日本金型工業会の会長など歴任 日本金型工業会や国際金型協会(ISTMA)、アジア金型工業会協議会(FADMA)の会長などを務め、日本のみならず世界の金型産業の発展に貢献し続けた黒田彰一氏(黒田精工最高顧問)が9月30日…
【金型の底力】いがり産業 ユーザーが必要な金型を
ユーザー視点の型づくり
樹脂とプレス技術の融合
成形メーカーだった、いがり産業が金型製作に着手したのは2004年。10年以上経て、今や金型の外販が売上の7割以上を占めるまでに成長した。成形メーカーという利点と生かし、ユーザーの視点に立った金型づくりが評価されてきたためだ。一昨年にはプレス部品メーカーのムロコーポレーションのグループ企業となり、プレスと樹脂技術の融合を図るなど次なるステージを目指す。

創業は1948年。養鶏事業からスタートし、その後カッパなどビニール加工事業に参入。70年代後半、創業者の弟でもある、イガリモールド(現キヤノンモールド)の社長が地元茨城に戻るのに合わせ、成形を始めたのが今の事業の源流だ。


その後、兄弟で金型と成形を分業するという形で順調に成長。別会社ながら、当時は金型から設計まで手掛ける企業は珍しかったことに加え、カメラやCD、携帯電話など樹脂部品の需要増に合わせて、業容を拡大した。
しかし、2004年にイガリモールドがキヤノングループになったことで、急変。「これまでと同じという訳にもいかず、金型の内製をせざるを得なくなった」(猪狩崇社長)。ゼロから金型づくりに着手した。
アドバンテージだったのが、補正技術を持っていたことや、他社の金型に触れる機会が多かったこと。当時主力であったカメラ用レンズ鏡筒部品は要求精度も10μmと厳しく金型の補正が必須であったという。「社内で金型と成形品を計測して、補正するノウハウを持っていたことがユーザーに認められた」という。また「成形メーカーとして、同業他社の金型を使っていたので、いろんな金型の設計や構造を学ぶことができた」。
だが、自身はイガリモールドで修業していた時もあるとはいえ、加工は素人集団。「5年は本当に苦労したし、金型単独の黒字化は10年掛かった」。
しかし、現在は売上の型売りが7割になるほど成長している。その理由について「ユーザーの視点で金型を作っているからだと思う」と分析。「ガス抜きや冷却、メンテナンス性など成形メーカーだから、ユーザーがどんな型が必要かよくわかる。しかも成形部門で量産性を担保して、出荷することが強み」と話す。輸出される金型が多いのも、その信頼性からだろう。

このように、金型と成形の総合的な提案を強みとしてきた同社だが、大きく変化する事業環境の中で個人経営から組織経営へ移行し会社の更なる成長を目指すため、19年にJASDAQ上場企業のプレスメーカーであるムロコーポレーションのグループに入った。猪狩社長は「叔父の決断(キヤノンによるイガリモールドのグループ化)を見なければ選択しなかったかもしれない」と話すが、補完関係にある両社によるシナジーは大きい。
ムロコーポレーションは樹脂のノウハウを取り込み、自動車メーカーに対し、マルチマテリアル化を提案する。いがり産業もプレスを含めたインサート部品を強化する考えで、成形と金型と同じように、今後はプレスと樹脂技術の融合で次なるステージを目指す。
会社概要
- 本社 : 茨城県笠間市中央1-7-25
- 電話 : 0296-77-0151
- 代表者 : 猪狩崇社長
- 創業 : 1948年
- 従業員 : 113人
- 事業内容: プラスチック成形、射出成型用の金型の設計製作、バックライトユニットの設計製作、ビニール製品加工など。
Q.人材育成で何に取り組んでいますか
経験を積ませ続けること
最近痛感しているのは、モノを作らないとノウハウの蓄積はなくなるということ。久しぶりに受注した仕事があったのですが、我々は当たり前と思っていたことが、若い世代はできなくなっている。それは経験していないからだと思う。経験があってこそノウハウは蓄積されていく。だから、経験を積ませるために必要な仕事は積極的に受注しようと言っています。
金型新聞 2021年7月10日
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