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APRIL

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新春金型メーカー座談会
〜女性の活躍を考える〜

 製造業において、人手不足は深刻な問題となっている。困難な採用環境、熟練者の高齢化などに加え、働き方改革関連法の完全施行もあり、金型メーカー各社も対応に苦慮している。特に人手不足への対応は、生産性の向上はもとより、女性の参加やシニア世代の活用、海外人材の採用など様々な取り組みをしている。そこで今回は、“女性の活躍”にスポットを当てて議論して頂いた。以前から女性の活躍は注目されているものの、金型の製造現場で活躍する女性はまだまだ少ないのが実情だ。それは何故なのか、対応すべき課題は、などを多様な視点から意見交換し、女性活躍による効果まで語って頂いた。

出席者

伊吹機械 伊吹 宏一社長
 事業の80%がプレス金型、20%がプレス金型組込産業機械。プレス金型はこの20年で自動車関連の仕事が大幅に増え、70%を占める。残りは住宅や建設機械、スチール家具などの金型。主力はトランスファープレスで1000トンクラス、順送プレスで800トンクラスまで。本社は滋賀県長浜市。社員数18人うち女性社員1人。

福井精機工業 清水 一蔵社長
 プラスチック用金型メーカー。主力はベアリングの球を保持する部品「樹脂リテーナー」の金型。40年来手掛け、事業の50%を占めるほか、自動車のハンドル操作をアシストするパワーステアリング向け部品では世界で走る車の4台に1台は同社の金型。社内生産の半分は製品開発に関わるもので、金型、試作、量産立ち上げに携わる。本社は大阪市大正区。社員数は38人、うち女性5人。

ヤマナカゴーキン 山中 雅仁社長
 冷間鍛造金型メーカー。そのうち90%が自動車向け。海外では冷間鍛造部品の成形も。米国で開発された鍛造や切削などのCAE解析ソフトは約80%のシェアを持つ。近ごろは、ドイツで開発されたIoTに用いるセンシング・システムも販売している。製造拠点は大阪府東大阪市(本社)と千葉、広島、中国(2カ所)、タイ。社員数は国内230人のうち女性社員は40人。

MACHICOCO 戸屋 加代社長
 家業のプレス金型製造メーカーにて現場や営業兼現場責任者ほか、WEBやSNSを活用した情報発信や新技術の開発に携わる。18年に同社を立ち上げ、製造業の情報発信サービス「モノオト」や、旋盤や溶接など製造業の実体験を軸とした事業を展開。製造業界との交流イベントである「TECH BAR」を主宰。本社は大阪府東大阪市、女性社員1人。

 

女性の魅力が輝く職場づくりを

 製造業において、人手不足は深刻な問題となっている。困難な採用環境、熟練者の高齢化などに加え、働き方改革関連法の完全施行もあり、金型メーカー各社も対応に苦慮している。特に人手不足への対応は、生産性の向上はもとより、女性の参加やシニア世代の活用、海外人材の採用など様々な取り組みをしている。そこで今回は、“女性の活躍”にスポットを当てて議論して頂いた。以前から女性の活躍は注目されているものの、金型の製造現場で活躍する女性はまだまだ少ないのが実情だ。それは何故なのか、対応すべき課題は、などを多様な視点から意見交換し、女性活躍による効果まで語って頂いた。

魅力を体験できる機会が必要

まずは各社の採用状況や取り組み等についてお聞きします。山中社長の会社HPや募集パンフレットには女性が多数紹介されています。

山中 当社は国内230人のうち女性は40人(25人は海外人材)です。本社のある東大阪市の加納工業団地は不便さもあり、求人には困っている状況です。そこで育休最長2年、短時間勤務は子供が小学校入学まで、残業の免除など制度を整えました。

かなり手厚いです。

山中 驚いたことに制度を整えると、男性が2カ月の育休を取りました。現場のキーパーソンです。また、社内結婚の中で1組に子供ができたのですが、女性の方が働いて、男性が時短することに。これも我々の世代にはなかったことです。また、普通科高校を卒業した女性が磨き工になりました。「爪が汚れるけど大丈夫?」と聞くと、「大丈夫」だと言うのです。

