12000tの金型に対応 大型のダイカストマシンで、アルミ部品を一体鋳造する「ギガキャスト」。トヨタ自動車やリョービが参入を表明し、注目を集めている。ただ、国内でギガの量産金型を手掛けた企業はほとんどない。 三重県の共立…
【特集】2030年の自動車と、金型と
PART1:電動化というチャンス、新たな需要が生まれる
PART2:この10年を振り返る
PART3:新潮流に挑むチャレンジャーたち
PART4:記者の目
PART1
電動化というチャンス、新たな需要が生まれる
電子部品、モータ、電池、軽量化
20年代の金型業界は次世代自動車への対応する10年になる。ただ難しいのは、いつ、どう変わるかが読み切れないことだ。だが、先手を打って、電子部品やモータ、電池、軽量化対応などに成長分野に参入する金型メーカーも出てきた。
「30年までに事業構造を変える。そうしないと生き残れない」—。エンジン関連の金型を手掛けるメーカーの経営者はそう話し、「20年代の金型業界は大変革の10年」とみる。次世代自動車へのシフトが急激に加速しているからだ。
各国の施策も電動化を中心に次世代自動車への移行を促している。欧州では、各国の承認は必要だが、35年までにハイブリッド車を含むエンジン車の販売終了を打ち出した。日本では、HVは含むものの、35年までに新車販売で電動車100%を目指す。
金型メーカーにとって、こうした変化への対応が難しいのは「いつ、どう変わるのか読み切れない」(ある樹脂型メーカー社長)からだ。日本自動車工業会でも「電動化はカーボンニュートラルに有効な手段だがアプローチは一つではない」と言及するほど見通しづらい。
明確なのは、自動車に注力するならば、変わらなければいけないということ。経済産業省が今春に立ち上げた「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」でも、電動車の導入補助金やインフラ整備、電池産業の育成の施策に加え、事業転換への支援を打ち出し、変化を促している。
ではどう変わり、どこに注力すべきなのか。その一つが電子部品だ。日本金型工業会の技術顧問の横田悦二郎氏は「自動車は機械製品ではなく、電子製品に変化すると考えたほうが良い」と指摘する。「電子技術は進化が早く、製品寿命は短くなる」とみる。
電池やモータ関連の金型需要も拡大している。車載用コネクタを手掛ける鈴木は、リチウムイオン電池の部品を受注し、工場を増設した。燃料電池用のセパレータ金型を手掛けるニシムラは昨年、モータコア用の金型に参入した。
軽量化への対応の重要性はこれまでと変わらなさそうだ。ある自動車メーカーの技術者は「次世代車がどうなろうと軽量化は不変」と指摘する。最近では「アルミや樹脂に注目している」と話す。冒頭のダイカスト型メーカー社長は「軽量化が必須な車体構造部品での市場を開拓したい」。
最近、自動車メーカーから電動車に関連する部品の金型を受注したメーカーの社長はいう。「次世代自動車で減る部品もあれば、増える部品もある。やり方次第で新たな需要を開拓する好機だ」。
PART2
この10年を振り返る
金型最大の需要家である自動車産業はこの10年で大きく変化した。コネクティング、自動化、シェアリング、電動化といった“CASE”と呼ばれる新しい領域で技術革新が進み、これまでとは異なる自動車の概念が生まれたからだ。トヨタ自動車の豊田章男社長はこうした時代を「100年に一度の大変革の時代」と称する。2010年代が終わり、20年代の幕が開けた中、これまでの10年での自動車の変化は金型メーカーにどんな影響を及ぼしたのか。振り返っていく。
CASEによる大変革
自動車の大変革を表す“CASE”は、2010年代の自動車を象徴する言葉の一つだ。10年代に入り、自動車メーカー各社は電動車や自動運転技術の開発に加え、ITを活用したコネクテッド技術の開発や、シェアリングサービスという新しいビジネスモデルの確立に取り組み始めた。
電動車では、10年に日産自動車が100%電動車「リーフ」を発売し、14年にはトヨタ自動車が燃料電池車「ミライ」を市販化。他のメーカー各社も、様々な電動車を市場に投入した。また、自動車運転技術ではスバルの「アイサイト」などレベル2(部分的運転自動化)の運用が本格化し、直近では本田技研工業がレベル3(条件付運転自動化)搭載の新型車を発売した。
コネクテッド技術ではトヨタ自動車が18年にコネクテッドサービス「T‐Connect」を開始。シェアリングサービスもトヨタ自動車や日産自動車、本田技研工業が取り組みを進めている。
こうした動きにより、日本工業大学客員教授の横田悦二郎氏は「自動車は機械製品から電子製品へと変化した」と述べる。各種センサや制御装置など電子部品の搭載量が増加し、駆動源がエンジンからモータに置き換わるなど、構成する部品がこれまでとは変わっていった。
