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【特集】ユニークな社内制度

従業員が満足して働ける、働きやすい魅力的な職場を作ることで、多様な人材が企業に集まってくる。そうして集まった人材は、長く会社にいて力になってくれる。そんな考え方から独自の社内制度を設け、活用する企業は多い。では、金型メーカーが活用できる社内制度とはどのようなものか。本特集では、社内制度の活用をサポートする企業に取材し、社内制度とは何かについて聞いた。また、年配の技術者による「金型のお医者さん」やお金に関する授業の実施、女性だけで運営する工場など、個性的な制度を設け、実践している金型メーカー3社に取材。さらに海外の社内制度事情やアンケートから、金型メーカーが活用できる社内制度について探った。

PART1:スタメン 取締役TUNAG事業部長 満沢 将孝氏に聞く「社内制度とは」
PART2:魅力的な職場を作る ~金型メーカーの社内制度活用術~
PART3:金型経営者・技術者に聞く「わが社の社内制度」
PART4:イグス アジアパシフィック地域責任者 カーステン・ヘッカー氏に聞く「海外の社内制度事情」
PART5:記者の目

PART1

スタメン 取締役TUNAG事業部長 満沢 将孝氏に聞く「社内制度とは」

昨今、働き方改革などで注目されているのが「社内制度」。休暇制度や福利厚生の充実、コミュニケーション活性化など様々な企画を通じて社員のモチベーション向上や社内の活性化を図ろうとする企業が増えている。そうした企業をサポートしているのがエンゲージメント経営のプラットフォーム「TUNAG」を展開するスタメン(愛知県)だ。TUNAG事業部長の満沢将孝氏は「社内制度は企業のDNA」と話す。同氏に社内制度とは何か、また、上手な運用方法について伺った。

みつざわ・まさたか
1986年生まれ、埼玉県出身。新卒でオフィスコンサルティング会社に入社し、営業役員や人事役員を歴任。2018年3月に同社入社。同年9月から執行役員としてセールス部門を牽引し、導入企業数を拡大。19年9月に取締役TUNAG事業部長に就任。TUNAG事業全体の運営を統括している。

制度が信頼を生む

社内制度とは何か。

人と組織の強さをエンゲージメントと言い、我々は企業と人との信頼関係、すなわちエンゲージメントを高める取り組みを社内制度と呼んでいる。福利厚生の充実はもちろん、現場で共有する社内日報、新入社員の自己紹介企画、ランチや飲み会も社内制度と捉えている。

その目的は。

従業員満足度を高めることに注目されがちだが、給与やボーナスを上げても限界がある。かといって、働きやすい職場だけではエンゲージメントを上げることはできない。そうではなく、企業が成長するために目指す方向性を共有し、社員との関係を強固にし、高め合うことが理想だ。それには信頼関係が重要で、人は1つの側面(仕事)だけで信頼関係を構築できない。意外な人柄やプライベートな部分など様々な側面を知ることで信頼関係は生まれる。そのために社内制度があると思う。例えば、アニバーサリー休暇を通じて、「あの人にはお子さんがいる」など違った側面を見るきっかけにもなる。

上手に運用するには。

社内制度の運用で大事なのは効果検証。例えば、一部社員しか活用していない福利厚生(例:有給休暇)では意味がない。企業には2:6:2の法則があり、貢献度が高い2割の人は自分で考え行動できる人。社内制度は中間の6割の人を底上げできる制度が望ましい。最初はどの企業も上手くいかないものだが、効果検証し、PDCAを回すことで、良い社内制度へ変化させることができる。当社の「TUNAG」はITツールを通じて社内制度の活用状況などをデータ化し、改善提案など組織の活性化を促す支援を行っている。

活用される社内制度を作るには。

ネーミングは非常に大切だと思っている。自社の名前や社内文化に由来したものが良いかもしれない。当社は関東と関西に支社があり、社員交流のため、『ナゴヤド宿泊制度(延泊制度)』がある。そのほか、社員と役員との距離感を縮めるために『役員食堂』という社員が役員をご飯に誘える制度で、文化として根付いている。

