AM Lab&Fabを開設 DMG森精機は伊賀グローバルソリューションセンターに「アディティブマニュファクチャリング Laboratory&Fabrication(以下、AM Lab&Fab)を開…
AM金型の品質規格の確立へ 岐阜大中心に企業がタッグ
3次元積層造形活用技術開発センタ(G-ICAM)でコンソーシアム
ダイカストやプラスチック金型において徐々に広がりつつある、金属Additive Manufacturing(以下、AM)を活用した金型の入れ子。冷却効果や品質向上などのメリットが認められているものの、爆発的な拡大には至っていない。その最大の理由の一つが、明確な品質規格が存在しないために、費用対効果や運用の是非が判断しづらく、投資をためらう企業が多いことだ。 「規格がないなら、日本発でAM金型の品質規格を作ろう」――。昨年、岐阜大学の「3次元積層造形活用技術開発センター(G-ICAM)」にこうした思いを抱く企業が集まりコンソーシアムを組織。AM金型の品質規格確立に向け動き出した。 今回、そのコンソーシアムのメンバーである、岐阜大学の王志剛副学長、ソディックの圷祐次社長、豊田自動織機の佐藤良輔プロジェクトリーダー、日本精機の松原雅人常務の4氏に集まり頂き、「AM入れ子の重要性」「参入障壁の理由」「品質規格確立の狙い」などについて語って頂いた。

岐阜大学副学長。専門はプレス、鍛造。大垣精工の故上田勝弘会長らと岐阜大学の金型センター設立に尽力した。金型との出会いは30年以上前で、最も長く研究したテーマはトライボロジー。摩擦法則の解明、摩擦試験法や新しい潤滑剤の開発など。板鍛造の草分け的存在。

ソディック社長。1987年ソディック入社。91年からSodick, Inc.(ソディックグループ米国現地法人)に出向し、2005年には取締役副社長、16年同社取締役社長就任と、延べ約30年にわたり米国市場でビジネスに携わる。22年1月に帰国し、ソディック執行役員工作機械事業本部副本部長、3月上席執行役員、11月COO、24年取締役兼COO副社長執行役員、25年にソディック代表取締役CEO社長執行役員に就任。

豊田自動織機生技開発センター素形材開発室CSプロジェクトリーダー。2005年入社後、コンプレッサ事業部で型設計を担当。20年からダイカスト工程の技術開発や海外拠点管理を担う。AMを活用のダイカスト金型開発を主導し、量産適用によるサイクルタイム短縮などに取り組む。24年から生技開発センターにて素形材分野の新工法開発中。

日本精機常務取締役。1996年入社、2012年常務取締役。21年子会社でAM事業立上げダイカスト金型への適用を開始。機械加工、生産管理・工場⾧・営業を経験。25年経産省の「AM検討会委員」に選出され、AMの有識者として金属AM普及拡大に向けた示唆や提言に尽力している。
3次元積層造形活用技術開発センター(G-ICAM)とは
岐阜大学に設置されている、金属AMで金型革新を先導し、高い信頼性と高付加価値化を実現する研究拠点(センター長:岐阜大学 新川真人教授)。今回発足したコンソーシアムには、岐阜大学のほか、金沢大学、岐阜県工業技術センター、ソディック、大同特殊鋼、豊田自動織機、日本酸素、日本精機、ムトー精工が参画している。

Part 1:金型にとってのAMの重要性
AMは単なる加工技術ではなく、設計思想を変える基盤技術
司会: まず金属AMが金型づくりでどれだけ重要なのか、という点から議論を始めたいと思います。
松原: 私はAMを単なる新しい加工技術だとは思っていません。「金型の設計思想を変える基盤技術」だと捉えています。従来は「加工できる形状に設計を合わせる」のが当たり前で、その考えを変える手段がありませんでした。しかしAMを活用すれば、製品性能を最大化するための最適な冷却や温度制御を設計し、それを実現できる金型を作ることができます。当社でもすでにAM金型を製作しており、サイクルタイムの短縮、品質の安定、金型寿命の向上といった効果が得られています。
ただし、その価値は造形単体で生まれるものではありません。設計、CAE解析、積層造形、熱処理、切削加工、仕上げ、量産評価までを一つのプロセスチェーンとして最適化して初めて、お客様へ価値を提供できます。AMとは、単なる新しい加工法ではなく「ものづくり全体を最適化する技術」なのです。

