若者の興味を引け 金型はものづくりの喜びがある広く知られる業界へ 若手を育てることは、金型メーカーにとって技術の伝承はもちろん、業界の活性化という点でも大切なことです。量産のものづくりがある限り、マザーツールである金型…
「新規事業に挑戦、やってみなければ分からない」藤井精工社長・藤井福吉氏
会社の未来を考え
新規事業に挑戦
やってみなければ分からない

金型メーカーに生産計画はありません。受注産業で顧客次第ですから。「来月どうしようか」。これを毎月のように繰り返しています。当社も創業から46年間、同じように事業を続けてきたのですが、会社の未来を考えるとこのままではいけないと思うようになりました。そこで新しい事業を模索し始めたのです。
金型メーカーが事業を拡大するとき、真っ先に思い浮かぶのはプレスによる量産ではないでしょうか。私もそうした道を考えました。しかし、後発メーカーの当社が同じことをやっても、結局乾いた雑巾を絞られるような過酷なコスト競争に巻き込まれるのが明らか。それでは新規事業を始める意味がありません。そこで目を付けたのが、医療分野でした。
当社は半導体や電気電子部品などの精密プレス金型を得意としています。要求される精度は非常に高く、0.001㎜単位の中で技術を磨いてきました。医療分野であれば、この精密技術を生かして、付加価値の高い仕事ができる。そう考えて、福岡県が設立した医療分野の産学官ネットワークに参加しました。しかし、営業で医療機器メーカーを訪問しても、実績がないため、ほぼ門前払いされてしまい、仕事につながりませんでした。
転機となったのは16年。ある医療機器展示会への出展でした。0.001㎜単位で加工し、金属から文字が浮き出たり、消えたりするワークを展示したところ、そのユニークさと加工精度がアメリカの医療機器メーカーの目に留まり、部品の注文につながったのです。
その部品が緑内障の手術に用いる医療機器部品です。「ステント」と呼ばれる医療機器を目の細胞に挿入するための治具で、直径0.3㎜の針の形状をしており、先端には幅0・03㎜で十字の切込みが入っています。アメリカのメーカーでは、試作はできたものの、量産化に困っていたようです。
当社も量産体制が整うまでに1年かかりましたが、17年に300個出荷することができました。これまでに累計40万個ほどを生産してきましたが、いまだに不良品はゼロ。こうした実績が評価され、現在ではこの部品以外の医療機器も手掛けています。また、医療だけでなく、航空宇宙部品の受注にもつながっています。
現在、金型と医療機器部品の売上比率は5対5。金型は横ばいで、医療機器部品の売上が急増しています。じきに金型を上回ると思います。医療分野は入り込むまでは難しいですが、量産が始まると息が長い。年間何万個と生産計画を立てることができています。
ただ、だからといって当社が金型をやめるかというと、それはありません。医療分野の仕事が可能なのは金型で培ってきた技術があるからです。金型メーカーは「最先端の加工メーカー」。緑内症の医療機器部品もアメリカのメーカーは量産できませんでしたが、金型技術を持った当社にはできました。それほど金型はすごい技術なのです。
私は常に何事もやってみなければ分からないと考えています。当社を創業した当時も、そうした考えで他社が敬遠するような難しい金型を積極的に受けました。不思議なもので、追い込まれて後がなくなると必死に考え、何とかなるものなんですよね。もちろん失敗もありましたが、挑戦しなければ進歩もないですから。
今、温めている夢があります。それは「メディカルタウン構想」です。すでに当社だけではこなしきれないほど医療分野の仕事が舞い込んでいます。加工や組立など複数社が連携して、医療機器部品を製造する。かつての半導体産業のように、九州で医療機器産業を集積させていきたいのです。
金型新聞 2022年5月10日
関連記事
ダイカスト金型などでパウダーベッド式の金属3Dプリンタによる金型づくりが広がり始めてきた。背景の一つには、金型に適した材料の進化がある。中でも、これまで金型で広く使われてきたSKD61に相当する材料が登場し始めたことが大…
特集 次世代車で変わる駆動部品の金型(バッテリー、モータ、電子部品) 「自動車向けの金型を手掛ける企業は今後、バッテリー、モータ、電子部品、この3部品に携わっていないと生き残れない時代になる」と話すのはプレ…
順送り金型やプレス加工を手掛ける伊藤製作所は本社近くにテクニカルセンタを設立し、金型部門を集約することで、本社工場などにプレス機械を増設し、需要が高まっているプレス部品の増産体制を整える。さらに、CAEや3D形状測定機、…
大阪産業創造館で8月に開催した「金型技術展2022」を企画、運営した。大阪産業創造館が金型をテーマとする展示会を開くのは初めて。金型メーカーや関連企業44社が出展し、コロナ禍ながら会期1日で688人が訪れた。 金型をテー…