「CASE」による自動車業界の大変革は金型メーカーに大きな変化を迫ってきた。そして昨年から続くコロナ禍。リモート環境への対応やデジタルツールの活用など、変化せざるを得ない状況はさらに加速している。こうした混迷の時代に合…
【特集:新春金型座談会】広がる世界市場をどう開拓する(Part1)
日本の金型業界にとって外需の取り込みは重要課題。海外の金型事情に明るい元牧野フライス製作所の山本英彦氏は「今ほど日本の金型技術が求められている時はない」と指摘する。しかし、金型メーカーにとって海外展開は簡単ではない。そこで今年の新春座談会では「海外に挑む」をテーマとした。海外に進出している七宝金型工業とインドに進出を狙う松野金型製作所の二人にご出席頂き、山本氏をモデレータとして、「外需開拓に必要なこと」、「海外の実情」、「市場性」などについて語ってもらった。

海外を目指すきっかけ
日系以外のユーザー開拓
山本 まず海外に挑戦した背景やきっかけをお聞きしたいと思います。
松岡 タイとメキシコに進出していますので、まずタイから。タイは1993年に進出しました。当時の日本の主要顧客がタイに進出し、金型の修理をして欲しいという要請があって、進出したと聞いています。
山本 メキシコは。
松岡 将来の日本市場に不安を感じ、東南アジアの成長も不透明なことから、私が進出を決めました。タイの顧客は日系企業がメインですが、常々日系以外の顧客を増やしたいという思いを持っていました。その市場調査のためにアメリカに行くうちにメキシコに興味を持ったのがきっかけです。
メキシコには世界最大手のダイカスターがありますし、その他にも大企業が多数あります。日系以外の市場を広げたい考えにマッチするのと、アメリカにメキシコから製品を輸出するユーザーが多いため、マーケットとしてメキシコに出たいと思うようになりました。
山本 当時の状況は。
松岡 ダイカストの金型メーカーは少なく、日系はゼロ。現地企業も大型の金型ができるような会社はありませんでした。ライバルが少ない状況で、日系のお客さんも進出していたので、勝算があるのではないかと考えて進出を決めました。
山本 メキシコで金型は作っていますか。
松岡 現状は部品と補修だけで、金型は作っていません。メキシコは売るのが目的で、金型は日本から輸出したいと思っていましたから。いずれは作ることがあるかもしれませんが、日本やタイで作った方がはるかに安く、いいものができます。
山本 松野さんは昨年、インド企業と提携しました。内容を教えて下さい。
松野 自動車や電子部品などの成形部品を手掛けるアランカール・オートモーティブ社という提携しました。本格展開はこれからで、今は提携先からの金型受注と、技術アドバイスがメインですが、近く金型の補修も考えています。すでにパートナーが事業用地を準備してくれており、機械を移設しながら、体制を整えている状態です。
山本 どういう経緯だったのでしょう。
松野 以前から海外で勝負したい気持ちはずっとありました。ただ、リーマンショック以降、経営環境も厳しく、諦めていたのですが、コロナ禍で考えを改めました。というのも、コロナで国内回帰が始まったものの価格は上がらない。3割減のままです。ならば安く作るしかない。部品を安く作るには海外で作らないといけないと感じるとともに、世界中でユーザー開拓を進めていかないといけないと考えました。
山本 具体的プロセスは。
松野 いきなりは難しいので、まず3年前にネパールの方を採用し、SNSで海外に技術を発信させることから始めました。問い合わせがあったインド企業と繋がりができ、仕事を頂くようになりました。次第に「歩留まりが悪いから何とかしてくれないか」といった相談を頂くようになり、「自分ならこうする」と話しているうちに「貴社の知見が欲しい」ということで、提携に至りました。
山本 私も少し海外とのかかわりをお話します。90年代に、北米に日系自動車メーカーが工場を相次いで建設したのですが、その際に、工作機械の営業支援として機械を多く導入して頂きました。それらの企業を訪問すると、金型加工にお使い頂いていたのです。その時に日本の金型の競争力は相当高いと実感しました。
本紙 どんな点が日本の強みだと。
山本 金型は形を作るだけの機能でなく、量産を支え、品質を高め、ばらつきを抑えるなどの機能が求められるようになっています。製品設計へのアドバイスだったり、量産が終了するまで品質を維持できることだったり、いろんなノウハウを持つ日本の金型は世界的には非常に価値が高く、競争力がある。今こそ、それらがより重みを持ってきていると思います。
タイ、メキシコ、インドの実情
タイは成熟、インドは成長市場
山本 展開している国の市場性や人材、課題などを教えて下さい。
松岡 タイは日系企業が多く、何でもそろい日本人が非常に働きやすい場所です。環境がいいので金型は作りやすいですが、課題は人件費の高騰で、日本人の半分くらいまで上がっています。それ以上に為替が悪化し、1バーツが4円超で、20年前の倍近い状況で、高コスト体質になっています。
山本 技術レベルは。
松岡 高いですね。20年以上経て、タイには日本より経験が長い技術者がたくさんいます。タイの方ができるのではないかという話もあります。
山本 タイでは主に何をしているのですか。
松岡 設計技術のオペレーション全部です。日本は技術開発や顧客支援がメインで、図面やモデル作成は日本でやってないです。それぐらいタイのレベルが上がっています。金型自体が高くなっていて、いまは日本の方が金型は安いと思います。
松野 私の感覚では金型費は仕入れ4割、人件費が6割ぐらいです。物価が高くなっているとはいえ、タイの価格競争力が高くないのでしょうか?