就業時間や仕事を助け合える環境

育休を取得されて、その抜けた部分は。

山中 そこはみんなでカバーすることになりました。多能工の育成にも力を入れていて、面白いことに1人抜けると、むしろ生産性が向上します。みんなでムダを分析し、投資せずに改善につながりました。

伊吹社長は。

伊吹 女性は1人、総務を担当してもらっています。やはり製造現場での募集をかけると、男性の応募が多いですね。男性、女性、国籍にこだわらず優秀な人材がほしいです。考えてみると、これまで採用した女性の中にも優秀な人が多かったと思います。でも、結婚や出産などライフイベントもあり、継続が難しかった。トイレや更衣室などは整備してきましたが、就業時間の調整や複数人で仕事のカバーをし合える等の働く環境を整えていけばもっと上手くいくのかなと思っています。総務の女性の方でも、やる気があれば、設計や営業アシスタントをやってもらおうと考えています。会社としても営業や設計部門を強化していきたいですので大きな力になってくれればと期待しています。過去に女性が現場にいたこともありますが、事務で入ったのちに、「こんな仕事もあるよ」って勧める感じですね。女性も向き不向きがあると思うので。

清水社長は。

清水 社内には女性が5人いて、今年2月からベトナムの女性が派遣社員として入社し、測定をやってもらおうと思っています。今の現場は男性だけなので女性が入れば華やかさが出るのではないかと感じています。ただ、現場には、正社員として応募して来ない現実もあります。

測定にした理由は。

清水 現場でマシニングセンタや研磨を教えてもすぐにはできないですが、測定だと仕事内容としては事務系に近く、女性にも向いているのかなと。女性だけで測定している会社もありますし。

海外の女性を受け入れる上で何か対応は。

清水 海外の女性だからどうということではないですが、人数が増えてきたのでトイレや更衣室を整えました。今後は子供やその他のテーマが出てくると思うので、男女関係なく、もっと働きやすい環境が必要です。実際、事務は多数応募が来ます。理由はサービス業に就いていた女性が不定休ではなく土日休みがほしいと。現場での応募はなかなかないですが、知り合いの金型メーカーには磨き工で女性が働いていて、以前は全く違う職業だったのが、かなり磨きにハマっていると聞きました。それを考えると、必要なのは製造業の体験フェアみたいな、きっかけ作りなのかと。

戸屋社長が開いておられる製造体験イベントには女性も参加しているようですね。

戸屋 当社の女性スタッフは、元大手人材総合サービス会社に勤めていた20代で、入社を決めた理由を聞くと、「面白そうだから」「やりがいがあるから」と言っていました。「楽しく仕事ができるか」「土日休みで自分の時間が作れるか」で就職先を決めているように感じています。「技術がある」といった部分より環境を重視していて、女性なら更衣室やトイレなど環境が選択肢の一つになっていますね。

清水 自分がその会社に入って楽しくしているイメージが沸くかどうかですね。

戸屋 そうですね。その方にも「ベンチャーだから、そんなに良い条件は出せない」とお伝えしたところ、「いいです。一緒に作っていきたい」と。一緒に仕事している中で承認要求を持っていると感じます。

清水 何かで読みましたが、30代以下はそれが強い。自分の存在価値を認めてもらいたいと。

戸屋 あまり褒める習慣がありませんでしたが、「あなたがやってくれたおかげでこうなったよ」っていう声掛けも必要だと思います。SNSがこれだけ利用される理由の一つが承認欲求なのかと思います。

女性に製造現場で働いてもらうには。

戸屋 私も23歳で初めて金型製造をやってその面白さを知りました。そうなると手が汚れようが、なんだろうが、「やりたい」に変わる。その面白さをどう伝えるかがキーだと思います。工場の仕事がどういうものか伝わっていないのが課題で、何かやりがいのある仕事に就きたいと思っている女性は潜在的に多いと思っています。

