DXの本質は利益を生み出すことにある。以降では、DXによって「売上げを上げて利益を生み出す」方法と「コストを下げて利益を生み出す」企業のそれぞれの取り組みを取材した。 CAEの活用、データ作成の効率化 自動車用プレス金型…
金型メーカー新春座談会(第2部)
5氏が語る〜中核人材どう育てる〜
第1部では、必要な人材像や育成について方法について議論してもらい「顧客の要望に合わせて柔軟に考えられる人」、「社長を補佐する中核的人材」などが求められていることがわかった。一方、育成では「外部からの刺激」や「任せて、考え、実行させる」ことなどが重要との指摘が出た。第2部では、各社の具体的な育成への取り組みや、日本金型工業会が始めた「金型マスター認定制度」の狙い、将来必要になる能力などをテーマに議論してもらった。
若いうちにイズム伝える
小田 さらに深くお聞きしていきたいのですが、理想的な中核的人材の育成プロセスには、営業を経験し、設計や開発もして、現場の3つを一人が経験していかないと難しい側面があります。そういう人の育成や仕組みはどうでしょう。
山岡 難しいですね。スーパーマンのような人材ですからね。でも中にそんな人材もいるのです。聞いただけで、設計の構想がひらめいて、コストも算出できる。これはもう本人の考え方や素質ですね。会社としてできることはそうした人に対してきちんと評価を与えることだと思っています。
小田 素質もあるのでしょうけれど、育て方の工夫はありますか。
山岡 各自に課題を与え続けることでしょうか。「マンパワーアップ活動」と呼んでいるのですが、社員の意向も聞いたうえで、会社としては君に求めたいのはこういうことだと伝えています。そして「これに取り組みます」と宣言してもらっています。重要なのは期待を伝えること、そして評価をすることだと思います。それを年度終わりに報告を聞いて、優秀な取組みは発表させたりしています。
小田 話は戻るのですが、井越さんから中核的人材になるために、後任が必要という意見もありました。社長のお二人は中核的人材の後任となるべき人の確保や育成はどう工夫していますか。
小出 難しいですね。例えば、1.7人分あればいいですが、1.2人分の仕事しかないのに、2人を付けるわけにはいかない。能力のある人間を探しながら、一気に挿げ替えるしかないのではないでしょうか。そうした人材を育てるために、フレキシブルな組織を目指しています。山岡さんも言われていましたが、当社でも、明日はこちらのチーム、明後日は違うチームに参加して仕事をしているように、フレキシブルにしたいと思っています。
小田 うまくいっていますか。
小出 中々うまくできていないですね(笑)。まず、課長同志でのやり取りがスムーズに行っていない。難しい環境なのは分かるけれど、スキルのない人間でも、ある程度まで使えるようにして欲しいと思う。井越さんも言われていましたが、仲は良くても仕事を厳しく教えられる上司がいなくなっているのでしょうね。
小田 何かいい手立てはないでしょうか。
小出 部長や課長が部下に順位をつけて教育すべきじゃないかと思いますね。一人ずつ成長させていくしかない。そしてその一人を後任にしていく。違う部署でも「あいつを後継にしたい」として、精力的に言って欲しいですね。
小田 私どもの学校に会社から派遣されている人は4時半ぐらいに会社を離れる。そのため、自分がいなくなってもいいように、人を自分で育て仕組みを作ることが不可欠になっています。
井越 私がMOT取得のために日本工業大学に通ったときも、そうでした。当時、自分の中で後継者を決めて指導していましたが、戻ってきて他部署に取られちゃったんですよ(笑)。
分業化が技術の幅狭く
小出 先ほど小田先生が言われた理想的な中核的人材の育成には、営業を経験し、設計や開発もできて、現場を一人が経験していかないと難しいと言われましたが、分業化がそれをより難しくもしています。
小田 多くの現場では、生産性を高めるために分業化にかじを切りました。しかし、最近はものづくりが高度化するなかで、分業化で対応できる仕事がなくなってきている面もあります。
山岡 そうですよね。システマチックに分業化しすぎると、全体最適を理解できる人材が育たず、理想的なものづくりが難しくなってしまいます。当社ももっと配置転換をしたいんです。だから、将来的に課長以上を狙う人間は他部署を経験させ、中長期的に育てていくことが必要だと思いますが、なかなかできていないですね。
小田 50人ぐらいだと逆にできるのでしょうけど、一度システムが出来上がると難しい部分もありますよね。
山岡 思い切ってすることもありますけどね。私も井越さんのように、ある部署から人材を取ったことありますからね。
小田 分業化によって専門的なスキルは持っていても、他部署との連携や共通の価値観で人を動かすことを苦手とする人だと中核的人材には難しいんですよね。それを打破するには社長がトップダウンでやらないと難しいのではないでしょうか。
山岡 そうですね。本人の適性判断や個人面談もして、異動しやすい空気づくりは必要でしょうね。現場はグループ長が頻繁にミーティングしているなど、よくやってくれていると思います。
