ダイカストやプラスチック金型で金属3Dプリンタが採用されるケースが出始めてきた。造形条件の確立、レーザーの進化による高速造形など作業性の改善が背景にある。マルエージング鋼やSKD61相当材など金型に適した粉末材料が登場し…
―成形をゆく―
国本工業(静岡県浜松市)
トヨタ自動車の高級車レクサスLS600hや世界トップレベルの低燃費車アクアなどに搭載する各種パイプ部品を金型で微細に成形する凄い会社に巡り合えた。門外不出の門を開けてくれたのは、ダイカストや鋳造の金型専業メーカー、小出製作所小出 悟社長。
自動車、二輪車部品製造の激戦地域にあって、跳び抜けたアイデアと成形加工でトヨタ自動車の生産技術者を唸らせる会社がある、と聞き、無理を承知で取材を申し込んだ。「小出さんに頼まれればイヤとはいえない。成形工場ならば」を条件に応じてくれた静岡県浜松市の国本工業(國本幸孝社長)は、見るもの聞くものすべてが初めての出会い。衝撃的な成形工場だった。
結論からいえば、同社の秘中の秘は「金型」にあると見た。
その金型の設計と製造は、本社工場(浜松市東区)で行っている。そこでは同時に治具と成形加工するトランスファプレス機の設計、製造も約20人の技術者で製造している、という。金型は全て内製。年間約200型を製造している。無論、取材はNO!
訪問の許可が下りたのは、その成形品の量産拠点、浜北工場(浜松市浜北区、4933㎡)だった。2011年8月に新設した同工場は、四輪車用パイプの成形部品を、14年度は対前年度比60%増の700万個を生産している。その90%強がパイプ成形。
工場は、19のトランスファプレスラインと 2つの溶接機ラインの計21ラインが並べられ、新たに第4世代とする金型の交換が可能なトランスファプレスが組み付けられていた。
成形加工品の多くは、駆動系セクションのエンジンやその周辺部品、排気系セクションのマフラーやその周辺部品など。「真直ぐな硬い金属のパイプを、曲げたり、切ったり、穴を明けたり、広げたり、縮めたり、設計図通りにプレス機で自在に変化させ成形する」(國本社長)ことを得意技術にしている。パイプ成形の魔術師といわれる所以はここにある。
成形品は、月産9万個の量産中のもの(材料投入時にビート位置を固定するための自動検知をし、曲げから両端成形/カット穴あけ/洗浄までをトランスファラインで自動生産するフロントパイプやインナーパイプ)もあれば、過去に量産されたものなど「数限りなく」ある。ここにご紹介できるのは、紙面の制約もあり氷山の一角に過ぎないことを先にお断りしたい。
「社宝」とする成形例
オープンしてくれた成形品は、以下のとおり。
「社宝」とする一つ、写真②は、ベンチレーション。極小曲げ+拡管・縮管技術の一体成形。両端の切削部品とパイプをロー付けするのに5工程を要していた部品をパイプ材で一体成形した。1個当りの重量を193.5gから105.6gに激減させた。この技術は、2006年、当時調達担当副社長の豊田章男現社長の目に留まり、国本工業がトヨタ自動車の口座を取得した「わが社のシンデレラストーリー」とする成形品。
「社宝」のもう一つ、写真③は、2001年に世界初のプレス金型で極小曲げ工法を成功させ、自動車部品に採用されたエキマニパイプ。
今でも多くの部品はベンダー曲げが行われているのが普通だが、同社はプレス曲げを独自に開発し、チャックしろをほとんど不要にし、さらに連続曲げや複数曲げを可能にした。同社のパイプ成形の原点である。
もう1つ、燃焼式ヒータ排気パイプ(写真④)。パイプの中に詰め物をしないでパイプ成形(潰し)した究極の成形品。現在、国立科学博物館に展示されている。
写真⑤は、シェービング加工例。ワイヤカットで加工している歯形状部品(材質SPH590=60Kのハイテン材、歯幅8mm、歯の厚み0.65mm、ピッチ1.56、刃たけ(先)0.88)をプレス成形したもの。「実現不可能な歯形状のプレス成形」として注目されている。
しかも部品単価を激減させユーザーを歓喜させた一品でもある。その他、たくさんの成形例を見せてもらったが、残念ながらその他は、写真と説明文をご覧下さい。金型形状を想像することをお薦めしたい。
住 所:静岡県浜松市東区貴平町320
創 業:1943年5月
設 立:1970年5月18日
資本金:2,000万円
従業員:73人(うち正社員58人)
代表者:國本幸孝氏
事業内容:自動車部品の製造、金型の設計・製作、製品の開発・設計
主要製品:排気系・駆動系・シャシー系部品。
金型新聞 平成27年(2015年)5月14日号
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