そうなると、伊吹社長のように一度事務からスタートして設計に興味が持てるようにするのも良い方法かもしれません。

伊吹 人によるとは思いますけど、のめり込む人はいると思います。

戸屋 知る機会を作るのが必要では。

清水 製造業全体の課題ですね。

戸屋 募集にも問題があって、作業する人を募集するのではなく、社長の夢や目的、目標に向かって一緒にやってくれる人を募集する。そうすると、一緒に夢をかなえる仲間になる。先ほどの山中社長の話も団結の話でした。

山中 チームですよね。あいつも頑張っているから俺も頑張る。

育休を皆で支え生産性が上がった

山中社長は育休が取れる社内環境をどのように作っているのですか。

山中 というより、おそらく総務の女性が「育休取ったらいい」と後押ししていると思います。「家族が大事だから」と。もし、上司が「取るな」って言ったら、「それは違うだろう」って僕も言いますが、やはり女性は男性とは感性が違います。

戸屋 思いを伝える環境ができているのが良いと思います。差別用語と捉えがちですが、生物学的に男性と女性ではどうしても同じにはならないところがあると思います。男性が気づきにくいことでも、女性は母性があるので、お世話できる気遣いがあるなど、それぞれの強み弱みがあると思います。

山中 僕らの世代は、夜遅くまで働くことが普通でしたが、今はダメだと思います。同じ工業団地のある会社で女性が社長になった。何が起こったかというと、工場の外観がキレイになり、土曜も休日になった。その会社、めちゃくちゃ調子が良いみたいなんです。

清水 それは時代だと思います。当社も来期の2月から年間休日を15日増やして126日にします。僕が入社した頃は96日しかなかった。テーマとは違いますが、10年後の業界は大きく変わっていると思います。若い子に聞くと、やっぱり休日がほしい。世間は3連休だけど、2連休とか月曜出社とか、金型メーカーにはよくあること。だから休日を増やして、休みと仕事のメリハリをつけたら、仕事も良くなり、品質も上がって、もっと儲かり、仕事が来るのでは。良い循環を作っていこうと考えています。

山中 連休明けの社員の顔が違いますね。モチベーションがすごく上がっている。

清水 休日が増えると若い子は普通に喜んでいるだけですけど、ベテランの人は大丈夫かと心配で、対応するために考え始めました。仕入れ先との調整など動きが変わってきています。

伊吹 いろいろ考えるきっかけになっていると思います。休日を増やした影響で売り上げが減ってしまっては駄目です。顧客と約束している納期もある。今より計画的に仕事が出来る体制にして生産性を上げていきたい。

山中 生産性向上にはタイムラグがあるので、今は我慢の時だと。

例えば、女性が増えるとどんな効果が。

戸屋 気づきは増えると思います。実際、女性はサポートする力があり、これは数値化できないですが、見えないところでバランスを取っていることがあります。しかし、女性ばかりだと、バランスが取れず製造業界とは逆で、女性が多い職業では、男性がほしいと思っているのではないでしょうか。バランスが大事だと思います。製造業の技術者は男性が多いので、女性が一人入るだけでも環境は変わると思います。普段喋らない職人さんも女性の方には丁寧に教えていると聞きます。

山中 もう1つの課題は託児所ですね。預けるところがない。本社のある加納工業団地は託児所もバスもなく働きづらい。そこで各社から少しずつお金を出し、また行政にも働きかけて、共同の託児所を作れればと考えています。女性にとっては安心だと思います。子供が熱を出してもすぐに行ける。でも今は預ける場所がない。あれば魅力ポイントになります。女性社員でなかなか復職できないのも預ける場所がないから。

戸屋 今でも待機児童の問題がありますね。0歳や1、2歳など年齢が低ければ低いほど入りにくくなります。私の子供の時も10名の募集に対し、90人の応募がありました。

山中 これが急所では。もっと改善できれば出生率もそうですが、女性進出は進むと思います。待機児童を減らせるように行政も考えてほしいと思います。

ありがとうございます。本日は女性活躍をテーマに話を進めてきました。ご出席頂き、ありがとうございました。

金型しんぶん 2020年1月10日

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