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【金型テクノラボ】金沢大学設計製造技術研究所 金属3Dプリンタによる離型剤浸透金型の製作

金属3Dプリンタを用いた金型製作は、冷却水管の自由設計や複合工作機械による製造工程の短縮など、航空宇宙や医療と並ぶ3Dプリンタの特長が活かせる有力な分野だ。本稿では、3Dプリンタによる微細穴の造形技術を応用し、内部から離型剤が浸透する高機能金型の製作技術について解説する。

AMの特長活かせる金型製作

3Dプリンタと呼称されることが多い付加製造法(Additive Manufacturing:AM)は、素材から切りくずを排出しながら立体形状を創成する除去加工とは対極的な加工法。金属材料を用いたAM技術の発展によって、実用部品の製作が各分野で進んでいる。

その主要な適用先の一つが金型製作だ。冷却水管の自由設計、複合加工機を用いた放電加工工程の削減、通気性構造体を用いたエアベント機構の付与など、AM工程に由来する多くの特長を生かすことができる。

一方で、金属AMは、材料の形態(粉末、線材)や供給方法、熱源(レーザ、アーク放電)などによって複数の手法に分類されており、形状やサイズ、成形材、補修など、金型製作へ適用する目的・用途によって適切な手法を選択しなければならない。

離型剤を金型内部から浸透

金属AMの一つである粉末床溶融結合法 (Powder Bed Fusion:PBF)では、造形条件を変更することで粉末の溶融・凝固の様相を変えることができる。造形条件による造形物表面の違いを比較した結果を図1に示す。粉末へ投入される熱量が多い場合、粉末は完全に溶融・凝固して密度が大きい造形物が得られ、熱量が少ないと粉末の一部が溶融し、粉末間に存在した空隙が残存することで微細穴が形成される。

このしきい値は材料や熱源によって変化するが、適切な条件を用いることで一部に微細穴を配置させた金型を同一工程で製作できる。微細穴が得られるPBF法ならではの特長を活かし、離型剤を内部から浸透させる金型製作技術の確立に向けて、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(2018~20年度:七宝金型工業、金沢大学、岐阜大学)の助成を受けて研究開発を行ってきた。

微細穴を得られる条件で造形

金型入れ子に組み込む離型剤供給路の概念図を図2に示す。離型剤の供給路は冷却水管とは別に設け、離型剤を浸透させる金型面と供給路の間は連続した微細穴が得られる条件で造形を行った。微細穴構造体に通気性があること、供給路の形成による金型面の強度低下がないこと、微細穴部位に対して成形時に溶湯材料が差し込まないことを技術課題とした。

こうした各課題を検討し、図3に示すように離型剤の塗布が求められる入れ子上面と側面に曲線状の離型剤供給路を配置させた。金型内部には、自由形状の冷却水管も配置している。

図4は、造形した入れ子表面から離型剤が浸透する様子を観察した結果。浸透させたい部位に適量の離型剤を供給する離型剤圧送装置の開発も行い、上面と側面に設けた微細穴部から離型剤が供給され、スプレーによる離型剤塗布の工程が削減できる可能性を見出した。

不良率低減、サイクルタイム短縮などの効果

この入れ子を組み入れた金型で鋳造した結果、離型剤浸透機構の付与に起因した成形不良がなく、金型面の微細穴部に溶湯の差し込みがなくなった。内部から離型剤を浸透させる金型は、離型剤の塗布機能を改善することに加え、鋳造時の金型温度の制御性を向上させることも可能になる。そのため、製品不良率の低減、サイクルタイムの短縮、離型剤の使用量削減などの効果も期待できる。

現状では、100ショット程度まで連続的に鋳造しても金型に不具合が生じないことを確認している。離型剤浸透金型の社会実装に向け、耐久性や微細穴の高精度管理など残された課題解決に向けて引き続き研究開発を継続していく。

金沢大学 設計製造技術研究所

  • 古本 達明(Furumoto Tatsuaki)教授
  • 石川県金沢市角間町
  • TEL:076-234-4723

記者の

AM技術が金型製作に適用され始めて久しい。特に冷却水管のレイアウトを自由に配置する金型製作の事例は、様々なメーカーで採用され、多くの実績を重ねている。今回の離型剤浸透金型は、これまでにない新たなAM技術の活用方法として注目度も高い。社会実装に向けた今後の開発動向を注視したい。(平)

金型新聞 2021年6月10日

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