金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

22

新聞購読のお申込み

谷ダイ・モールド 精度追求のために新工場 【特集 攻める設備投資】

機上計測で戻りない加工

自動車のエアコンの吹き出し口の「レジスター」や、ミリ波レーダーを透過できるエンブレムなどのプラスチック金型を手掛ける谷ダイ・モールド。2023年に機械加工専用の第2工場を稼働させた。狙いは「工場が手狭になってきたことに加え、これまで以上に精度を追求する」(谷広将社長)ためだ。今後も「他社と同じ仕事をしても意味はない」とし、攻める投資を継続する考えだ。

同社の設立は1980年。設立当初から大手自動車部品メーカーの開発案件の金型を手掛けるなど高い技術力を武器に、ユーザーとの強い結びつきで成長してきた。中でも、近年増えているのが、冒頭のエンブレムの金型。構造部と意匠面などを組み合わせる特殊な「三色成形」で、金型としては難度が高い。成形品の板厚は±20μmレベルが必要で「金型もミクロンレベルの高い繰り返し精度が必要」(鈴木浩二技術部長)という。

±1℃以内に「恒温化」した23年に新設した第2工場

その高い繰り返し精度を維持し、顧客の要望に応えるために「高精度な機械は当然だが、加工環境もこれまで以上に重要になる」(谷社長)と判断。22年に約1億6000万円を投じ、第二工場の建設に踏み切った。

こだわったのは安定した加工環境。基礎工事を徹底したほか、工場全体を±1℃の「恒温化」した。そのために断熱材を工場内に配置し、窓もない環境にした。その結果「バラつきが減り、±10μレベルは安定的に出せるようになっている。今後は安定的に±5μmを狙う」(鈴木部長)。

副次的な効果として、空調の節約にもなっている。「旧工場では、4台のエアコンで温度管理していたが、新工場では高い気密性により、実質1台で温度を安定化できている」という。

後工程に不良を出さないため機上計測を徹底

こうした加工精度にこだわるのは、顧客の要求はもとより、生産性の高さにもつながるからだ。「精度が出せれば組付けも楽になるし、何より加工の戻りがない」(鈴木部長)。その方策の一つとして、数年前から取り組んでいるのが機上計測だ。

安田工業のマシニングセンタなどが並ぶ新工場の加工機は全て機上計測仕様にしている。測定の狙い値より上回っていれば、その場で再加工し、後工程に不良を出さない仕組みを構築した。工程ごとの精度を高めた結果「入社3年目の技術者に加工を担当してもらったが、問題なく完成できた」という。

鈴木部長は以前、ある金型メーカーに言われたことがずっと頭にあるという。それは「調整で人の手を入れるのは金型を壊していることと同じ。完璧な加工ができていれば調整は必要ない」ということ。「道具と環境を整えることができればそれも可能だ」と話す。

この精度追求のための終わりはない。現在、顧客からの要求もあり、さらにもう一段上のリフレクターの金型への挑戦を検討している。条件は、磨きはナシで、機械加工のみで3μmの精度。仕上切削も超硬工具ではなく、PCD工具が必要になるレベルだ。

谷社長は「リフレクターの金型を手掛けるとなると機械も環境もこれまで以上の投資が必要になる。市場性なども見極めなければならない」と慎重な姿勢を示す。だが、「他社と同じことをしていても先はない」とし、さらなる投資も検討している。

会社概要

  • 本社:愛知県岡崎市下青野町字喜昌島51
  • 電話:0564・43・2188
  • 代表者:谷広将社長
  • 設立:1980年
  • 従業員:11人
  • 事業内容:射出成形金型の設計製作など。

金型新聞 2025年3月10日

関連記事

大垣精工 大型加工機と熟練の技【特集:大型化する金型への対応技術】

「自動車に使用される駆動用モータコアの大型化や高精度化が強まり、金型メーカーには加工から組立まで熟練した技能が求められている」とは大垣精工の松尾幸雄社長。順送精密プレス金型及び加工で知られる同社は、モータコア金型の需要を…

【検証】変わる金型基金 新たな船出<br>解散後、新制度に移行

【検証】変わる金型基金 新たな船出
解散後、新制度に移行

 今年11月をめどにいったん解散し、新制度への移行を進める日本金型工業厚生年金基金(上田勝弘会長)。なぜ制度移行なのか。加入者にどんな影響があるのか。基金の存在意義や、制度移行を連載企画で検証する。1回目は年金制度の仕組…

関西金型メーカー5社に聞く
インターモールド特別座談会

激化する競争に勝ち残る  2017年がスタートして早や3カ月が過ぎたが、不安定な世界情勢の中で日本の金型メーカーは各社各様の課題に取り組んでいる。インターモールド・金型展の開幕を前に関西の金型メーカー様にお集まり頂き、現…

金型製作の効率化を追求 笹山勝氏(ササヤマ社長)【特集:次の10年を勝ち残る4つの道】

EV化などによる金型需要の変化やAMをはじめとする新たな製造技術の登場など金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型メーカーには今後も事業を継続、成長させていくため未来を見据えた取り組みが求められてい…

【特集】進化する金型のDX

デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)。しかし、人が介在する金型づくりでDXを進めるのは簡単ではない。金型企業はDXをどのように考え、取り組むべきなのか。先進…

トピックス

関連サイト