北米のアルミニウム協会などの調査によると、自動車の1台当たりのアルミ使用量は軽量化のために増えていくという。プレスや押し出しもあり、アルミ=ダイカストと限らないが、アルミの動向はダイカスト型にとって影響は少なくない。で…
【座談会】金型メーカー・自動車メーカーが語る
次世代自動車の登場で金型づくりはどう変わるのか
ー2030年の金型業界ー 第1部
アルミ、樹脂など軽量化の流れ加速
座談会出席者(50音順)
代表取締役社長 長谷川 和夫氏
自動車大型プレス型を手掛ける。現在はフォード社をはじめ、海外メーカーからの仕事が多く、特にアルミ用のプレス型に強みを持つ。2009年にタイ自動車部品メーカーの子会社に。国内は414人で、北米やタイ、中国など孫会社など合わせると約3500人。自身は北米を中心に30年以上アメリカ勤務で、16年から現職。
顧問 坂西 伸一氏
ボールねじなど駆動システム事業、研削盤や計測など機工・計測事業、モータコア用金型など金型事業の3つを柱に世界中で展開。従業員は653人。モータコア用金型事業の立ち上げを担う。設計や現場などを幅広く現場を経験。常務退任後、顧問に就く。現在は金型部品商社の日本金型産業の社長も兼務する。
代表取締役社長 小出 悟氏
アルミダイカスト金型専業メーカー。シリンダブロックなど大型を得意とするほか、アルミ鋳造型も一部で手掛ける。韓国、中国、インドに子会社を持ち、アジア全域をカバー。従業員は4拠点で237人、日本は95人。インドではダイカスト成形も行う計画。日本金型工業会副会長で、中部支部の支部長も兼任する。
代表取締役社長 平林 巧造氏
自動車部品や弱電、医療関連など精密プレス金型から成形まで手掛ける。特に、冷間鍛造と順送プレス技術を組み合わせた総合的な技術CFP(冷間鍛造順送)工法を提案する。長野県塩尻市に徹底した温度管理を施した地下工場を持つ。従業員は83人。
完成車新機種推進室
技術主事 田岡 秀樹氏
1990年にホンダエンジニアリング入社、北米や欧州の新機種量産化計画を担当、デザイン室と金型部門のコラボレーションによる“デザイン1:1”を実現後2010年に車体領域の執行役員。13年に本田技研工業に移り、17年より現職。主に金型技術戦略などを担当する。16年には型技術協会の会長も歴任。
田岡 次世代自動車振興センターの資料によると、次世代自動車には、100%電気で走行する電気自動車(EV)のほかにも、電気自動車とハイブリッド自動車の長所を合わせたプラグインハイブリッド自動車(PHV)、水素エンジンで走る燃料電池車(FCV)、内燃機関を追求して低燃費化やCO2排出量を削減するクリーンディーゼル車(CDV)があります。それ以外にも自動運転やコネクタビリティなども次世代自動車に含まれますが、今回の座談会は、30年までですから、動力の変化を中心に考えたいと思います。
長谷川 次世代自動車の動力が電力になってもクリーンディーゼルになっても、まず車体は軽くしないといけないでしょう。当社では高張力鋼板(ハイテン)で構造部分を軽くしようとしたり、ボディをアルミで軽くしようとしたりしています。今後もさらに軽くするために様々な新しい素材が出てくるのではないでしょうか。そうした素材の変化にどう対応するかが今後の課題になると思っています。
長谷川 デザインがどうなるかで変わってくると思います。シンプルになって成形性を考慮したデザインに近づいていけば、金型もそれなりに簡単になってくると思います。加工方法もレーザー溶接やホットスタンピングなどの新しい技術が登場し、必要なところだけ厚くしたり、レーザーで接合できたりと、どんどん進歩しています。こうした技術を使い、一回のプレス作業で、現状の数部品を一つに統合した大きな製品にすることが軽量化につながっていくと思います。つなぎ目だけでも無くすという方向に進むのではないでしょうか。
平林 金属から樹脂に変わるという話もありますが、どうお考えですか。
長谷川 樹脂で安全をどこまで担保できるかだと思います。また、温度差に樹脂がどこまで耐えられるかも考えていかないといけないと思います。
田岡 市場をどこに設定するかで変わってくると思います。軽量化は間違いないですが、樹脂にはそう簡単に変わらないと思います。プラットフォームだけで衝突安全性を担保する欧州と、日米のようにデザイン部品でさえ剛性を保証する部品の一つとする考え方ではボディづくりが違います。強度の高いプラットフォームができて、外側はアルミでも鉄板でもマグネでもいいという車づくりを日米がやらない限りは、なかなか樹脂にならないと考えています。
坂西 私は航続距離を伸ばすために、樹脂が使われる領域が広がるとみています。限定した場所での走行を目的としたコミュニティカーなどでは、樹脂化が進むような印象がありますが、どうでしょうかね。
田岡 台数は少ないと思いますが、その可能性は十分にあると思います。
田岡 まず北米では、アルミの採用が広がっていくでしょう。ホンダも北米で販売しているライトトラック系の車ボンネットやルーフをアルミにしています。
長谷川 当社のアメリカ工場でも、アルミ専用のプレス生産ラインが5本あり、フォード社の「F-150」のボディなどを生産しています。
長谷川 そうですね。金型は日本でつくっていますが、アルミ成形に関してはそれなりのノウハウを持っていると自負しています。