ダメな制度は。

「元気を出そう」とか「やる気を出そう」というアプローチではなく、何のためにやる気を出してほしいか、明確な目的を伝える縦の情報伝達が大切で、社内報などトップメッセージを出すことが必要だ。ただ、それだけで全社員のやる気が出るわけではない。毎日のふとした瞬間の人の変化を見つける。例えば、自発的に清掃している人がいれば褒める。それを見た他の社員にも伝わり伝播していく。プラスのエネルギーを回していくことで、全社員に変化が伝わっていくはずだ。

PART2

魅力的な職場を作る ~金型メーカーの社内制度活用術~

TMW 困りごと相談ツールドクター

ツールドクターが乗る車

年長者の活躍と若手育成

経験豊富な年配技術者の活用と若手の育成—。大型樹脂型を得意とするTMWでは一見、相反しそうな要素を両立させる取り組みを昨夏に開始した。それが顧客の困りごとを解決する「ツールドクター」制度だ。

その名の通り、金型に関連する顧客の困りごとを解決する「お医者さん」。「型の調子が悪い」、「補修に困っている」など、金型に関する問題を抱える顧客から問い合わせがあれば、他社製や型種に問わず、駆けつける。

ここで活躍するのが、熟練技能者だ。「緊急の問い合わせや困りごとは、難しい問題が多いので、経験者のノウハウが生かされる」(立松宏樹社長)ことが多いからだ。とはいえ、困ったときだけでなく、常時は一線の技術者として活躍している。

同社では60歳を迎えた技術者を嘱託として契約する制度を持つ。一般的に嘱託は前線を一歩引いたような立場になりがちだが、「互いの了解を得た上で、現役時代と何も変わらない最前線で働いてもらう」(立松社長)。嘱託契約でも「活躍した人には昇給もある」そうで、モチベーションアップにつなげている。

さらに特徴的なのが、ツールドクターは年配の技能者だけでなく、全社員が対象ということ。「顧客に困りごとを解決するには、年齢は関係ない。社内にあるノウハウを自由に使ったほうがいい」からだ。実際に昨年7月に始めて60回近くの「出動」があったが、嘱託の技能者と、現役技術者が半々くらいだったという。

診断内容は「金型保全」や「金型移設の手伝い」、「成形までの進捗管理」など多岐にわたるが、この相談を若手の育成にもつなげている。「他社の金型を見たり、新型製作では得られない経験ができたり。若いうちにこうした現場を経験するのは、最高のOJTになる」とし、必要であれば、年配と若手の技能者を同行させることもあるという。

さらに、ツールドクターは年長者の活躍や若手育成だけでなく、様々な効果につながっている。「営業が聞きづらい顧客の困りごとを聞ける」ほか、相談を契機に「新型の受注につながることもある」という。立松社長は「まずはどんなことでもご相談頂きたい」と話している。

会社概要

  • 本社  :愛知県稲沢市奥田大沢町27
  • 電話  :0587-32-6281
  • 代表者 :立松宏樹社長
  • 創業  :1949年
  • 従業員 :192人
  • 事業内容:自動車内外装プラスチック成形用金型の設計・製作

黒田製作所 お金の授業始める

人生設計をサポート

自動車用プラスチック金型を手掛ける黒田製作所は社員の将来の人生設計をサポ—トするために、『お金の授業』を始めた。受講者は高校を卒業したばかりの新入社員や会社を支える40代や50代の中堅社員で、ライフプランナーを招き、保険や積立制度、投資術など普段では教わらないお金に関する授業を開くことで、充実した人生を送れるように知識が得られる場を設けている。

「人生プランを考えた上で幸せな生活が送れることを認識してほしい」と黒田昌彦社長は話す。お金の授業を始めたきっかけは社員の多くが高校卒業後、新卒として同社に入社しており、お金の知識を得る機会がなかったことが大きいという。「給料をどう使えば良いのか、どれくらい貯蓄しておけば良いのか、そうした知識を持つことでお金を上手に活用して幸せな人生が送れると思う」と黒田社長。授業は保険会社のライフプランナーが生涯賃金や各種保険、積立制度など2時間の講座を行う。「新入社員たちは講座の内容を両親に話している。新人研修でお金の授業を行う中小企業は珍しく、親も関心を寄せてくれている」と好評のようだ。