小田 中核的人材であって、さらに創造性を加えた人が必要になってくるのでしょうけれど、そうした人を育成しないと中長期的な仕組みづくりは本当に難しい。
小出 そうですね。各社それぞれの中で人を育てるのが難しくなっていることも、日本金型工業会が「金型マスター制度」を始めた理由の一つなんです。小川さんが言われたように、自社だけだと、どうしてもフィルターがかかってしまう。自社の社長や上司にあれこれ言われても「なんだ」と思うことでも他社の人から同じことを指摘されれば「これって正しいことなのかもしれない」と思うようになる。マスター制度では同じような立場の人が集まって話すわけじゃないですか。だからなおさらそうした外部の目線で何かの気づきになればいい。
金型マスター精度<br>外部の意見知る場
小田 今年は二期目にはいるんですよね。
小出 そうです。二期生の募集をしますが、まずは一期生に二期生に対して色々語ってもらうようにする予定です。人に何かを教えること、人前で自分の意見を言って、理解してもらうことは大変です。そうしたこともしながら伸びてもらう。業界全体で人材育成ができて、優秀な人材が残る業界にしていかないと未来は厳しくなります。
小田 マスター制度が出ましたが、金型工業会の良さってどういうことだと思いますか。
小出 色々あります。例えば社長のお手本はなかなかいないですよね。けれど工業会には、規模や型種、地域など環境が異なる中でうまく運営している経営者がたくさんいるわけです。色んな企業がいて、悩みがあって、努力している。私も目からうろこの話が聞けたことがたくさんある。そんな話が結びついて、ある瞬間に将来の手を打てることもある。
小田 何か印象に残っている話はありますか。
小出 資金繰りに窮したある経営者の話も一つです。メーンバンクもお金を貸さないというような状況で、その経営者は何をしたか。日本中の銀行や信用金庫に自筆で手紙を書いたそうです。集まったのが3億円。これでつぶれないとがんばれたそうです。こんな話は、会社の中や学校だけでは聞くことができない。
小川 マスター制度でも同じような刺激をもらいました。
小出 そう。外に出て中核的人材同士で会話すると、規模や環境によっては自らと真逆の考え方もあるかもしれない。でも「それが成り立っているのはなぜか」と考えることができれば、自分の力になる。ものを考え続ける環境は絶対に残さなければならない。
自信、達成感、気づきを与える
井越 私も本当にそう思います。MOTに行って良かったのは、社内だけでは聞けないような話が聞けたことです。同級生でも業界が違ってポストも立場も違う。そんな人同士が、ああでもないこうでもないと議論できたのがよかった。外に出ることは、いろんな話が聞けることでもあるし、外を知らないと社内だけの効率や数字に偏ることも少なくないですから。
小出 金型業界に限らないですが、人で躓いたらその業界はもう終わりです。
小田 色々議論してきましたが、社長の最大の役割は今後の戦略を考えることと、人材育成だと思います。また「鉄は熱いうちに打て」と言いますが、若いうちにDNAとか会社の哲学などを教え込むことも大切です。ただ、それができるのは30代までで、それまでに社長イズムを伝える必要があると思います。
小出 もちろん、それは重要です。ただ、感性とかカタチのないものを伝えるには聞く耳を持っている素質のある人でないと伝えづらいですよね。今の時代は、社長だけの発想だけでは難しいとも思う。これからどうあるべきかをみんなそれぞれが、真剣にわが事として、考えないとダメだと思うんです。20代はまだそこを考えるまでの能力が備わっていない。だけど30代、40代の人たちが20年後本当にどうするんだと考えられる環境を我々は作ってあげなくてはならない。考えさせる、やらせる。失敗してもいい。それが大事だと思います。
山岡 20年後のことを本気で考えてくれる人が何人いるかで会社は変わっていくのだと思う。社長だけが考えても足りないし、多くのアンテナが立っていたほうがいいに決まっています。
小田 山岡さんはそうした自らの思いをどう伝えていますか。
山岡 こんな会社にしたいというビジョンを語っています。君にはこれを期待していると伝える。小出社長も言うように素質の部分が大きいのは間違いないですが、途中で目覚める人もいます。自信と達成感ですかね。そこに気づきがあって、行動や言動が変わってくる。達成感を得られるように会社としても課題を与え、自信を持たせ、気づきも増やすことですね。
小田 逆に中核的人材となるお二人に、社長にどういう風にしてもらえればやりやすいか教えてください。
小川 社長からの教育は満足しています。任せてくれますし、困ったときは助けてくれる。ただ社長の言葉の解釈にズレが生じ、教育にバラつきが起きていることは改善していきたいですね。
小田 例えばどのようなことですか。