生産性のボトルネックが「金型」から「ダイカストマシン」へ
司会: 続いて、ユーザー企業の立場から佐藤さんの見解をお聞かせください。
佐藤: 松原さんが重要なポイントをすべて語ってくれました(笑)。当社では、すでに1,300個以上のAM入れ子を実際のダイカスト金型に採用した実績があります。最も分かりやすいのは冷却効果による焼き付きの減少で、金型の磨き作業時間を98%削減できました。しかし、これはあくまで改善領域に過ぎないと考えています。
「ダイカスト」と呼ばれる通り「ダイ(金型)」が重要である一方、従来の生産性向上における最大のネックも金型でした。充填されたアルミ溶湯を固める時間や、次ショットのための離型剤の塗布時間、その離型剤の残りを掃うエアブローなど、金型の制約によって生産性が縛られていたのです。しかも、金型はさまざまな制約から思った通りに作れないのが常識でした。それを根本から変えられるのがAMです。 AM入れ子の採用により、生産性が12%向上したものや、離型剤の塗布工程を約20%短縮できたものもあります。現在は金型ではなくダイカストマシン側が次のネックになっているほどです。これは生産性向上のボトルネックが「金型ネック」から「マシンネック」へ移行したことを意味します。ダイカストマシンへ適切に投資すれば生産性の倍増は可能ですし、そうなればダイカストの世界が変わります。そのためにもAMはなくてはならない工法だと考えています。

装置メーカーから見たAM装置の開発と市場動向
司会: 圷社長には、機械メーカーの視点からAM事業に参入した経緯や市場の動向について教えてください。
圷: 当社は工作機械メーカーとして放電加工機や射出成形機を開発してきた歴史から、金型業界とともに成長してきました。AM開発は「多品種少量生産でAMを活用できないか」と相談を受けたのがきっかけです。当時高速マシニングセンタ(MC)を開発していたため、AMで造形し、機内で切削仕上げまで一貫してできるAM装置を作ろうと決め、2014年に「OPM250」を開発・発表しました。
こうした経緯もあり、実際の導入先は金型メーカーが多いのですが、装置が高額なこともあり、国内企業へはまだ広く浸透していないのが実情です。一方、北米では投資力のある試作金型メーカーなどを中心に導入が進んでいます。
司会: 貴社は中国市場でも強いプレゼンスをお持ちですが、中国での状況はいかがでしょうか。
圷: OPMには高速MC機能が含まれているため輸出規制の対象となっており、中華圏での普及はあまり進んでいないのが実情です。したがって金属AMの採用は北米が多く、次いで日本やASEANの一部地域となっています。
司会: 貴社には造形と切削を組み合わせたハイブリッド機「OPMシリーズ」と、造形がメインの「LPMシリーズ」がありますが、住み分けについて教えてください。
圷: OPMはプラスチック金型での採用が多いですね。プラスチック金型は比較的造形後の熱処理が不要なことが多いため、1台で造形から機内切削仕上げまで完結できるメリットがあります。アメリカでは「これまで海外に出していた仕事を内製化したい」というニーズで選ばれています。
一方、LPMはダイカスト金型向けが多いです。基準面を出す切削機能は備えていますが、基本は造形をメインとし、別工程で熱処理後に、仕上げ加工を行うパターンが一般的です。ただ、小さな金型であれば熱処理後の寸法変化も許容内に収まるため、OPMを量産用金型に適用するケースもあります。お客様にはそれぞれの特性を見極めながら使い分けていただいています。実際にさまざまな現場で使われており、リピート注文もいただいています。
熱交換機能の自由度と、未知の物性値が生み出す可能性
司会: 学術的な視点から、王先生はAM入れ子の重要性をどのように捉えていらっしゃいますか。
王: AMが金型で重宝される一番の理由は「熱交換機能の自由度」です。超薄肉や肉厚部品、大型部品などのニーズが広がる中、熱交換機能の重要度が増しています。熱交換の自由度が造形可否に直結するため、日本でAM金型が本格普及する転換点は「大型構造部品」や「ギガキャストの国産化」が進むフェーズではないかと思っています。ただし、熱交換の高さはAMの一つの側面でしかありません。
司会: と言いますと、どのような点でしょうか。
王: これまで存在しなかったミクロ組織や材料を作り出せる点です。超微細な結晶粒や超飽和固溶体といった、相反する特性を両立させる「傾斜機能材料(ステンレス+インコネル、鉄+銅など)」を造形・組成できることが注目されています。こうした材料特性を得られることと、自由な造形力を活かし、製品設計を根本から作り替えていくことが重要だと思います。製品本来のあるべき姿で設計し、造形上の制約を取り払うことができれば、従来の金型では作れなかった製品が生まれ、市場全体が拡大すると思います。
佐藤: 従来の製品設計要件には、必ず「鋳造上の制約(Rの大きさや勾配など)」が入り込んでいました。AMによってそうした制約を排除できれば、製品価値をさらに高められます。また、内部構造を工夫することで熱膨張率を変えたり、DED方式(指向性エネルギー堆積法)などを活用して部分的に熱伝達の異なる材料をコーティングしたりする取り組みも面白いと思います。そのためには、制約を成立させるための従来の設計手法ではなく、ゼロから設計し直す発想が必要です。
松原: AMにはそうした多彩な可能性があり、現在取り組んでいる冷却水管の最適化などは、AM活用における「入口の一つ」に過ぎないと感じます。
王: 佐藤さんが言われたように、「自由に加工できない」、「自由に熱交換できない」という設計思想を作り直す必要ありますね。今あるダイカストが「こうだから」ではなく、AMのよさをフルに使い、金型の熱交換をキチンとデザインし、製品のありようを考えることが必要だと思います。
かつて鍛造プレスの分野でも、1990年代に「プレス後の機械加工を無くし、プレス工程のみで完結させる」という技術革新が起き、20年経った今では高い国際競争力を持つ分野に成長しました。自動車産業の未来が不透明な今だからこそ、ダイカストでもAMの良さをフルに活かし、高難度な領域にいち早く挑戦する必要があります。従来のサプライチェーンの延長線上にとどまっていては、AMの本当の価値は活かせません。

