いかにトライ数を減らすか ―アルミ材用金型に取り組んだきっかけは。 「1988年にホンダのNSXに関わったのがきっかけ。オールアルミボディを採用した自動車で、当社では一部の金型を手掛け、量産はほぼ全てのアルミ部品の生産…
「金属AMはプロセスの一つ、目的は顧客の課題解決」日本精機常務・松原雅人氏【鳥瞰蟻瞰】
金型メーカーから技術を発信

粉末やレーザーなど、多くの要素を最適に制御しなければいけないため、金属3Dプリンタによる金型づくりは簡単ではありません。また、何でも作れる魔法の杖でもありません。それでも参入したのは、切削加工などと同じく、金型の加工プロセスの一つになりつつあること、顧客の本質的な課題を解決する最適な手段だと判断したからです。
ダイカスト金型を手掛ける当社では、昨夏にGEアディティブ社の金属3Dプリンタを導入しました。現在、大同特殊鋼のSKD61相当の粉末材「HTCシリーズ」を使い、230㎜角程度であれば造形できます。また、金型を商品として提供するには保証が不可欠なので、設計、解析、造形、熱処理、加工、品質保証まで内製できる一貫体制を構築しています。
そもそも導入のきっかけとなったのが、辻村正稔社長の「うちの武器は何だ」という問いでした。「大型加工機がある」、「生産能力が高い」、「設計力がある」—。色々と強みを考えましたが、それらは結局、従来のQCDでの競争力を高めるという軸でしかないわけです。しかも、設備に依る部分が大きければ、海外でも作れてしまう。
では、当社にしかできないオリジナルの武器を持つには何をすべきかー。しかし、そんなこと簡単に思いつかないですし、すぐ金属3Dプリンタに答えを求めたわけではありません。
私は26年前に業界に入り、ダイカスト金型の変化を見つめてきました。ライン冷却やジェットクール、入れ子分割や表面処理など技術は進化してきましたが、顧客の本質的な課題は「早く良品を作ること」です。これはずっと変わりません。ただ残念なのは、我々はこれまで顧客発信の技術に対応するだけだったことです。
ならば、金型メーカー発信で、この課題を解決できる独自の手段を開発できれば武器になりえます。そのためにまず、設計領域の重要性が増している今、顧客の設計者との関係強化が欠かせません。その最適な手段が金属3Dプリンタだったわけです。
知見が少ない金属3Dプリンタで、冷却効果の高い金型の事例を多く作り、採用が増えれば、金型の構造全体を見直す必要が出てきます。そうなると、設計者に提案しやすくなるからです。しかも、長年の武器である金型技術と融合できれば「良品を早く作る」ことを提案ができます。
SKD61材が登場していたことも大きいですね。従来の金型と同じ材料で作ることができれば、提案の余地は大きくなると考え、導入を判断しました。
とはいえ、経験から痛感するのは、金属3Dプリンタは簡単な技術ではないということ。材料、機内の酸素濃度、熱処理など制御する要素は多い。ただ、いずれは金属3Dプリンタによる金型づくりも他の加工プロセスと同様に一般化していくでしょう。技術の進化は昔より早いので、5年もすれば「普通の技術」になっているかもしれません。
むしろ、そうなる可能性のほうが高い。けれど全く悲観はしていません。
我々がもっと先に行けばいいだけの話ですから。その一つとして、現在大型化への対応を進めています。機械や素材メーカーらと協業しながら、500㎜角サイズの造形に取り組んでいます。
「良品を早く作る」には、金属3Dプリンタの技術が重要になることは間違いない。だとすれば、できるだけ早くこの技術を広めていくべきだと思います。そのためにも「来るもの拒まず」で、金型づくりで金属3Dプリンタに挑戦する企業とは協業したいですね。
金型新聞 2022年6月9日
関連記事
高品質な鏡面磨き ミサト技研はプラスチック金型やダイカスト金型、機械部品などの鏡面磨きを手掛けている。「納期に遅れず、顧客が希望する品質に応えることができる」(牧野聖司社長)と強調するように、熟練した技術と知見による高品…
天性の細やかさ数値で語る力が必要 経済産業省の工業統計によると、2018年の日本の金型生産額は1兆4752億円。生産量こそ中国に抜かれて久しいが、新素材の登場や部品の複合化、微細化が進み、依然として日本の高度な金型技術…
金型業界に特化した調査やコンサルティングを手掛けてきましたが、2018年にバイオ樹脂の一つである「ヘミセルロース」の開発や成形に乗り出しました。社名にある「革新」的なことを実現するには、コンサルティングだけでは限界がある…
微細加工の大型化に対応 工作機械の「マザーマシン」として世界で高い評価を得ている安田工業。近年、金型業界でもニーズが高まる微細加工向けとしてJIMTOF2016で「YMC650」を発表し微細加工分野の開拓に努めている。…