さらに、40~50代の中堅社員にもお金の授業を始めた。その理由は「退職後のことや遺産相続など様々なことで不安が生じてくる。人生100年時代とも言われ、不安の理由の1つがお金」とし、世代に応じたお金の授業を開講、多数の社員が参加した。金型業界は人手不足と言われており、経験を持つ技術者や管理者が長く勤めてもらえる環境を整えることは大切だ。黒田社長は「当社は社員の平均年齢が若いだけでなく、再雇用のベテラン技術者も働いている。生涯安心して働ける職場環境を築いていきたい」。

同社は働きやすい職場環境を作るため、お金の授業以外にも様々な社内制度を設けている。その1つが『誕生日休暇』だ。「当社のカレンダーは自動車産業に合わせており、一般的な3連休がなく、特急対応で土日出勤もある。その中、若手社員から3連休がほしいと要望があり、誕生日月は役員も含め、月曜や金曜を休んで3連休にする制度を設けた」という。黒田社長は10年前から1人30分ほどの面談を全社員に行い、世間話から仕事まで社員の声に耳を傾け、職場の課題解決に取り組んでいる。

会社概要

  • 本社  :岐阜県羽島郡岐南町伏屋9-138
  • 電話  :058-247-7423
  • 代表者 :黒田昌彦社長
  • 創立  :1975年
  • 従業員 :144人
  • 事業内容:各種プラスチック製品用射出成形金型の設計・製作

チャンピオンコーポレーション 女性活躍のため工場新設

工場で働く女性たち

勤務時間・出勤時間を柔軟に

人手不足が加速する中、年長者や女性、外国人など多様な人材の活用が欠かせない。金型部品を手掛けるチャンピオンコーポレーションでは、女性が活躍するための制度を強化している。その象徴が、2018年に立ち上げた、女性だけで運営する工場「YAOFactory」だ。

新工場の設立のきっかけは人手不足。水谷昌晃社長は「その解消には女性の活躍は不可欠。ほかの業種で活躍する女性は多いのに、工場で働く女性は少ない。ならば働ける環境を作ればいい」と考え、様々な工夫を凝らし、工場を立ち上げた。

まず、勤務時間を柔軟に選択できるようにした。数時間からでも働けるようにしたり、出勤時間も自由度の高いものにしたりした。「子育てや介護など、各家庭によって様々な事情がある」からだ。今後は「実現はしていないが、夜のほうがいいという人がいるなら24時間稼働工場にしてもいい」という。

製造面でも、初心者が多いため、工夫を凝らした。まず、シンプルな穴加工のないダイカスト金型用の小径の鋳抜きピンの専門工場にした。また、経験の浅い人でも加工できるように、データはインドネシア工場から供給できる体制を構築。さらに、加工誤差を自動で機械にフィードバックできるシステムを開発するなど、初心者の女性でも働きやすい環境を整えた。

稼働から3年近く経てその成果はどうか。まず人員は当初の4人から今は10人にまで増加。加工レベルも向上し、最近では、穴あけ加工できる設備も導入した。また、マシニングセンタでの銅電極の加工や、複雑形状の研削加工ができる女性も入社してきたという。パートから正社員になった女性も誕生した。

さらに、同工場で得た様々な自動化の仕組みや知見も他工場に展開できそうだという。

そんな水谷社長の目下の悩みは、税法上や社会保障上の扶養控除の問題だ。「加工スキルが高くなれば、給与も高くしたいし、手当も出す。けれど、扶養控除の問題から、残念ながら労働時間を調整してしまう人もいる」と打ち明ける。今後は「働きたい人が時間を気にせず働けるように制度変更を訴えていきたい」。

会社概要

  • 本  社:大阪府東大阪市横枕西3-28
  • 電話  :072・964・2511
  • 代表者 :水谷昌晃社長
  • 設立  :1966年
  • 従業員 :100人
  • 事業内容:金型用精密部品の製造・販売
PART3

