金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

19

新聞購読のお申込み

デジタル活用し設備全体をCAE解析する【変わるトヨタの型づくり】

PART1:デジタル活用

精密金型の生産性を向上

センシング状況の波形
型からプレス機までセンシング

トヨタ自動車が型造りで注力する取り組みの一つがデジタル活用だ。精密部品向けの金型を手掛けるモノづくりエンジニアリング部では、デジタルデータを活用することによって、金型だけでなく、プレス機も含めた設備全体のCAE解析に取り組み、精密金型の生産性向上に繋げている。

同社は20年ほど前から電動車の基幹部品を内製化。モータや電池、パワーコントロールユニット(PCU)などを手掛ける。これらの部品はどれも金型への要求精度が高く、ハイブリッド自動車(HEV)向け駆動用モータのステータコアではミクロンレベルの精度が必要とされている。

モノづくりエンジニアリング部では型構造に加え、切削、研削、放電などの加工や組付、測定といった技能の向上を図り、高い精度要求に対応してきた。駆動用モータのステータコア向け金型では、20年前に10μmだったパンチとダイの打ち抜きクリアランスを5μmまで高め、現在では従来の3分の1の板厚の電磁鋼板を打ち抜くことを可能にしている。

また、電動モータの精密プレスで習熟した加工や組付の技術は、燃料電池部品にも生かされている。その一つが燃料電池スタックのセパレータ。プレス加工(スタンピング形状)には、20μmという厳しい公差が要求され、金型にはさらに1桁上のミクロン台の精度が求められる。こうした高い精度に対しても、これまで培ってきた精密技術・技能によって実現することができている。

高精度なステータコア

年々高度化する要求精度に対応してきた一方で、「静的な型精度の向上はこれまでの取り組みで確立できたが、動的な挙動が把握しきれておらず、型製作後にトライを繰り返しながらミクロンレベルで調整して成立させており、いかにリードタイムを短縮するかが課題となっていた」(モノづくりエンジニアリング部要素術室 型成形技術グループ グループ長・藤原慎平氏)。

同社ではこれまで金型のCAE解析は行っていたが、プレス機まで含めた解析はしておらず、金型のみの解析で問題がなければ良しとして製作を進めてきた。しかし、実際に成形すると、製品のチッピングやバリや製品割れなどの不具合が出ることが多く発生していた。精密プレス成形の解析要求精度は1μmと非常に高いことが理由だった。

そこで着目したのが、プレス機も含めた生産設備全体のCAE解析。歪みセンサや変位センサなどを使って、設備全体の挙動の把握と解析に取り組み始めた。加工時の歪みや温度変化の他、プレス機の金型が取り付く面の平行度や、加工点の位置を定めるストリッパプレートの挙動などのデータを取得。「荷重をどう与えれば、どれくらいプレス機が変位するかを捉え、解析モデルに反映させていった」(藤原氏)。

モノづくりエンジニアリング部は2年前に試作、金型、設備、生産技術部門が統合してできた部隊。生産設備部門が持つ設備解析の知見を生かすことで、解析モデルの精度を向上させ、より実機に近い解析を行うことができた。

こうした一連の取り組みによって、これまで約12μmあった実機と解析の乖離を1μm程度まで抑えることに成功。やり直しにかかるリードタイムを20日も短縮することができた。「現状は確立したばかりで、n数がまだ少ない。これから試作・量産の金型に展開していきたい」(藤原氏)。

金型新聞 2022年6月9日

関連記事

ハイテン加工のカギはCAE【特集:プレス加工最前線】

スプリングバック、材料特性のばらつきに対応 ハイテン材加工に不可欠とされるCAE解析。すでに多くの金型メーカーが活用し、生産性や品質の向上につなげている。近年は自動車部材のハイテン化が進み、これまで以上に強度の高い超ハイ…

シミュレーションソフト【Breakthrough!】

金型のユーザーニーズとして普遍的なものが短納期化。昨今は開発期間の短縮など金型生産に費やす時間が短くなっているほか、コスト削減のため工数削減(手戻り削減)が大きな課題となっている。そこで重要なのがCAEの有効活用だ。近年…

【インターモールド名古屋】金型加工の最新技術

7月6~9日 ポートメッセなごや 294社が競演 金型加工技術に関する専門展「インターモールド名古屋」(主催:日本金型工業会、運営:インターモールド振興会)が7月6日~9日まで、ポートメッセなごや(名古屋市港区)で開催さ…

キヤノンモールド 誰でも簡単に見積もりできる仕組み作り 【特集:営業ってどうする?】

AI機能搭載の図面検索システムを導入 精密プラスチック金型を手掛けるキヤノンモールドは、キヤノン生産技術部門と共同で開発したAI機能搭載の「類似図面検索システム」を2022年に導入。これを活用し、誰でも簡単に見積もり算出…

金型メーカー座談会 若手経営者が語る
ー業界の魅力高めるためには 第一部ー

変貌する経営環境 順応の精神がカギ 座談会出席者(50音順) エムアイモルデ 宮城島 俊之社長  ヘッドライトなど自動車関連が主力のプラスチック金型メーカー。従業員は5人。本社は静岡県富士市だが工場は中国蘇州にあり、日本…

トピックス

関連サイト