日本金型工業会の会長など歴任 日本金型工業会や国際金型協会(ISTMA)、アジア金型工業会協議会(FADMA)の会長などを務め、日本のみならず世界の金型産業の発展に貢献し続けた黒田彰一氏(黒田精工最高顧問)が9月30日…
「現場で活躍できる人材育て、学生の未来を後押しする」 大分県立工科短期大学校校長・䑓博治氏[鳥瞰蟻瞰]

入社したその日から金型づくりや保全の現場で活躍できる。当校の機械システム系金型エンジニアコースはそんな人材を育てています。アカデミックな指導はしません。指導するのはあくまで金型をつくり、使う実践の現場で必要な技術や知識です。
なぜそのような方針で学生を指導しているのか。それは地元・大分県下の金型や成形、プレスメーカー、県下に進出した自動車や部品メーカーの生産拠点が人材採用で求めることであり、それに応える能力を育てることが学生の未来を後押しすることにつながるからです。
この方針を進める契機となったのがダイハツ車体(現ダイハツ九州)の大分への生産移転(2004年)でした。それまで日産自動車やトヨタ自動車が福岡県に相次いで工場を新設。自動車は北部九州の基幹産業へと成長しつつありました。
そこに、当校(1998年開校)と同じ中津市にダイハツ車体の工場新設に伴い金型や成形・プレス部品メーカーも進出すれば、多くの雇用が生まれる。それが予想されたため当校は金型を専門に学べるコースの新設を検討しました。
開校時からの大学方針はアカデミックに指導するものでした。私はそのような指導を受けた学生を県下の企業や進出企業の工場が求めているのか、学生が望む職域に就くことができるのかと疑問に感じていました。
県下の企業や工場での実際の仕事は金型づくりや金型保全。その現場が求めるのは金型技能者です。であればアカデミックに金型を学ぶのではなく、金型づくりや保全の実践で役に立つことを指導した方が良いはずです。
仮にアカデミックに指導しても就職先は見つかりますが、そんな人材を求めるのは生産技術や研究開発部門。当校を卒業しても学士を取得できないので狭き門。それに当校の学生の約65%は地元企業への就職を望んでいる。生産技術などは名古屋や大阪の本社にあり、望みを叶えられない。
私は地元の企業や進出企業を訪ね、人材採用についてヒアリングし、金型づくりや保全の実践で役に立つ人材を求めていることを確認できたので当校や県に提案。承認を得て、2007年当コースをスタートしました。
当コースの学生は実践に極めて近い指導を受けます。金型向けの工作機械やソフト、プレス機、成形機を使い、金型を設計製作、試作し検証します。講師には三井ハイテックのOB技術者の協力のもと実践さながらのプロの技能や知識を得ることができます。
そして学生には自らの得意分野の理解を促します。グラインダで精密に磨けたり、自由な発想で設計できたり、金型の不具合がすぐにわかったり。得意なことを理解し、就職先で活躍できる職域を具体的にイメージするよう指導します。
これらは学生と企業とのミスマッチを減らすためで、当コースはこの15年、約120人の学生を企業に送り出してきました。評価はその約75.8%が「4大生並み、4大生以上」。離職率は13.6%。学生の将来を後押しできていると感じています。
しかし「入口」が課題です。自動車のEV化などが取り上げられ、「金型やものづくりに未来がない」と思う人もいますが、そんなことはありません。世の中の多くの物が金型からできていますし、製造業は今なお日本の基幹産業です。
「金型やものづくりの魅力を知って欲しい」。その思いから当校では学園祭で様々なものづくりを体験できる企画を催しており、地域の大人や子ども約3千人が訪れます。それが金型やものづくりに興味を持ってもらえる機会になれば。そう願っています。
金型新聞 2022年8月10日
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