金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

13

新聞購読のお申込み

【鳥瞰蟻瞰】碌々産業社長・海藤満氏「優れた人材の発掘と育成が新たな世界の創出につながる」

重要なのは加工技術者

優れた人材の発掘・育成が、新たな世界の創出につながる

 いまや我々の日常生活に不可欠なものとなったスマートフォンや極小な電子機器。これらは微細加工技術があったからこそ生まれました。ミクロンやナノといった精度が求められる微細加工では、機械や工具の進化も重要ですが、何より大事なのは、それらを駆使する加工技術者の存在です。

 当社は微細加工を行うマシニングセンタを製造しています。「微細加工機のリーディングカンパニー」を目指し、高精度かつ高性能な機械を提供して微細金型や微細部品の加工に貢献しています。

 しかし近年は要求精度が高度化し、機械の性能だけでその要求に応えるのが難しくなってきました。「機械」に加え、ワークを削る「工具」、加工プログラムを作る「ソフトウエア」、加工現場の「環境」を適切に組み合わせないと質の高い微細加工はできません。そこで当社は、この4つを合わせた「四位一体(よんみいったい)」での提案に注力するようになりました。

 ただ、この取り組みを進めていくと、今度はこれらを組み合わせて操る加工技術者の重要性に気付きました。微細加工は卓越した技術力と並々ならぬこだわりを持った彼らがいて初めて可能になります。その結果、現在は「四位一体」に加工技術者を加えた「四位一体+One(ワン)」というコンセプトで最先端の微細加工を提案しています。

 製造業の多くが「人材不足」を課題に挙げています。若い人材はITのような華やかな業界に行き、製造業には集まらない。また、加工技術者は表舞台に立つことが少なく、認知度や地位が高くない。もっと若い人たちが注目し、憧れる職業にするにはどうすれば良いか。そこで考えたのが、職業名を変えることでした。

 自らの豊かな感性と創造性を働かせて物を作る加工技術者の姿は、「アーティスト」そのもの。そこに「マシニング」を組み合わせて、「マシニングアーティスト」と呼ぶことにしました。格好いい仕事だというイメージが発信できれば、若い人たちも振り向いてくれるのではないか。そう考えて、ロゴやステッカー、認定制度を作り、普及活動に取り組んでいます。

 「マシニングアーティスト」に求められるものは何か。それは「データを駆使して分析できる力」です。これまでの職人は自らの手で機械や工具を操ることに長けた人でした。しかし、これからは工場のデジタル化が進み、現場に溢れるデータをいかに活用するかが重要になります。このデジタルデータを操り、微細加工を実現できる人、そして自らが得たスキルを後人に伝承できる人。これこそが新しい職人の姿ではないでしょうか。

 今後、ITやAIなどを活用することで、金属加工の生産性は飛躍的に向上します。反面、人の介在する余地が無くなり、イノベーションは起きにくくなります。加工技術でのイノベーションは感性豊かな「マシニングアーティスト」にしか起こせません。こうした人材を発掘し、育てていくことが、また新たな技術や世界を作り出すことにつながるはずです。

金型新聞 2020年8月10日

関連記事

AI活用や形状認識による設計支援 塩田聖一氏(C&Gシステムズ 社長)【この人に聞く】

金型向けのCAD/CAMから生産管理システムまでを手掛けるC&Gシステムズ。2021年に「研究開発部門」を設けるなどソフトウェアの開発体制を強化している。そこではAI(人工知能)の活用や、形状認識による設計支援な…

【鳥瞰蟻瞰】福井精機工業社長・清水一蔵氏「これからの金型の価値は、生産技術支えるプロデュース力」

金型の価値が変わる これからの価値とは、生産技術支えるプロデュース力  高度な技能や経験、専門知識がなくても金型が作れる環境になってきました。なぜなら、これまで職人技と言われた金型加工は工作機械や切削工具などの発達によっ…

ユーザーとの距離近づけ 高付加価値化を提案
岡本工作機械製作所 石井常路社長

 研削盤メーカーの岡本工作機械製作所(群馬県安中市、027-385-5800)は今年5月、新たに3カ年の中期経営計画を発表した。新中期経営計画の達成に向けた基本戦略の一つとして「顧客付加価値強化」を挙げる。「今まで以上に…

江口博保さん 研さん重ねる金型設計の熟練者【ひと】

自動車のフィックスドウインドウやクォーターウィンドウ。その成形コストや歩留まりを改善し、環境に配慮した金型も設計した。顧客製品設計の最終確認会にも出席しアドバイスする。それらが評価され、令和2年度「現代の名工」に選ばれた…

新日本テック 産学連携でネットワーク構築し、金型の課題解決【金型の底力】

超精密金型部品や機能性金型部品、金型製作(プレス・モールド)を手掛ける新日本テックは設備や配管内に溜まった水垢(スケール)を除去する金型用水あか防止洗浄液を開発した。射出成形金型の温調水を流す配管のスケール除去などに有効…

トピックス

関連サイト