平林 全ての次世代自動車に関わる部品の金型づくりが必要になるとみています。当社の場合は量産、試作も含め、次世代自動車の部品に幅広く対応できるように研究開発を進めています。例えば、EVならリチウムイオン電池に関する部品やPHVだと電動化モジュールに使われる歯車部品、FCVだと金属セパレータ、CDVだとターボチャージャーに使われる機能部品を手掛けています。それらの部品は今まで以上の高精度、高品質が要求されるので、ワンランク上の金型づくりが必要になるはずです。
田岡 全ての次世代自動車の部品に関わっているということですね。
坂西 かつて当社は金型専業メーカーでしたが、現在は自社の金型を使ってモータコアを製造し、製品として自動車メーカーなどに納品しています。今後は、金型専業から自社で製作した金型を使って部品などを製造するという流れがどんどん加速していくと思います。金型だけでなく、金型を中心としたものづくりシステムのようなイメージですね。モータコアだけでなく、製品を製造することが要求されてくるでしょう。そうなると、研究開発が今まで以上に求められ、従来の金型メーカーのままでは生き残っていくのは難しくなると思います。
小出 ダイカスト金型業界は今、プレス分野に領域を拡大していこうという流れがあります。自動車メーカーの方からも聞きましたが、ボディやシャーシなどを鉄からアルミに置き換えていく流れは顕著に出てきています。そこで課題となるのが設備ですね。シリンダブロックの金型は約30tくらいですが、加工するキャビティは800~900㎜角くらいです。しかし、フレーム関連となると金型が大きくなるので、門型工作機械などの大型設備が必要になります。今まで大型に特化してきた分、大きいものが加工できるということを売りにしていく必要があり、またそれを強みにしていきたいです。
田岡 話は少し戻りますが、アルミ化が進んでいるフォード社の「F-150」ですが、オギハラさんではどんな部品を手掛けているのですか。
長谷川 あらゆる部品を手掛けています。足回り部品から、一番大きいものだと、金型は2.5×5m、30~40tくらいのものになります。
田岡 大型のアルミ成形は難しいですよね。
長谷川 成形品と金型の面は全く異なりますね。スプリングバックも大きいものだと20~30㎜にもなります。
田岡 普通の鋼板なら、大体、板厚分ぐらいの差ですが、そんなに違うんですね。
長谷川 最初アルミをやった時は「本当か」と思うほどでしたね。これでいいのかと思いました。
田岡 しかし、アルミプレス金型でそこまで大型をできる会社はほかにはないですよね。
長谷川 我々もそれを強みだと思っています。
田岡 しかも成形までできるとなるともう金型メーカーという位置づけではないですね。
長谷川 そうですね。アメリカのほかにも、中国やタイの工場でも量産していますし、我々は金型メーカーというよりは、工機部と言う位置づけに近いですね。
田岡 既に金型は製品をつくるための道具という認識になっているということですね。
長谷川 そうですね。
小出 世界からみると、金型専業メーカーというのがこれだけしっかりと根付いているのは日本くらい。海外で専業はほとんどありません。量産まで手掛けて金型を製造しているという会社が多い。これからは日本もそうならないといけないのではないかと考えています。
田岡 私もそう思います。今、自動車メーカーでは金型をつくっているのは全体の20%くらい。今後、次世代自動車では割合はさらに低くなると思います。正直に申し上げると自動車メーカー側にも人材不足という問題があるからです。昔は完璧じゃなくても納品してくれれば自動車メーカーで調整ができる技術者は多くいました。それが今は人材育成が遅れていて難しい。だから、完璧な金型を納品してほしいわけです。そこでノウハウのある金型メーカーにこの部品をつくってくれという方向に進むと考えています。オギハラがいい例ですよね。フォード社はオギハラがいないと車がつくれないところまできているのだと思います。この傾向は強くなっていくと思います。
田岡 欧州などに行くと、自動車メーカーよりも金型メーカーの方が力を持っています。なぜなら、今は試作段階でも量産と同じ条件が求められるため、金型技術が不可欠になります。そうなると、金型メーカーができると言わない限り車づくりはできません。試作でできても量産できないと意味がないですから。
長谷川 そのとおりだと思います。以前は、トリム工程は安くて精度の高いレーザーカットでも良いと言われていましたが、今は量産と同じ工程でと言われるようになりました。つまり、トリム型をつくらなければいけなくなっています。
平林 量産と同じとなると試作費がかさむと思うのですが、自動車メーカーは、価格を気にせず、量産ありきで試作への投資をしていくという考えに変わるのでしょうか。
田岡 変わっていきますね。最終的なお客さんは車を買われる方々です。そのお客さんたちを満足させるために良いものをつくろうとすると、試作費なんて関係なくなります。いかに早く量産に近いものをつくるかの方が重要になっていくと思います。
坂西 モータコアも試作も量産と同じになっています。そうでないと、最終的な製品の検証ができません。試作で良いものができても、量産で同じものができないと意味がありません。だから、量産と同じ条件で物をつくることが重要になると思います。
