金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

30

新聞購読のお申込み

【鳥瞰蟻瞰】碌々産業社長・海藤満氏「優れた人材の発掘と育成が新たな世界の創出につながる」

重要なのは加工技術者

優れた人材の発掘・育成が、新たな世界の創出につながる

 いまや我々の日常生活に不可欠なものとなったスマートフォンや極小な電子機器。これらは微細加工技術があったからこそ生まれました。ミクロンやナノといった精度が求められる微細加工では、機械や工具の進化も重要ですが、何より大事なのは、それらを駆使する加工技術者の存在です。

 当社は微細加工を行うマシニングセンタを製造しています。「微細加工機のリーディングカンパニー」を目指し、高精度かつ高性能な機械を提供して微細金型や微細部品の加工に貢献しています。

 しかし近年は要求精度が高度化し、機械の性能だけでその要求に応えるのが難しくなってきました。「機械」に加え、ワークを削る「工具」、加工プログラムを作る「ソフトウエア」、加工現場の「環境」を適切に組み合わせないと質の高い微細加工はできません。そこで当社は、この4つを合わせた「四位一体(よんみいったい)」での提案に注力するようになりました。

 ただ、この取り組みを進めていくと、今度はこれらを組み合わせて操る加工技術者の重要性に気付きました。微細加工は卓越した技術力と並々ならぬこだわりを持った彼らがいて初めて可能になります。その結果、現在は「四位一体」に加工技術者を加えた「四位一体+One(ワン)」というコンセプトで最先端の微細加工を提案しています。

 製造業の多くが「人材不足」を課題に挙げています。若い人材はITのような華やかな業界に行き、製造業には集まらない。また、加工技術者は表舞台に立つことが少なく、認知度や地位が高くない。もっと若い人たちが注目し、憧れる職業にするにはどうすれば良いか。そこで考えたのが、職業名を変えることでした。

 自らの豊かな感性と創造性を働かせて物を作る加工技術者の姿は、「アーティスト」そのもの。そこに「マシニング」を組み合わせて、「マシニングアーティスト」と呼ぶことにしました。格好いい仕事だというイメージが発信できれば、若い人たちも振り向いてくれるのではないか。そう考えて、ロゴやステッカー、認定制度を作り、普及活動に取り組んでいます。

 「マシニングアーティスト」に求められるものは何か。それは「データを駆使して分析できる力」です。これまでの職人は自らの手で機械や工具を操ることに長けた人でした。しかし、これからは工場のデジタル化が進み、現場に溢れるデータをいかに活用するかが重要になります。このデジタルデータを操り、微細加工を実現できる人、そして自らが得たスキルを後人に伝承できる人。これこそが新しい職人の姿ではないでしょうか。

 今後、ITやAIなどを活用することで、金属加工の生産性は飛躍的に向上します。反面、人の介在する余地が無くなり、イノベーションは起きにくくなります。加工技術でのイノベーションは感性豊かな「マシニングアーティスト」にしか起こせません。こうした人材を発掘し、育てていくことが、また新たな技術や世界を作り出すことにつながるはずです。

金型新聞 2020年8月10日

関連記事

黒田精工 黒田浩史社長「電動化の波捉え、 成長」

黒田精工(川崎市幸区、044・555・3800)は今年、創業100周年を迎えた。ゲージ製造から始まり、金型、研削盤、ボールねじへと事業を展開してきた同社。金型は戦後間もない1946年から製造を開始し、今に至る。近年は電動…

アクスモールディング 押出成形金型の設計簡易化【特集:金型づくりで広がる金属AM活用】

廃棄部分の再利用も可能に 高機能フィルムの製造に適した押出成形金型「Tダイ」などの設計を手掛けるアクスモールディング。同社は、今年の3月にソディックの金属3Dプリンター「LPM325S」を導入。押出成形金型の設計の簡易化…

【インタビュー】日本金型工業会会長(小出製作所社長)・小出悟氏「日本の金型の強みは細やかさと対応力」

天性の細やかさ数値で語る力が必要  経済産業省の工業統計によると、2018年の日本の金型生産額は1兆4752億円。生産量こそ中国に抜かれて久しいが、新素材の登場や部品の複合化、微細化が進み、依然として日本の高度な金型技術…

「『金型灼熱』の技術強みに 省エネなど製品開発」 平和電機社長・大澤孝佳氏

各種工業用ヒーターや金型均熱システムなどを手掛ける平和電機(愛知県一宮市、0586-77-4870)は独自のエンジニアリング力を強みに、金型メーカーの様々なニーズに応える。近年はSDGsなど循環型社会への貢献を目指し、新…

【ひと】ベントム工業社長・本田大介さん システム会社を立ち上げた金型経営者

システム会社立ち上げた金型経営者  クラシック音楽事務所の営業から父親が創業した鋳造・ダイカスト金型メーカーに転職。会社を受け継いだ後、工程管理を手掛けるシステム開発会社を設立した。異色の金型経営者だ。  入社した当初は…

トピックス

関連サイト