金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

APRIL

19

新聞購読のお申込み

―スペシャリスト―〈ヘラ絞り〉山村製作所〈ヘラ型〉田中鉄工
ものづくり支える匠の技

ヘラ棒と呼ばれる工具を回転する金属の板に押しあてて、滑らかな曲面や艶やかな平面に加工するヘラ絞り。品質の良い製品をつくるには、ヘラ棒を操る卓越した技術もさることながら、匠の技を受け止めることができる金型が必要だ。ヘラ絞りを手掛ける山村製作所とヘラ絞り金型メーカー田中鉄工には、長年の経験で培った職人技が息づいていた。

〈ヘラ絞り〉山村製作所

技術向上に終わりなし

山村製作所1

金属の板がみるみる形を変える

ぶぉーん…ぐぉーん…。山村製作所の工場に、ヘラ棒に押しあてられた金属の板が振動する音が鳴り響く。平らだった板は、緩やかな傾斜を描き、くびれ、みるみると形を変えていく。完成したのは底のない盃のような製品。押さえつけたり、膨らませたり。わずか2、3分程度で仕上がった。

山村製作所はヘラ絞りを専門に手掛ける。製作するのは照明器具の反射板や配管をはじめミラーボールなど多岐にわたる。照明機器や住設機器メーカーから注文があるのは球体などプレス加工では技術的に不可能だったり採算が合わなかったりする小ロット品(数個~7000個)や試作品だ。

山村製作所2

ヘラ棒

ヘラ絞りは経験やノウハウ、そしてセンスがいる匠の世界。ロクロと呼ばれる機械で金属の板を回転させ、ヘラ棒を板に押しつければいいわけではない。銅や真鍮、ステンレスなど材質によって柔らかさが違うし、気温や湿度によって加えるべき力加減は異なる。

この道何十年の山村烓一社長は経験と五感を生かし、手に力を与え、金属の板に命を吹き込んでいく。山村社長は「今までいろんな物を絞ってきた。その経験をもとにどうやって絞るかを考えるんです」と話す。

山村製作所2

できあがった製品

山村製作所のルーツは父が第二次大戦中に創業したヘラ絞りの会社。山村社長は3人兄弟の末っ子で、それぞれヘラ絞りで独立した。その当時、大阪には生野区や平野区、東大阪市にヘラ絞りの会社が沢山あったという。しかし後継者不足やプレス技術の進歩でずいぶん減った。

とはいえ、長男とふたりで営む山村製作所には今も注文が引きも切らない。「ヘラ絞りの技術に終わりはない。腕を磨くためには一生勉強です」という。

ところで、ヘラ棒で材料にかけた力を受け止める円錐やうりざね型の金属は、もしや金型ではないのだろうか…。素朴な疑問を聞いてみると、ヘラ絞りの金型をつくる田中鉄工に製作を依頼しているという。
NC旋盤が次々と切粉を吐き出していく。加工しているのはヘラ絞り専用の金型。町工場が集まる生野区にある田中鉄工はその専業メーカーだ。

山村製作所 山村社長

山村社長

山村製作所
本社:大阪府東大阪市柏田西1‐3‐18、06・6728・4965
代表者:山村烓一氏
社員数:2人
事業内容:ヘラ絞り加工

〈ヘラ型〉田中鉄工

一人で作り上げる妙味

田中鉄工1

ヘラ絞り用の金型

ヘラ絞り用の金型と一口にいっても様々な種類がある。円錐や円柱の形をしたヘラ型。側面に凹凸のある製品を加工するため製品よりも外径が細く製品を取り出せるロール型。これも側面の窪みを加工するため、窪みの頂点で分離する杵型。L字の加工をするためのウラ型。そして球体を加工するため蜜柑の房のように分解できる割型というものもある。

手掛ける金型は最小でφ5㎜、最大φ1600㎜。取引先は約150社。1ヵ月に受ける仕事はヘラ絞り会社を経由する関節注文も入れて約130面。年間1500面もの金型をつくり全国のヘラ絞りの会社に納めている。

ヘラ絞りの仕事は、小ロット品や試作品であるため製品の形状、金属の材質、生産数量が変わる。金型づくりで大切なのは、そうした取引先の受注内容を考慮して、使いやすく、最も適したスペックに仕上げることだ。

金属の材質が鉄かステンレスか真鍮か。つくるのは数十個か数千個か。それによって金型の材質を選び、焼入れをするかしないかを決める。そして取引先が得意とするヘラ絞りの技術も考えて、形状も微妙にアレンジする。

田中鉄工2

旋盤で金型を加工する

田中敬一社長は「例えば、ある製品の金型を別々の2社から製作依頼を受けても完成する金型は微妙に違う。それぞれ最も使いやすいように工夫してつくりますから。まさに一品一様。ヘラ型づくりの魅力です」と話す。

田中社長は2代目。近畿大学理工学部で学び、大手自動車メーカーの技術者への道もあった。しかしそちらへは進まず、父が経営する金型メーカーへ。

「様々な人が関わり完成する自動車などと違って、ヘラ絞りの金型は、取引先から要望を聞き、設計し、旋盤で加工する、その全てを一人で完結させる面白さがある。納めた金型が褒められたとき、嬉しさがこみ上げてきます」と田中社長。

プレスや板金の技術が飛躍的に進化しているものの、試作品や小ロット品でヘラ絞りは今もなくてはならない。田中社長は「これからも金型づくりを通じて日本のものづくりを支えていきたい」。

田中鉄工 田中社長

田中社長

田中鉄工
本社:大阪市生野区中川東1‐3‐18、06・6752・7928
代表者:田中敬一氏
社員数:4人
事業内容:ヘラ絞り金型設計製作

金型新聞 平成29年(2017年)11月10日号

関連記事

田岡秀樹氏

【プレス型特集】
本田技研工業 田岡 秀樹氏に聞く
プレス型メーカーの目指すべき方向性

自分の強み生かす道を 本田技研工業 完成車新機種推進部 主任技師 田岡 秀樹氏に聞く 高級車か、低価格車か、2極化も 金型なくして新車開発ならず 自動運転、ライドシェア、電気自動車(EV)の進化―。自動車業界では急激な変…

ALPHA LASER ENGINEERING 市川修社長インタビュー

研削力高いセラミック砥石 ALPHA LASER ENGINEERINGは昨年11月、独自ブランドの金型用セラミック砥石を発売した。優れた研削能力や耐熱性が特長で、広がる金型リユースの需要に応えていくという。市川社長に開…

【ひと】明工精機代表取締役・北原収さん リーマン後に加工メーカーを立ち上げた

リーマン後に加工メーカーを立ち上げた  「日本一の賃加工屋を目指す」。リーマンショック後の2009年、世界的な不況の真っただ中に部品加工メーカーから独立。ダイセットやモールドベースなどを手掛ける明工精機を設立した。金融機…

【金型応援隊】ワンテラス 豊富な人材ネットワークで日本のものづくりに貢献

ベトナム人技術者の採用支援 ワンテラスは、ベトナムを中心にアジア人の機械加工、設計に特化した人材の採用支援を行う。昨年度は、168人のベトナム人らの日本企業への採用をサポートした。 高い実績を誇る理由は豊富な人材のネット…

金属3Dの金型で革命を ムトー精工が挑むコスト削減と新価値の創造[金型の底力]

樹脂部品の金型から成形、組み立てまでを手掛けるムトー精工は金属3Dプリンタによる金型づくりを進めている。成形サイクルを上げ、コストダウンや成形機の設備削減などを狙う。さらに、他の技術と組み合わせ、付加価値の向上にもつなげ…

トピックス

関連サイト