小出 一方で、例えば一万個で潰れてもいいから安くつくれないかと言われることもあります。大量に生産すれば、試作費がかかっても採算は取れますが、小ロットでも同じ費用を掛けられるかというと躊躇すると思います。そうなると、安価な金型づくりが必要にもなります。
小出 そうですね。量産部分だけで生きていかなければならないという訳ではないですからね。例えば限定生産のようなタイムリーにモデルチェンジがしたいというニーズに対しては、簡単に金型をつくって、5000個つくって終わりという世界もあります。小ロットにこだわった金型づくりというのもあるはずです。
田岡 あるコンサルタント企業の調査によると、2015年の自動車生産は約9000万台だそうです。このうち、小型車が70%、中・大型車が25%、いわゆる次世代型自動車は5%にも満たない。それが現状です。それが30年の生産台数全体は約1億2000万台近くになるそうです。
田岡 そうです。しかも内訳は30年でも小型車も8430万台あり、15年とほとんど変わらない。3470万台がEVを含めた次世代型になるわけです。つまり、電気自動車をつくらないとダメなのは事実ですが、全部電気になるわけじゃない。既存のエンジン車も30年でも今と同じぐらいはある。
小出 中国のある大手自動車メーカーのエンジン車の開発は現在4車種だけで、今後の社内はEV開発になるそうです。しかし、現在売る車もこれからしばらく売れる車もほとんどがガソリン車なんです。エンジンブロックはどこでつくっていくのかというと、日本のダイカスターも含め外注で対応するそうです。最近、ある日系ダイカスターの工場は能力を倍増させました。つまり、変化への準備は必要ですが、EVといっても一気呵成にはいかないように思いますね。
平林 EUが二酸化炭素の3割削減を打ち出し、クリーンディーゼルでは達成できないという話もありますが。
田岡 それはそれでいいと思うのです。なぜなら日本車はプレミアムブランドじゃないから。日本車が多いのは、先ほど言った小型車を含めた8500万台の部分です。しかも、その需要は新興国が多く、そうした国々ではいきなり電気自動車は買わない。
小出 エンジン車は満タンにするのに6分6000円、電気は1時間600円。これでは今のところ商売にならない。こうした問題もあるので、電気の主流はプラグインという意見もあります。
田岡 走行距離とバッテリーの容量次第だと思います。沖縄でもEV開発を進めていますが、沖縄は200㎞で島内を移動できるので、限られたスペースやリゾート地などはEVには向いているかもしれません。
田岡 いずれにせよ、皆さんの言うとおり、品質が良くて自分たちだけの金型だけでなく、必要であれば他のメーカーと連携していくという方向に行くのは間違いありません。また、試作段階で量産を意識するということは、リードタイムが短くなるということです。例えば長谷川さんの話で言えば、試作でもトリム型をつくらなくてはならず、それはつまり、一カ月後に量産型を持ってきてほしいというのと同じことになります。金型メーカーとしてできることは、一日でも早く金型をつくって量産品を出すということになります。
小出 では、自動車メーカーからすると、金型製作の時間に斟酌(しんしゃく)なく「いついつまでに納品してください」ということになるんでしょうか。
田岡 究極はそうなりますね。限度はありますが、自動車メーカーの方でそこを伸ばしたり、許したりすると、競争に勝てなくなってしまいます。なぜなら、車を買うお客さんはそういう苦労は知らない。「今回の新型車は開発期間が短くなったらしいね。じゃあ買おうか」なんて誰も思わない。お客さんは発売されて初めて知るわけですから。いかに早く発売するか。そうしないと、競合メーカーに先を越されてしまうので、究極を言うと「とにかく短く」となります。
【座談会】金型メーカー・自動車メーカーが語る 次世代自動車の登場で金型づくりはどう変わるのか ー2030年の金型業界ー 第2部に続く
金型新聞 平成30年(2018年)1月10日号
関連記事
DXの本質は利益を生み出すことにある。以降では、DXによって「売上げを上げて利益を生み出す」方法と「コストを下げて利益を生み出す」企業のそれぞれの取り組みを取材した。 電極の測定プログラム自動作成 精密プラスチック金型を…
CAEを活用しているのは企業だけではない。岩手大学では、樹脂流動解析ソフト「3DTimon」(東レエンジニアリングDソリューションズ)を学生の教育で利用している。樹脂を流す際、最適なゲート位置などを自らの勘や経験から教え…
EV化などによる金型需要の変化やAMをはじめとする新たな製造技術の登場など金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型メーカーには今後も事業を継続、成長させていくため未来を見据えた取り組みが求められてい…
調達の効率化サポート 自動車のウェザーストリップのゴム金型や切断折曲機などを手掛ける平岡工業のもう一つの事業が、精密部品加工・調達代行サービスだ。金型や切断折曲機で培った技術や協力企業とのネットワークを活かし様々なニーズ…