ゼロベースで知恵絞る 得意な分野で連携を 顧客の生産技術をサポート 日本金型工業会の学術顧問を務める、日本工業大学大学院の横田悦二郎教授は、日本のプレス金型の強みを「他の型種に比べ、技術の蓄積が生かせる部分が大きい」と…
自動車の電動化想定し、大型で複雑・高精度なプレス技術を開発[プレス加工技術最前線]
自動車の電動化や軽量化ニーズの高まり、短納期化、熟練作業者の減少など、プレス加工を取り巻く環境は大きく変化している。プレス加工メーカーへの要求も高度化しており、これまで以上に技術革新を進め、変化するニーズに対応することが必要になっている。メーカー各社は、電動化部品や超ハイテン材への対応、プレス加工全体の解析などに挑む。また、これらの加工を支えるプレス加工機も進化を続けている。本特集では、こうしたプレス加工技術の最新動向に迫る。
久野金属工業 ー他社にない多工程の強みー


ハイテン材など高張力鋼板や難加工材など高精度なプレス加工を手掛ける久野金属工業は高機能な金型をコア技術に、精密絞りや板鍛造、ファインブランキングなど各種プレス加工を複合化し、複雑形状かつ精密なプレス部品に対応。久野功雄副社長は数年前から「電気自動車への移行が予想以上に早く進むというストーリーを描いている」と語り、EV車やHV・PHV車の増加を想定し、大型で複雑・高精度なプレス技術の開発を進めた。
同社が最も力を入れているのが駆動用モータの大型モータハウジングのプレス加工だ。大型モータハウジングは高出力・低騒音化を図るため、高精度が求められる部品で、従来は鋳造やアルミダイカストで成形し、切削加工で精度を出すのだが、コスト高の課題があった。それを金型とプレス技術でモータハウジングを高精度かつ低コストで生産する技術を実現した。
大型モータハウジングに使用する590ハイテン材は板厚や材料特性のばらつきが大きい。例えば、板厚3.6㎜のハイテン材は公差±0.2㎜あり、安定して高精度な部品を生産するのは困難。そこで自動寸法調整金型という金型内で微小調整するフレキシブルな金型機構を岐阜大学や名古屋市工業研究会と共同開発。板厚が0.2㎜変化しても目的の寸法精度を可能にする金型を開発した。
さらに、高精度なプレス加工を実現するため、フレーム構造やスライド部、クランク機構を見直し、成形性と生産性を両立した独自の深絞り専用トランスファプレス機(1200t)をプレス機メーカーと共同開発(特許取得)。φ300㎜×H100㎜のリング形状の大型モータハウジングに対し、公差±0.05㎜以内で安定的に生産できる体制を構築した。久野副社長は「国内や海外の自動車メーカーもEVやHV化が進んでおり、月産3~4万個で生産している」と受注も好調だ。

「これからのキーワードは大型かつ精密だ」と久野副社長は市場の動きを予測する。EV車生産が増えれば、モータ関連部品は確実に増えてくる。また、高出力など大型化する可能性も高い。しかし、大型部品を精密に生産するのは難問だ。「そこに技術の差別化が生まれる」と久野副社長。同社はそうしたニーズに応えるため、金型やプレス技術に加え、他社にはないプレス機を並べた最大15工程のロボットラインをフレキシブルに構築する量産技術を確立した。あえて順送プレス+ロボットラインなど複数工程(多工程)に分割することで、複雑な形状を高精度に仕上げるプレス技術を実現している。「これが久野流のやり方」と久野副社長は胸を張る。同社は2023年、新工場を立ち上げ、モータ需要に対応した新たな部品にも挑戦する構えだ。
金型新聞 2022年8月10日
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