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板鍛造プレスによる金型内ねじ転造工法の確立【金型テクノラボ】
雄ねじの加工では鍛造と切削や転造などの2つ以上の工程を必要とする。工数が多くなるため、リードタイムの悪化やコストアップという課題が指摘されてきた。当社ではコンパクトな「ねじ加工性金型」を開発し、金型内で一貫してねじ転造ができる工法を確立した。本稿では、工数削減と環境負荷の低減を可能にした同技術を紹介する。
技術開発の背景
中国を始めとするアジア諸国の発展と技術レベルの向上などによって競争が激化する中、日本の金属プレス加工業は生産拠点の海外シフト化、一層の技術流出や技術力の弱体化などが進み、不安要素が増している。このようなグローバル競争の中で勝ち残っていくためには、新しいコンセプトの独創的なものづくりを確立すべく研究・技術開発に力を注いでいく必要がある。
特に自動車産業においては環境対応に向けたEV化、それに伴う軽量化・部品点数の削減など様々な取組みがなされている。一方で、製品が複雑になることで、部品の製造コストの上昇や技術の高度化が大きな課題となっている。
ねじ加工の工数削減もこうした課題に対応する技術の一つ。工数を減らすことで、リードタイム短縮や環境負荷を低減したいというニーズに対応するために開発した。

従来の工法からの脱却
図1に示す従来のプラグネジの製造方法は、鍛造工程で素材を切断し、塑性変形を高めるため素材調質や材料表面にボンデ処理を施し、鍛造成形を行う。その後にネジ加工では専用の油圧式転造機による加工、もしくは切削加工によりねじ形成している。
従来工法は各工程を分割して生産を行っており生産時のムダが多いため、製造コストやリードタイムの長期化などの現実的な課題がある。さらに環境負荷も小さくない。素材の過熱調質及びボンデ処理塗布と洗浄などの環境側面上の課題が指摘されていた。
今回開発した技術は、このような課題を解消するため高精度プレス機を活用。一般的に流通している素材を使用し、板鍛造プレス工法により複雑な成形が可能となり従来工法からの脱却を可能にした。

金型内ねじ転造技術とは
プレス加工内において、雄ねじ加工は金型内で転造加工の機構を満たすことが難しく、別工程での専用油圧式ねじ転造設備で加工が行われているのが一般的。ねじ転造装置は、油圧式が多く、装置のサイズが大きく金型に組み込むことが到底できない。また、機構的に加工動作速度が最大5秒程度と遅く、プレス加工のサイクル時間に追従することができない。そこで、当社では独自技術を生かし、金型内でねじ加工することができるコンパクトな「ねじ加工性金型」を開発した。
ねじ転造ダイスの押し付け機構を油圧式から、プレス機械の上下運動の往復ストロークエネルギーを水平運動に変換するカム機構に変更。さらに、ベアリングをコンパクトな滑り軸受に変え、ねじダイスの回転動力部はユニバーサルジョイントを用い外部設置型にし、金型内に組み込める大きさとした。
また、3本の転造ダイスの回転数を高速化し、プレス機械の上下ストローク運動と連動させるときに発生する衝撃力や過度の押し付け力を逃がす機構も組み込んだ。こうして、転造ダイスの回転数、転造ダイスと被加工品の押し付け速度とねじ精度の関係などについて検証し、最適加工条件を求め確立した。
その結果、雄ねじのねじ転造時間は0.5秒~1秒/個と短く、従来の油圧式ねじ転造盤の約1/5以下の速さで加工が可能になった。また、プレスストローク内で高速ねじ転造機構とコンパクトサイズ仕様でのカム式金型内ねじ転造金型が開発でき、図2に示す通り、超精密板鍛造プレスねじ転造工法一貫生産システムを構築した。
今後の展開について
本技術開発はコモディティー化が進む自動車などの分野において様々な部品に展開できるものである。特にEV化の部品展開への貢献が期待される。また、複雑3次元形状の中空容器、医療機器分野、分析機器分野など機能部品への展開も期待していきたい。
高橋金属
- 執筆者:取締役生産技術部 部長 藤谷 憲治氏
- 住所:滋賀県長浜市細江町864‐4
- TEL:0749・72・4828
記者の目
「工程を減らせる加工技術を探している」。こんな相談を受けることが増えた。部品が複雑化・高度化する一方、工程を減らしたいというニーズが高まっているからだろう。今回紹介した金型内でねじ転造できる技術はこうした潮流に合致する。しかも、ねじなので自動車のみならず、様々な分野に適用を広げる可能性が高い(山)。
金型新聞 2023年3月10日
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