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自律し、考える人材を【特集:自動車メーカーの金型づくり】

自動化と人材育成—。自動車産業に関わらず、あらゆる製造現場において共通の課題となっている。人手不足は深刻化しており、課題解消に自動化、省力化は欠かせない。いかに若手に技能を伝承していくかも喫緊の課題となっている。一方で、既存分野の効率化や、次世代の自動車づくりに対応した人材の育成も不可欠だ。自動車メーカーの金型現場ではどのような取り組みを進めているのか。人材育成における各社の取り組みを取材した。

匠の技を見える化、短期間でノウハウ習得

技能はマンツーマンで教える(トヨタ自動車)

加速度的に時代が変化する中、人材育成にもこれまで以上に効率化が求められている。また、自動車の開発領域も多岐に渡り、幅広い知見やノウハウも要求される。各社、さまざまな取り組みで人材を育成する。

トヨタ自動車では匠の考え方や頭の中で描くイメージを見える化する取り組みに注力している。その一つがデジタル化。匠が何度も修正を繰り返して最適な金型を製作していたが、粘土細工で最適な金型を作成し、それをスキャナーで3Dモデル化。若手が作成したものと比較し、違いを明確化することで、技能伝承につなげている。一方で、トヨタ自動車モビリティツーリング部グランドエキスパートの和田安信氏は「技能が必要な領域はある」とし、匠が教師となって基礎技能を一対一で教え込む現場教育も進めている。

こうした技能伝承をモーションキャプチャーによって効率化しているのがマツダだ。熟練技能者が金型を研削するときの目線や手、体の動きを計測し、数値とグラフ化。習熟の浅い作業者に同じ作業をさせ、熟練技能者と比較する。その結果をもとに「技能カルテ」と呼ぶ技能診断記録を作成。このカルテをもとに繰り返し訓練することで熟練技能者の動きに近づけていく。これまで受講した技能者の95%が技能向上したという。

モーションキャプチャーで身体の動きを測る(マツダ)
匠と初級の技能の違い(マツダ)

初級者に教育用の金型、磨きや擦り合わせ体験

一方、日産自動車が取り組むのが、「教育型」。実際の量産型と同じものを若手に作らせて、技能や工程管理の基礎を学ばせている。日産自動車圧型技術課の福元賢巳主管は「以前に比べ、コストと時間の余裕がなくなり、失敗しにくい環境にある中、普段ベテランがこなしてしまう磨きや部品同士のすり合わせなどを若手が時間をかけて経験できる」。昨年から取り組み始め、すでに3~4型製作している。

人材育成を考える上で各社共通してたのが「自らで考え、行動できる人材」を育てること。自動車づくりが高度化し、従来と同じやり方、考え方だけでは通用しなくなる中、各社環境変化に対し、柔軟に対応できる人材を求めているようだ。

SUBARUは「自職場目線の脱却」を掲げ、他部門や外部との交流を強化し、より広い視点で金型づくりや車づくりに取り組める人材の育成を目指している。本田技研工業では、製法間を越えたジョブローテーションを実施している。若手だけでなく、設計リーダー層も対象とし、積極的な交流を図る。本田技研工業金型設計課の西川航チーフエンジニアは「新たな価値の商品群が増えており、それらに対応するには新しい人材を育てていかなければならない」。

製法を越えたジョブローテーション(本田技研工業)
教育型をつくり技能を学ぶ(日産自動車)

金型新聞 2023年8月10日

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