金型メーカーにとってこの“CASE”は、金型需要の減少という危機をもたらす一方で、新たな金型需要も生み出した。「モータ、バッテリ、電子部品は自動車に関連する金型の新たな三種の神器だ」。プレス金型メーカー、ニシムラ(愛知県豊田市)の木下学社長はこう話す。
同社は自動車部品向け冷間鍛造金型などを手掛けていたが、将来的な需要拡大を見越し、2000年頃から燃料電池車向け金属セパレータ用金型に取り組んできた。10年代に入り、燃料電池車の市販化によって需要が増加。この10年で同社の柱になるまで成長した。
その他にもこの10年で受注を伸ばした金型メーカーは少なくない。日本の金型生産額(工業統計)をみても、11年は1兆1628億円だったが、19年には1兆6745億円まで増加している。
10年代は、“CASE”によって、従来の自動車技術よりも広い分野の技術が必要になり、新しい金型需要も創出された。20年代はどうなるか。金型メーカーの多くは、新たな需要を取り込むため、新規部品向け金型の開発や他企業との連携などに取り組み、将来に向けた挑戦を続けている。
PART3
新潮流に挑むチャレンジャーたち
燃料電池や電子部品、モーター。、電気自動車など次世代自動車の拡大で需要の増加が期待できそうな分野だ。ただ、こうした成長分野への参入は簡単ではない。技術の難度に加え、自社の技術がどこに適し、どこを目指すべきなのかを見極めるのが難しいからだ。こうした中で、自社の強みを分析し、電池やモータ、軽量化といった成長分野への参入を進める金型メーカー3社の取り組みを取材した。
鈴木 リチウムイオン電池関連部品受注
車の電子化は好機
電子部品や車載用コネクタの金型などを手掛ける鈴木は次世代自動車向けの事業を強化している。2018年には車載用リチウムイオン電池関連の部品を受注。その後もラインを増設し、25年には同事業で売上高26億円まで引き上げる考えだ。
車載向けを強化してきたのは「事業の安定化」(鈴木教義社長)のためだ。00年代以降、半導体やスマートフォン向けの電子部品や金型が好調に推移。ただ、ITバブルなどを経験し「(民生用の電子部品や金型は)受注の波が大きく、事業安定化のためには他分野への参入が欠かせない」と判断。その一環として、07年には住友電装と合弁会社を設立し、車載用コネクタに参入した。
その後、車載向け部品や金型はグループ全体では拡大。しかし「(合弁ではなく)単独でも安定成長するには自動車向けのさらなる強化が必要」とし、14年から次世代自動車関連への参入を模索してきた。強みの順送プレス金型や、自動化ノウハウなどを生かせる部品を探し「ユーザーの開発部門などを中心に営業をしてきた」(営業担当の中島慶昭執行役員)という。
そして18年に受注したのが、トヨタ自動車が20年に発売した「ヤリス」に搭載したリチウムイオン電池に関連する部品。詳細は書けないが、順送プレスで1枚の薄板から円柱状の突起を持つ、複雑な形状の部品で「これまで複数に分かれていたものを一体化させた。現状では当社でしか作れない」(鈴木社長)という。
この部品を契機に順調に受注は拡大。20年には21億円を投資した日滝原第二工場を稼働させたほか、今年には第3ラインを増設した。「2年後をめどにさらなる増産を検討したい」(中島氏)。
次世代自動車について、中島氏は「電子部品に近づいており、当社にとっては追い風」と話す。「スマホなどで培った金型や部品のノウハウや、自動化技術など自動車関連に生かせる領域は多い」からだ。すでに前述のヤリスの部品以外にも受注を広げている。鈴木社長も「自動車がどう変化しても、フルラインで対応できる金型づくりを目指す」とし、「長期的に次世代車関連の売上高を80億円程度まで引き上げたい」とさらなる成長を見込む。
会社概要
- 本社 : 長野県須坂市大字小河原2150-1
- 電話 : 026-251-2600
- 代表者 : 鈴木教義社長
- 創業 : 1933年
- 従業員 : 833人
- 事業内容: 精密プレス・モールド金型、コネクタ、自動車電装部品など。
ニシムラ 金属セパレータを柱に
モータコアや電子部品にも力
「脱炭素時代が到来し、当社がこれまで取り組んできたことが未来に向けた準備になった。ここからが本当の勝負だ」と話すのは、燃料電池向け金属セパレータ用金型などを手掛けるニシムラの木下学社長。バッテリ、モータ、電子部品を「電動化3種の神器」と位置づけ、これまでにそれぞれの領域で取り組みを進めてきた。
現在の同社を代表する金属セパレータ用金型は、20年ほど前に自動車部品メーカーと共同で製造を開始した。燃料電池車の市販化に加え、ここ最近ではあらゆる産業分野で脱炭素化に向けた動きが活発化し、これまで以上に需要が拡大している。同社でも船舶やドローンなど自動車以外の分野からも引き合いが増加しており、「日本だけでなく、世界中から問い合わせが来ている」(木下社長)という。