Part 2:参入の障壁となるものは
経営層の「不安」と「コスト問題」
司会: 技術的な革新性があることは分かりました。しかし、なぜ導入が爆発的に進まないのでしょうか。参入障壁について教えてください。
佐藤: 根底にあるのは企業側の「不安」だと思います。「本当に儲かるのか」、「いつ壊れるか分からない」という不安があるため、導入に踏み切れないのだと思います。
松原: 装置や材料の高コストも要因ですが、最大の障壁は「経営層が安心して判断できる材料(根拠)が不足していること」だと思います。部下から「3Dプリンタを導入したい」と相談されても、今は「いいね」と即答できません。「品質保証は?」、「投資回収の根拠は?」と言う言葉が出てきます。結果として、技術的な問題ではなく「判断材料の不足」によって導入が見送られているのが現状です。
問題の根本は、客観的な評価基準、実証データ、品質保証が存在していない点にあります。経営層が自信を持って「これなら大丈夫」と意思決定できる共通言語としての品質規格が必要です。ただし規格は技術を縛るものではなく、比較可能なデータや知見を蓄積し、投資判断の確実性を高めるためのインフラであるべきだと思いますね。
佐藤: 品質保証に加え、装置や粉末材料が高価である点もやはり課題です。圷社長、装置メーカーの視点からはどうお考えですか。
PBF、DED療法式の装置をグループで展開
圷:現在は高価ですが、将来的に装置の出荷台数が着実に増加していけば、1台あたりのコストを引き下げることはできると考えています。また、当社ではPBF方式(粉末床溶融結合)だけでなく、昨年子会社化したイタリアで金属AMの開発・製造を手掛けるAltForm社の知見を活かし、DED方式を用いたブレーキパッドのコーティング技術などを欧州で展開しています。
松原: 装置は減価償却できるのでまだ良いのですが、より深刻なのはランニングコストに直結する「材料価格」です。多段で複雑な商流や日本の商習慣そのものを見直していかないと、前へ進まないと感じています。
既存技術の強さと挑戦心が課題
司会: 王先生は、導入が進まない要因をどのように分析されていますか。
王: 国内では、AM金型が「量産の標準技術」としてまだ位置付けられていないのが実態だと思います。品質規格の不在や価格問題に加え、「従来の金型技術が強すぎる」ことも要因の一つだと思います。日本は金型設計やメンテナンスのレベルが高いため、既存技術で多くの課題を解決できてしまいます。そのために「改善率20%のために2倍のコストを払うのか」という判断になりやすいのだと思います。
しかし、単に安く調達することだけに固執せず、一歩先を見据えて中長期的な国際競争力を維持・育成していくチャレンジ精神が、発注側を含めた業界全体に求められていると思います。