松岡 型種によって割合が違うと思います。当社の場合は仕入れの方が多く、複雑な金型になれば、仕入れが6割、7割にもなります。5割というのは少ないですね。だから、仕入れが高いタイは価格競争力が低下しています。
山本 金型が高度化している側面もあると思いますね。モールドベースやホットランナーなど購入品が増えて、以前と比べると、自分たちが作り出している付加価値の比率が小さくなっています。どこで付加価値を生み出し、購入コストを下げるかが課題だと思います。
山本 では、メキシコの特徴はどうでしょうか。
松岡 金型を作るインフラが揃ってないし、何を買うにしても高い。人件費は安いですが、人の入れ替わりも激しいので、金型を覚えさせるには向かない国だと思います。進出から8年ぐらい経ったので、修理はできますが、技術レベルはまだまだですね。自動車は生産していますが、金型がないので、優秀な技術者が増えないという問題もあると思います。
山本 ではメキシコはどういう位置付けですか?
松岡 日本やタイの金型を売るためのサービス拠点です。アメリカにも連携先があり、その拠点も活用しながら北米に売っていく戦略です。アメリカではギガキャストの生産が予想されるので、そこもターゲットにしたいです。そのために、イタリアでギガキャスト向けの金型の実績を持つコスタンプ社と提携しました。日本と北米でお互いの強みを生かして協力して販売を伸ばすのが目的です。
トランプ次期大統領がどんな施策を取るにしても、対応しないといけない。アメリカには日本から金型を輸出します。メキシコは金型を輸出するのではなく、顧客がアメリカに製品を輸出する構造です。それが難しくなくなると、メキシコで受注できる仕事は減ってしまう。色々考えながら手を打とうと思っています。
山本 それでは、松野さんにインドの市場性やインフラにお話しいただけますでしょうか。
松野 まず当社がインドを狙った理由からお話させてください。先にも話したように金型価格が上がらないので、安く物を作らないとダメだと思っています。安い量産国で量産の支援ができればアドバイザー的な立場で利益を得られるのではないかというのが発想です。
もう1つは、金型を現地で作ること。いずれ中国で作れなくなる時代が来るので、じゃあ次はインドだろうと考えました。
山本 インドの状況は。
松野 大量の粗悪部品が入ってきて、問題ばかりだという話を聞きました。お客さんは、どんな部品一つでも精査して調達しなければいけない状況です。日本の金型メーカーに金型や部品の目利きをして欲しいというニーズは高く、金型の市場は無限大だと感じました。
司会 金型づくりや金型の調達はどうでしょうか。
松野 金型を製造する能力は低く、中国などからの購入が多いですね。ただ、そうした金型を使うと歩留まりが良くない。10型必要だったものを5型にできる提案ができれば、利益を頂戴できると思います。パートナーもそれを期待しています。
山本 人材面や環境はいかがでしょうか。
松野 パートナーの父親もベアリング工場を経営しているのですが、工場内には「改善」という文字が掲げられていました。日本の企業に教育されているそうで、工場が綺麗なのは驚きました。しっかり教育できれば金型づくりもできると感じています。ネパールやインドの方を教育して、日本に人材を供給することも考えています。
ただ、環境は厳しいです。パートナーがいる地域はアフメダバードという国際空港から車で20分ぐらい走ったところにあり、沼地と牧草地ばかりで牛馬も歩いています。しかし、先行者利益があると思うので、何とか開拓したいと思います。
山本 両社とも日系メーカー以外を顧客や市場を見据えて活動していますよね。日本の金型産業は海外でも日系メーカーを顧客にしていることが多く、これでは競争の場所が変わっただけです。中長期的な継続性を考えると日系以外の顧客拡大は非常に重要だと思います。
Part2に続く
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