金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

16

新聞購読のお申込み

【インタビュー】日本金型工業会会長(小出製作所社長)・小出悟氏「日本の金型の強みは細やかさと対応力」

天性の細やかさ
数値で語る力が必要

 1955年生まれ、静岡県出身。82年小出製作所入社、96年社長。82年に日本金型工業会中部支部の若手部会「イーグル会」入会。中部支部長や総務財務委員長を歴任。2017年に日本金型工業会会長就任。

 経済産業省の工業統計によると、2018年の日本の金型生産額は1兆4752億円。生産量こそ中国に抜かれて久しいが、新素材の登場や部品の複合化、微細化が進み、依然として日本の高度な金型技術へのニーズは強い。しかし、何もせずに今の地位は維持できない。今後も日本の金型が世界で求め続けられるには何が必要なのか。まず現在の立ち位置を知る必要がある。日本金型工業会の小出悟会長に日本の金型業界の強みと弱み、年内に公表する「新金型産業ビジョン」の方向性を聞いた。

日本の金型の強みは。

 型種や企業で異なるが、全体的に言えるのは仕上げや組付け能力だろう。ただ、工作機械の進化や測定技術の高度化などによって、機械で追い込める部分が増え、強みの領域は少なくなっている。当社のダイカスト型では以前は合わせに3日は掛かっていたが、今は(部品精度の向上などで)半日強で出来てしまう。それでも、仕上げや組付けは金型には不可欠だし、細やかな作業は日本人に向いていると思う。

他には。

 臨機応変な対応力だ。日本企業は総じて、顧客に無理難題をお願いされても、何とかやってしまおうとする力がある。日本人は顧客の要求に応えたいという気質が強いので、今後も対応力は強みとして残ると思う。

一方で弱みは。

 強みと表裏かもしれないが、顧客の要求に対し、収益を犠牲にして追求してしまう部分がある。対応力は強みだが、経営力というか数字に弱い。そこは改善すべきだ。

 数字は収益だけではない。暗黙知を形式知化し、数値で伝える力もそうだ。これまで日本はカンコツに頼り、経験を数値化してこなかった。熟練技能者が減っていく中で、新人技術者を数年で10年選手にしなければいけない時代になった。それにはIoT技術を活用し、暗黙知を形式知化し、数値で伝えることが必要だ。

形式知化は標準化につながり、世界中どこでも金型が作れる懸念がある。

 それは否定できない。しかし、新しい素材や技術が登場すれば、金型は変わるので、学ぶべきことや、必要なノウハウも変わる。むしろこれまでの経験を数値化し、それを基に研究すれば、新たな技術や知見が得られるかもしれない。我々はもっと前に進むべきだ。

6年ぶりに金型産業ビジョン改定します。

 大きな方向性としては政府が発表した中小企業施策で「中堅企業への成長を目指そう」と打ち出したように、金型業界もそうあるべきだと思う。それにはまず、単に金型を生産する工場から、顧客に価値を提供する金型企業に変わるべきだ。

そのためには。

 詳細はビジョンに譲るが、一つの戦術としてM&Aや連携が挙げられる。同業種で規模を拡大するだけでなく、他の型種や異業種と連携があってもいい。顧客から資本参加して頂くことがあってもいい。それぐらい劇的に変化し、顧客にとって必要な存在にならなくてはいけない。残念ながら我々はリーマンショックで変わり切れなかった。コロナ禍は我々に厳しい状況をもたらしているが、業界を変える最後の契機かもしれない。

金型新聞 2020年9月10日

関連記事

シミズプレス 金型工場を新設し高精度化と外販の強化【金型の底力】

プレス加工メーカーのシミズプレス(群馬県倉賀野市、027-320-2880)は今年10月、金型工場を新設した。これまでプレス量産工場内にあった金型加工設備を移設。金型加工の高精度化を図り、モータコア用金型など新規分野の開…

ジヤトコエンジニアリング<br>永倉 均社長に聞く CVT技術を磨く

ジヤトコエンジニアリング
永倉 均社長に聞く CVT技術を磨く

この人に聞く 2018 電気自動車(EV)の登場で部品点数が減少したり、エンジンがなくなったりするのではないかといった金型への影響を危惧する声は絶えない。オートマチックトランスミッション(AT)や無段変速機(CVT)など…

久野金属工業 金型・プレス・組立一貫生産【金型の底力】

プレス業界の活性化に ハイテン材など高張力鋼板や難加工材のプレス金型及びプレス加工を手掛ける久野金属工業は、次世代車向けのプレス部品の製造を強化するため、約30億円を投じ、愛知県豊明市に新工場を建設。金型からプレス加工、…

金型磨きロボット開発<br>近畿大学・理工学部 原田 孝教授

金型磨きロボット開発
近畿大学・理工学部 原田 孝教授

パラレルで力制御、高速・高精度  金型を自動で磨くロボットはかねてから望まれ、機械メーカーや研究機関が開発に挑んできた。近畿大学理工学部の原田孝教授もそのひとり。昨年、パラレルリンクやDDモータにより微妙な力加減を緻密に…

田岡秀樹氏

【プレス型特集】
本田技研工業 田岡 秀樹氏に聞く
プレス型メーカーの目指すべき方向性

自分の強み生かす道を 本田技研工業 完成車新機種推進部 主任技師 田岡 秀樹氏に聞く 高級車か、低価格車か、2極化も 金型なくして新車開発ならず 自動運転、ライドシェア、電気自動車(EV)の進化―。自動車業界では急激な変…

トピックス

関連サイト