同社の強みはセパレータ用金型の設計から加工、プレスまで全て一貫して対応できること。さらに昨年にはファイバーレーザー加工機を導入し、レーザー溶接によるセル化も内製可能になった。今後は自社だけでなく、複数社で協力し、金型から量産、検査まで一連の生産ラインが提供できる体制を目指す。すでに搬送関連に強いシステムインテグレータ(SIer)や検査機器メーカーなどと連携している。
この金属セパレータ用金型に加え、モータ、電子部品でもこれまでの取り組みの成果が出始めている。モータでは昨年からモータコア用金型の製造を本格的に開始。すでに一部の部品メーカーに採用された。電子部品では昨年と今年に電動車向けプレス部品の生産ラインを1ラインずつ立ち上げ、量産を開始している。
「今後も金属セパレータを柱としながら、モータコア用金型や電子部品のQCDにおいてレベルアップに取り組んでいきたい」(木下社長)。今秋にはさらなる加工精度の向上を目指し、±0.5度の恒温室を設置する予定だ。金属セパレータ用金型でも燃料電池向けに加え、水素生成装置向けセパレータの試作にも取り組み始めている。
また、高機能樹脂部品の金型製造などといった新たな分野への挑戦も検討中だ。「今後も車の電動化、脱炭素に向けた様々な部品、金型の需要が出てくると思うので、取りこぼさないように取り組んでいく」(木下社長)。
会社概要
- 本社 : 愛知県豊田市広美町北繁91
- 電話 : 0565-21-1583
- 代表者 : 木下学社長
- 従業員 : 65人
- 事業内容: 燃料電池車向け金属セパレータ・高精度金型設計製作、プレス成形など。装部品など。
米谷製作所 海外、異業種企業と連携
新規部品や海外市場を開拓
「この先10年で電動化部品の取り込み、エンジン系部品から車体系部品への拡大、そして海外展開を目指す」。自動車エンジンなどのダイカスト・鋳造用金型を手掛ける米谷製作所の米谷強社長は、自社の将来像をこう話す。
自動車の電動化が進み、同社主力の内燃機エンジン向け金型は長期的な需要減少が予測される。そうした中で、モータやインバータのハウジングなど電動車に必要な部品や、サスペンションメンバやタワーといった車体構造部品など、今後需要拡大が見込まれる部品の取り込みを目指している。
そのために設備の大型化やデジタル化技術による生産効率の向上などの取り組みを進める同社だが、最も重視しているのが連携だ。
昨年末に自動車鋳造部品などを手掛けるスイス・ジョージフィッシャーの中国法人(以下GF中国)と業務提携を締結。これまで実績の少ない車体構造部品向け金型のノウハウや技術の習得を狙う。現状はオンライン会議を通じた技術交流にとどまるが、「5年後までに車体構造部品の金型を受注したい」(米谷社長)。
また、異業種や上流工程の企業とも連携を進めている。最近では試作メーカーと協業し、試作から量産まで一気通貫での提案を可能にしている他、新潟県内の異業種経営者で定期的な情報交換会を開き、自社だけでは難しい案件にも対応できるようなネットワークを構築している。
「日本の自動車メーカーは金型の現地調達化を進めており、日本だけでは対応できなくなっている。日本の金型メーカーが今後も生き残るには海外展開が不可欠になるだろう」(米谷社長)。同社がGF中国と提携したのも海外に販路を広げることが狙いの一つにある。中国や欧州に工場を構える日系メーカーを中心に販路拡大を目指している。また、GF中国以外にもポーランドの金型メーカーと連携している他、将来的には北米企業との連携も検討しているという。
「今後は、自社だけではなく、複数社で連携し、メーカーから開発委託を受け、試作から量産まで一気通貫でグローバルに提供できるエンジニアリング企業体を目指していきたい」(米谷社長)。
会社概要
- 本社 : 新潟県柏崎市田塚3-3-90
- 電話 : 0257-23-5171
- 代表者 : 米谷強社長
- 従業員 : 100人
- 事業内容: 自動車エンジン、トランスミッション、鋳造金型設計製作、受託解析。
PART4
記者の目
次の10年で日本の金型企業が進むべき道とは。日本工業大学客員教授の横田悦二郎氏は「変化せずに今まで歩んできた道を進むか、新時代に対応した新しい技術開発を進める道か、この2つの選択肢がある」と話す。どちらの道を選択するか。2030年に向けて、日本の金型企業は大きな岐路に立たされている。情報収集や、他社との協業・連携、人材の育成など、最善の道を進むために取り組めることは多い。
金型新聞 2021年8月10日
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