金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

26

新聞購読のお申込み

ケイ・エス・エム 金型技術生かし、医療やロボに参入【金型の底力】

徹底して顧客の声を聞く

高温の射出成形用金型を得意とするケイ・エス・エムは医療機器分野への参入やロボット販売など事業の多角化を進めている。新事業の立ち上げで苦労する企業が多い中、成功しているのは「金型技術をコアにものづくり全体で顧客の声に応えることを追求してきた」(佐藤伊知郎常務)からだ。今後も祖業の金型を日本で作るために、顧客の声に耳を傾け続ける。

同社は佐藤常務の父、勝男氏が1995年に創業した。元金型技術者だった勝男氏の技術力で金型や成形事業で順調に拡大。佐藤常務が入社したのは、そんな拡大期にあった2003年。しかし、2年後の05年に勝男氏の急逝で事態は急変する。「全て社長任せだったため、父がいなくなったことで、不安に思う顧客や技術者を多く失った」。

医療機器に参入のきっかけとなったマウスピース

佐藤常務は急減した仕事を確保すべく奔走した。しかし現実は厳しい。それでも「何かないですか」と顧客を回り続けたところ、ある課題に気づく。メンテナンスで困る企業が多かったことだ。

「当時、海外調達を進めたユーザーは海外製の金型の補修に苦労していた。金型メーカーも補修を後回しにしていた」。そこに商機を見出し、「ユーザーや金型メーカーに『メンテの仕事をください』と依頼して回った」。

いみじくも補修は若手技術者を育てる契機にもなったという。「海外や他社の金型を直すことで、金型の構造を深く知ることができた」からだ。

自律走行型ロボットの販売も手掛ける

他社がやりたがらない補修を手掛けたことで、「競合の少ないところで戦う」という戦略にもつながっている。同社が強みとするのは200℃近い高温の難成形材用の射出用金型。高温でも5μmの精度で、カジリが出ない金型を製作できる。「手離れが悪く他社は手を出したがらない」ため、高温型は今では同社の特色にもなっている。

「第二創業」のような形で事業継承した佐藤常務だが、多角化を考え始めたのは15年頃。3Dプリンタの登場で「金型だけだと将来は厳しくなるかもしれない」と考え、新事業を模索し始めた。

佐藤 伊知郎常務

ここでもよりどころは「顧客の声」だ。福島県の21年の医療部品出荷額は255億円と日本一のため、医療機器にターゲットを設定。県内には医工連携を推進する団体が多いことから「徹底して顧客(医者)が欲しいもの」を調査した。「当社の強みは精度の良い金型を作れる金属加工とスピード。金型にこだわらず、ものづくり全体で何ができるかを考えた」。

その一つとして「内視鏡検査用飛沫防止用のマウスピース」(写真)を完成させ、参入を果たした。最近では術具なども幅広く手掛ける。医療機器分野について「ロットが小さいが、継続性が高いビジネス。いきなり高度な医療機器ではなく、簡単な『雑品』から入るのが肝だと思う」と話す。

この「雑品」を扱う流れで、飲食業向けにロボット販売も開始。ここでも顧客の声を聞き、市販の自律走行型ロボにユーザーが使いやすいように様々な樹脂部品を付加して販売している。

現在の売上構成は金型が50%、医療機器25%、ロボット関連25%程度。多角化は成功しているが「あくまで事業の幹は金型。今後も日本で金型を作り続ける」とし、これからも顧客の声に耳を傾ける考えだ。

会社の自己評価シート

医療機器参入やロボット販売などへの実績から「変化への対応力」は高いと自己評価。それらを支える「技術力」や「人材力」や「チーム力」も高い。一方で、「設備力」、「営業力」を相対的に低くみており、投資や営業強化が今後の課題と分析している。

会社概要

  • 本社: 福島県郡山市横塚2-301-1
  • 電話:024・942・1635
  • 代表者: 佐藤理恵氏
  • 創立: 1995年
  • 従業員: 17人
  • 事業内容: プラスチック金型の設計製造、医療機器設計製造、ロボット販売など。

金型新聞 2023年11月10日

関連記事

【金型の底力】山善金型 様々な顧客ニーズに応えられる会社に

限界を作りたくない生産工程を見える化 「様々な顧客ニーズに応えられる会社にしたい」と話すのは、山善金型の山下和也社長。同社は精密なプラスチック金型を武器に、日用品から自動車部品、医療機器など幅広い顧客を獲得。モットーは『…

【インタビュー】テラスレーザー常務・齋藤祐司氏「高品質・低価格で金型補修」

 テラスレーザー(静岡市駿河区、054-270-7798)は、2019年に設立された金型補修用レーザー溶接機メーカー。高品質でありながら低価格を実現し、独自技術を活かしたユーザビリティの高い製品を提供する。「『直す』とい…

次代の人材確保するため、地域を巻き込んで金型の魅力感じてもらう 上田幸司氏(明星金属工業 代表取締役社長)【鳥瞰蟻瞰】

日本の金型の未来を担う人材。それは今、危機的状況を迎えています。少子化が進み、就職する学生の数が減り続けている。当社のある大阪府でも特に公立工業高校で定員割れが相次ぎ、数年後にも数校が廃校します。もの作りに興味を持つ高卒…

愛知溶業 ホールディングスを設立 グループで売上30億円目指す【この人に聞く】

金型溶接などを手掛ける愛知溶業(愛知県一宮市、0586・75・3112)は今年4月、溶接機メーカーや金型メーカーなどを傘下に収める持株会社「GALAXYホールディングス(HD)」を設立した。金型の溶接や製作だけでなく、レ…

「品質の安定化を図る」阪村エンジニアリング社長・松井大介氏

EV化への対応加速 まつい・だいすけ1975年生まれ。大阪府出身。2000年龍谷大学国際学部卒。1999年同社入社(在学中にアルバイト入社)、2009年取締役製造部長、21年代表取締役に就任。座右の銘は「意志あるところに…

トピックス

関連サイト