったという。「役割を自ら定義し、自発的に動くクリエイティブな人材が多い」(組谷主幹)。

組谷智之主幹

活動は道半ばのため、課題も残る。「センサーで得られるデータ量が膨大なため、解析時、データに溺れてしまう。データの中のどの数値・傾向に注目すべきかを判断するのは熟練技能者でなければ難しい」(組谷主幹)。データを取得・分析する人材と、現場で長年の勘を頼りに働く人材との間にギャップが生じているのも課題だという。

課題の解決には、より多くの熟練技能者の協力が欠かせない。「電承を正式な会社方針・業務として位置づけ、多くの部署・拠点を巻き込んでいく。将来的には『スズキ・スマートファクトリー(SSF)』と融合し、全社で取り組みを加速させたい」(組谷主幹)。

また、金型で得られた知見を他の技術領域へ展開を目指す。組谷主幹は「手直し不要で高品質な車を作るのが最終目的。これに対し、金型の取り組みだけでは不十分だ。材料や設備の分野でも同様の活動を進めたい」と語った。

金型しんぶん2026年9月10日号

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