日本金型工業会の会長など歴任 日本金型工業会や国際金型協会(ISTMA)、アジア金型工業会協議会(FADMA)の会長などを務め、日本のみならず世界の金型産業の発展に貢献し続けた黒田彰一氏(黒田精工最高顧問)が9月30日…
次世代車で変わる型作り
冨山 隆アライアンス・グローバルダイレクターに聞く
厳しくなる世界各国の燃費規制に対応するため電気自動車(EV)を始めとする、次世代自動車の浸透スピードは加速している。加えて、自動運転も次世代技術として注目を集めている。こうした自動車の変化は金型にどう影響するのか。電動化で「車体、バッテリー、モータの3つが重要な要素になる」と話す、日産自動車の冨山隆アライアンス・グローバルダイレクターに、電動化や自動運転で金型がどう変わるのか、金型メーカーに必要なことなどを聞いた。
1985年日産自動車入社、99年車両生産技術本部プレス技術部型設計課主担、2004年同本部プレス技術部主管、12年日産自動車九州工務部部長、15年タイ日産自動車出向、17年現職。
マルチ素材の車体が主流に
金型に関係が大きい車体の動向から教えていただけませんか?
電動化に伴いバッテリー重量が重くなり、車両重量が重くなる中、航続距離を延ばすには車体の軽量化は不可欠になっている。欧州ではオールアルミや、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ボディーの車もあるが、大衆車として販売するには高すぎる。また、コスト面だけでなく、単純に軽くすればいいわけではない。構造部には強度が必要だし、ハイテン材、アルミ、ホットプレス、CFRPなど部位ごとに最適な素材を配置するマルチマテリアルボディが今後主流になるだろう。
どんな素材が増えていくのでしょうか?
コストが下がればアルミ使用量はもっと増えると思う。しかし、技術の進化によってどうなるかは断言できない。また、金型に直接関係ないが、マルチマテリアル化に伴い、接合技術の果たす役割も大きい。エンジニアはどこにどんな素材を使いたいかは、頭にある。しかし、接合が制約になっていることも少なくない。どんな素材が増えるにせよ、それを実現させるための投資が莫大になるので、金型メーカー1社で全ての技術をカバーするのは難しいと言わざるを得ない。技術動向を見極めつつ、ハイテン、アルミなど金型メーカー各社が専門性を持っていくことが必要と考える。
モータやバッテリー要求性のからくる金型の変化は?
モータで使われるコイルなど構成部品の精度が安定しなければエネルギー消費に不効率が生じる。これまで以上に高い精度で部品のバラつきを減らす精密な金型が必要になると思う。バッテリーでは、まだ確立されていないが、全個体電池が主流になっていっていくだろう。液状バッテリーに対して大容量のエネルギーの実現、配置も自由になりデザインへの柔軟性も高まるからだ。
自動運転も注目されるが、そこで要求される金型技術は?
自動運転に必要な多くのセンサやレンズを配置させるための新たな金型技術が増えるのは間違いない。いかにセンサやレンズを目立たなくさせ、デザインを活かすか。レーザーを透過させる薄肉成形や、ガラスや樹脂にレンズを埋め込むなどの技術も必要になってくるだろう。
「金型の履歴書」必要 知見提供する力
電動化、自動運転で金型も変わりそうですが、どんな技術が必要になっていくのでしょうか?
プレスでは一発OKの金型がずっと求められてきた。これは今後も変わらない。ただそれを実現するための技術は変わる。かつては匠と言われる職人が技能で対応していた。最近では解析技術が発達し、成形結果との相関を見極めながら金型づくりを進めている。しかし、それでもやり直し工数はゼロにはなっていない。今後は、成形品に対してだけではなく、金型の作り方まで含めた部分の解析が必要になると思う。
具体的に教えて欲しいのですが?
現状では金型づくりの過程が解析結果にどう影響しているのかなど、全く分からない部分が存在している。カッターパスをどう出して、どう仕上げたのか。工程の一つ一つが解析にどう影響しているのかという分析まで必要になる。エンジニアが意図した金型づくりの規格を定義し、それ通りに作成工程にて作られているのか、そこまで追求し、シミュレーションとの相関精度を高めていく必要があると考える。
金型メーカーに求めることは?
解析に加えて、トレーサビリティがキーワードだと思う。この部品や金型がどういう素性なのか。図面情報だけでなく、先に言った解析とも関連するが、作り方まで含めた「金型の履歴書」のようなものが将来は必要になると思う。自動車メーカーとしては、安全性能を保証する意味と同様に、金型づくりでもそうしたデータは重要になると思う。
どういうことでしょうか?
例えば莫大な加工や金型のキーとなる情報のビッグデータを人工知能(AI)で解析すれば、金型づくりの最適化や精度向上に役立つはずだ。一方で、解析したデータをもとに、それをブラッシュアップしたり、他の金型に展開したりする技術とコラボできる職人の育成も必要だ。このようなデータや知見を提供できる金型メーカーは今後強くなれると思う。こうした情報やデータは知的財産でもあるので、それ自体でビジネス展開も可能になるのではないか。
金型しんぶん 2019年6月7日
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