金型経営者・技術者に聞く「わが社の社内制度」

休暇制度は充実、今後は評価制度も

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金型企業の経営者や技術者は自社の社内制度についてどう感じているのか。アンケートを実施した。

まず自社の社内制度で充実していると思う制度を聞いた。最も多かったのは「休暇に関する制度」。育児休暇や介護休暇、アニバーサリー休暇などを設ける企業が多かった。中には1時間単位の時間休が取得できる企業や、趣味休暇やお見合い基金など一人ひとりに合わせ地域外からの求人にも対応するため。福利厚生の拡充に取り組む企業などもあった。

次いで多かったのが「生活支援に関する制度」。住宅手当や家族手当などを設ける企業が目立った。その後に「食・健康に関する制度」、「社内コミュニケーションに関する制度」などが続いた。

一方、今後充実させたい(させてほしい)と思う社内制度では、「評価に関する制度」が多かった。「働き方が大きく変わってきているので、評価方法も変える必要がある」や「社員のモチベーションを上げたい」という意見が目立った。

2番目には「社内コミュニケーションに関する制度」が続いた。「社内の協力体制の構築やベクトルの共有を図るため」や「モチベーションの向上」など評価制度に通ずる意見が多かった。続いて「スキルアップに関する制度」、「休暇に関する制度」が並んだ。

最後に理想の社内制度を聞くと、「社員のシェアリング」や「1か月間の長期夏季休暇」、「テレワーク勤務可能な制度」など様々な意見が挙げられた。

PART4

イグス アジアパシフィック地域責任者 カーステン・ヘッカー氏に聞く「海外の社内制度事情」

約4250人が働く

イグスはドイツ・ケルンに本社を構える樹脂製の機械部品メーカー。ケーブル保護管やベアリング、可動ケーブルなどを全世界に供給する。本社工場内には金型加工設備も備え、製品の製造に使う金型を全て内製している。ドイツの金型企業はどんな社内制度を運用しているのか。アジアパシフィック地域責任者のカーステン・ヘッカー氏に聞いた。

誰もが平等な会社

カーステン・ヘッカー氏

当社の重要な価値観の一つは誰もが平等であることです。オフィス内は壁がほとんどなく、CEOも他の社員と同じようなデスクで仕事をし、差別化はありません。“Everyone is a manager ”という考えのもと、誰もが自己責任で会社の一員となり、自分の仕事の範囲で最善の決断を下しています。

また、社員が自身のスキルを向上できる機会も平等に提供しています。技術的なトレーニングからプレゼンテーションや言語のトレーニングまで約150種類のコースを用意し、全社員が受講可能です。

そして当社にはもう一つ重要な理念があります。それは全社員が会社の成功に関与することです。お客様は会社の「太陽」であり、会社の活動の中心となる要素です。お客様の幸せは当社の成功を意味し、この成功は金銭的な報酬などの形で社員にも与えられます。当社ではこれを「ソーラーシステム」と呼んでいます。

この“コロナ禍”で、世界は大きく変化しました。当社でも在宅勤務が非常に重要な課題となりました。今後もこうした変化に対して迅速に対応し、自社の重要な価値観に沿った最良の職場環境を実現するための対策を講じていく考えです。

PART5

記者の目

かつてのような右肩上がりの経済成長が望めない時代。働く人たちのモチベーションは大きく変化した。ある金型企業の社長はこう話す。「今の人たちがみているのは、給料よりも休日日数、残業や休日出勤の有無、転勤の有無、福利厚生が充実しているかどうか。受注変動の波が激しい金型メーカーにとっては難しい時代だ」。

今回の特集では金型メーカーのユニークな社内制度について取り上げた。多様な人材の活躍を推進する制度や従業員の豊かな生活を支援する制度などで、従業員のモチベーションアップや社内コミュニケーションの円滑化などにつなげていた。

今後これまで以上に人手不足が深刻化することが懸念される中、いかに働きやすい職場をつくるか。社内制度はその一助になる。

金型新聞 2021年12月10日

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