小川 社長は「担当者に任せなさい」とよく言います。私はそれを「任せるのは丸投げして面倒を見なくなるのではなく、しっかり見てやるんだ」と理解しているのですが、その辺の認識が人によって異なることもある。だから、管理職以上の階層で情報や認識のズレが起きないよう、必要なコミュニケーションを身に付けるための研修と相互理解がもっと必要だと感じています。また、同じ研修を受けているのに、伝わる人と伝わらない人がいます。どういう研修をするかより、先ほど素質と言われましたが、本人が気づくかどうかが大きい気がします。
小田 そうなると、社長が公平な目線で中核的人材を育成するというよりも、きわめて不平等的にしたほうがいいこともある。平等のなかでは知らないうちに並みになっちゃうというか、輝きを無くすこともある。だから、不平等な人事であってもいいと思う。井越さんはいかがですか。
井越 山岡社長が言われたように、「お前が何をやりたいんだ」と聞かれてその道を開いてくれるとやりやすいですね。半年ぐらい前から新規の営業先に対して進めている、プロジェクトがあるのですが、「井越をマネージャーとして進める」と言われたのですが、そういう時に全社の朝礼で言ってくれたので動きやすかったですね。
小田 中核的人材は組織の段階を追って育つということもあるし、抜擢人事のケースもある。その時には周りの人間が協力してもらえる空気は必要なんでしょうね。みなさん理解し合って、合意形成する場づくりも社長がしないとダメですね。
井越 中核的人材に抜擢された人はコミュニケーション能力があって人望も必要だと思います。今後マネージャーとなっていく人はその部分が不可欠なんだと思いますね。他部署の部下からも人望をうまく集めなきゃいけない。
小田 最後に各自にお聞きします。技術寄りの視点でお答えいただきたいのですが、今後の金型技術者に必要なスキルは何だと思いますか。
井越 先ほども少し言いましたが、自社が持つコア技術の原理原則を理解したうえで、それを承継し発展させられることだと思います。暗黙知を形式知化することも大切だとよく言われますが、アナログとデジタルの融合のバランスも重要だと思いますね。ものづくりでは、不便なことからの発見も少なくないので、いたずらにデジタル化やデータ化をすすめることで技術力が停滞することもあり得ますから。
小川 まずは金型づくりに必要な加工、製品を製造する射出成形の本質を理解することだと思います。そして、結果を予測することと、逆に結果から原因、要因を推測する分析力、どちらからのアプローチでもプロセス全体を把握する能力が必要だと考えています。これが応用力や全体最適に繋がると思います。加えて、そのプロセスの根拠を示すのにデータが必要になってくると思います。上司が言ったからというのは通用しなくなってきているので、データに基づき客観的に納得させられるプレゼン力のようなものも重要ではないでしょうか。
小出 設備の営繕や様々な豊富な発想を持っていてプログラムに置き換えられるソフト開発力も必要でしょう。これまでは鉄を削ることが大きな仕事でしたが、機械は日々進化するし、将来はAIによって、設計は7割程度いらなくなると思う。機械を健全な状態で維持させておけるかとか、工程間の無駄をどうすればなくせるかとか、それを発想して、構築できる能力が必要になると思う。
小田 山岡さんところはそれに近いですね。自動機、金型を使ったプレス機で量産もしている。
山岡 型屋とプレス屋は下手をすれば喧嘩になることが多いじゃないですか。当社は製品図面を頂いたらシステムで納入できることが強みです。お客様も生産技術の人が少なくなっており、仕様書を渡されれば、丸投げで対応できる生産技術がより求められるのではないでしょうか。
小出 金型は本来、量産の道具なので、金型だけ作っていては意味がない。精度良く削れてもそれはいい金型ではない。製品を求められる形状に安くきちんと早く作れることが金型の本来の機能で、それを追求していかなくてはならない。
小田 今までしていたのではないですか。
小出 それはこれまではお客さんが追求していたんです。それを山岡さんが言われるように、お客さんがその能力が少なくなってきたのでその部分が金型メーカーに求められるようになってきた。例えば金型にセンサーを付けて不良が出始めた時に生産をストップさせて、不良をより少なくするなどの金型を作り出すようにしなくてならない。
小田 そうなると金型メーカーだけでなく、機械メーカーとの連携も重要になりますね。
小出 例えば、ホールデグスカンパニーの下に、成形メーカーと金型メーカーがぶら下がっている形にするなど、これから業界の変遷はありえます。これからの金型業界は旧態依然のやり方ではだめで、組織も、人も、仕組みも変えていかなくてはならない時代だと思います。
小田 経営者が社長としての活動を行うためには、現場の開発、営業、製造などをマネジメントできる中核的人材が必要になり、さらに中核的人材を支える現場人材も必要になるといった「人材の玉突き状態」をいかに脱するかが課題となってきます。こうした状況を克服できる人材の確保・育成をどうすべきかの方向性が見えてきました。
金型新聞2019年02月10日号
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