金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

11

新聞購読のお申込み

「常識にとらわれない挑戦が競争力の源泉」エフアンドエム代表取締役・市井宏行氏

事業を継続するために
常識にとらわれず挑戦する
それが競争力の原動力に

変わり者とか常識外れとよく言われます。世の中であまり知られてない頃に5軸加工機を購入したり、たびたびCAD/CAMや工作機械の機種を変えたり。どうも周りの人には理解しにくいようです。けれどそれは全て事業を継続するためにロジカルに導き出した答えです。

5軸機は今から17年前、初めて導入しました。当時、日本ではそのメリットがあまり知られていなかった。それなのに導入したのは他社に先駆けて使いこなすことができれば将来、大きなアドバンテージとなり得ると判断したからです。

初年度は稼働率を度外視し応用技術の研究に専念しました。応用の道が見えてくると少しずつ金型の加工に展開しました。その後は加工品質や生産効率を高めることに貢献したり、5軸でしか実現できない構造を金型に採用することで耐久性が改善しお客様に喜ばれたり。結果的に大活躍しています。

CAD/CAMや工作機械の機種もよく変えます。追加や入れ替えで既存と同じものを選ぶのが一般的ですが、それだと技術の進歩が無い。一方その時代の最新のものを導入すれば最新の技術を得ることができる。そのたびに現場は苦労するのですが、それが刺激となり技能につながります。

前例が少ない失敗するかもしれないことをなぜするのか。それは「事業の継続」を最優先して考えた最善策だからです。当社は社員数15人の自動車部品のアルミ押出金型メーカー。大企業のように大規模投資によって効率化したり技術開発したりすることはできません。

小さな会社が勝ち残るには、独自の強みを持ち、その分野でほかの会社を大きくリードする。価格ではなく技術力で競争する。競争相手の少ない得意なゾーンで勝負し、けっしてボリュームゾーンに入らない。そのために、ときには常識外れに挑むことも必要です。

常識にあまりとらわれないのは私の生まれながらの性格に加えて当社の特異な生い立ちや父の考え方に影響を受けていると感じています。当社は1991年、アルミ製品メーカーの金型技術者だった父(市井収氏)が自動車メーカーから金型開発の依頼を受けて創業しました。

しかし創業メンバー4人のうち私を含む3人は金型づくりの経験が無かった。そこで始めたのが擦り合わせの要らない金型づくりでした。CAD/CAMやNC工作機械を駆使して金型を加工し、できる限り職人技の領域を減らしました。当時は擦り合わせするのが当たり前ですから珍しがられました。

それに、かねてから父は人の技能の依存度が高い金型づくりに疑問を抱いていました。金型の本来の価値は職人の技によって精緻に作り上げることではなく、品質の良い製品を安定して量産すること。それを実現できれば作り方はどんな方法でも良い、と。

父はよく「やってみないとわからないことは、やってみないとわからない」と言いました。常識外れのことをする時はもちろん、リスクの可能性を突き詰めて考えます。ですが必要以上に臆病にならず、チャレンジを続けていきたいと思っています。

いま密かに心待ちにしているのが、家にいながらにして工場にいる感覚で工作機械を操作し、振動や臭いを感じ、トラブルなどにも対応できる仕組み。これが実現したら働き方をもっと柔軟に変えることができる。もし実現したら、誰よりも早く導入して使いこなしたいですね。

金型新聞 2022年4月10日

関連記事

米谷製作所 メガキャスト向け超大物金型に挑む【特集:自動車金型の未来】

企業連携で金型技術確立へ EVシフトによって、需要減少が見込まれる内燃機関(ICE)部品の金型。シリンダヘッドやシリンダブロックなどのダイカスト金型を手掛ける米谷製作所はその影響を受ける1社だ。米谷強社長は「今後、内燃機…

ジヤトコエンジニアリング<br>永倉 均社長に聞く CVT技術を磨く

ジヤトコエンジニアリング
永倉 均社長に聞く CVT技術を磨く

この人に聞く 2018 電気自動車(EV)の登場で部品点数が減少したり、エンジンがなくなったりするのではないかといった金型への影響を危惧する声は絶えない。オートマチックトランスミッション(AT)や無段変速機(CVT)など…

【インタビュー】本田技研工業・田岡秀樹氏「自動車は『CASE』から『PACE』へ、金型の重要性は変わらない」

本田技研工業 四輪事業本部ものづくりセンター 完成車開発統括部車両企画管理部 生産製造企画課製造デジタル・グループ エキスパート・エンジニア 田岡  秀樹氏 CASEから「PACE」へ 金型の重要性変わらず  …

【インタビュー】京セラ 執行役員 機械工具事業本部長・長島 千里氏「微細加工市場に参入 」

大手切削工具メーカーの京セラは9月、高硬度材加工用(微細加工)のソリッドボールエンドミル「2KMB」を発売し、微細加工市場に参入した。これまで旋削チップなどを強みとしていた同社が焼入れ鋼など高硬度材を使用する微細加工市場…

―スペシャリスト―愛知製鋼<br>電極製作や手仕上げ省く

―スペシャリスト―愛知製鋼
電極製作や手仕上げ省く

熱間鍛造金型を直彫り トヨタグループ唯一の素材メーカーである愛知製鋼は、特殊鋼に加えて、自動車のエンジンや足回り部分に使用する鍛造部品も手掛けている。「月間1万型を生産、消費する」という金型部門では、高い品質と生産性を実…

トピックス

関連サイト