Part 3:AM金型の品質保証・規格確立へ
日本発の品質規格作りと国際標準への展開
司会: こうした課題を打破するため、G-ICAMのコンソーシアムでは「AM金型の品質規格の確立」を掲げました。その経緯をお聞かせください。
王: そもそもの動機は「国内のものづくりを元気にしたい」という思いです。金型研究を20年続けてきた岐阜大学が、業界の皆さんが最も夢を見られる領域は何かと考えたとき、たどり着いたのがAMでした。3年ほど前からAMの研究を始めています。ただ、各社が個別に保有しているノウハウやデータはあっても、共通の土台(データ)がないため業界で議論できていませんでした。「同じ図面、同じ製作条件なら、同じ性能が担保される」という標準化の土壌を作ることがスタートだと考えています。
司会: 現在、世界的にAM金型の規格は存在するのでしょうか。
王: AM技術に関する一般規格や航空や宇宙などの特定利用分野での整備は進んでいますが、AM金型自体を包括的に定義する規格は世界を見渡しても存在していないと思います。例えばAMSC(Additive Manufacturing Standardization Collaborative)という団体では、積層造形技術の標準化を推進していますが、AMユーザー業界として金型はありません。コンソーシアムの目的の一つは、先行する国際規格を参照しつつ、AMユーザー業界として「金型」を正式に加えさせることです。
松原: 日本のJIS規格でも、金型がありません。鋼材であれば「この材料特性がJISで担保されているからダイカスト金型に採用する」というロジックが成り立ちます。しかし粉末材料やAM金型ではそれができません。「最適な熱処理条件」や「許容される面粗度の基準」などを明確にし、経営層が自信を持って「GO」を出せる客観的指標を作りたいと思います。
司会:しかし、海外企業では独自の規定を持つユーザーもあると聞きました。
松原:確かに、海外の大手企業では、特定の装置・粉末・プロセスを厳格に指定した独自の社内規定を持つ例もあります。具体的には、「この部品なら、この粉末材料を使って、この装置造形してください」という規格です。これは悪いことではありません。規格という判断根拠があるからこそ、「この機械特性を満たせば採用できる」というフェアな議論が可能になります。ただ、我々は一企業の囲い込みではなく、日本発でオープンかつ公平な公的規格を作りたいと考えています。
佐藤: AMの強みはデジタルデータが取得・蓄積できる点にあります。そして、データがあれば、さまざまな判断根拠を明確にできます。例えば、当社でも多様な材料や装置を検証してきましたが、理想的な物性値を持つ材料であっても金型寿命が想定より短くなるケースがあります。これは従来の評価基準だけでは金型に必要な物性値を測りきれていないことを示しています。コンソーシアムには、材料・装置・ユーザー・検証機関が揃っている強みを活かし、検証試験を開発してもいいと思います。そして、判断根拠が明確にあることは既存技術にとっても意味のあることだと思います。
松原:そうですね。例えば、今も機械や装置、材料メーカーは色んな基準を持っていて、提案してきてくれます。しかし、我々は特性を知りたいのではなく、「この部品を作りたい」わけです。「材料の組成は間違っていない」、「熱処理に問題がある」なんて議論は求めていません。判断根拠が明確であれば、装置メーカーも材料メーカーも開発目標が明確になり、開発しやすくなるのではないでしょうか。

2027年度の成果物発表と規格化へのロードマップ
司会: 今後のスケジュールや具体的な目標について教えてください。
王: 2027年度中には、日本産業規格(JIS)の原案づくり・規格提出につながるような成果物を発表したいと思います。コンソーシアムの発足以降、参画企業からAM金型の提供を受け、欠陥や冷却工程における分析を進めています。そこでは、冷却の工程に共通の課題があることが分かりました。その工程に問題があるのは以前から分かっていたのですが、共通の土台で議論できていませんでした。2027年度には「このような課題に対し、この標準試験方法で評価する」という具体的な案を提示したいと思います。
司会: JIS化やISO(国際標準化機構)への展開に向けた流れはいかがでしょうか。
王:いきなりISOを始めとする国際規格化はハードルが高いです。昨年スタートして、現状調査して、いくつかの課題が分かったというのが今の段階。分かったうえで標準試験に落とし込んで、何度か試験して、ようやく規格評価に手を挙げることができます。そこがJISへの第一歩です。2年先くらいにJISの原案作りに着手するくらいでしょうか?一方で、皆様の要望では「(AM金型の標準化は)経営者の判断ができるようにする」ことなので、先行している航空や宇宙などの国際規格なども参考にしながら、AM金型特有の事象(割れ・腐食・熱疲労など)を分析し、試験を同時に進めていく必要があります。
日本発「AMエコシステム」の構築を目指して
司会:規格化を進める上で、足りない要素はありますか?
佐藤:データがそろってくると、解析技術は必要になってくると思いますね。
圷:装置販売をしていると、「水管を最適設計したい」という要望も多いですね。ドイツでAI使った水管の最適設計ソフトなども出てきていますし、そうした技術も必要になってくるのではないでしょうか?
松原: 品質規格を作りにとどまらず、データを基にした、そうした新しい機能を持った製品やサービスが提供できればいいですね。私はこのコンソーシアムの本当の目的は、日本発の「AMエコシステム」を構築することだと思っています。共通の品質規格が整備され、評価方法が確立され、データが蓄積され、人材が育ち、企業が安心して投資し、ユーザーが安心して採用できること。その好循環を生み出して初めて、AMは本当の意味で産業として定着すると思っています。AMの課題は、もはや技術ではありません。社会実装を支える仕組みづくりです。日本が世界に先駆けてAM金型の品質規格を確立し、それを国際標準へ発展させることができれば、日本のものづくり全体の競争力向上にもつながると思っています。

金型しんぶん2026年9月10日号
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