今年4月、ダイスなど超硬合金製の耐摩耗工具や金型を手掛ける冨士ダイス(東京都大田区、03-3759-7181)の社長に就任した。自動車産業の大変革など同社を取り巻く事業環境が加速度的に変化する中、「変化に対して順応力を持…
金型取引改善分科会会長 渡辺隆範氏に聞く 金型業界で足並みそろえ、値上げを実現【特集:どうする値上げ】
業界の弱体化は顧客にマイナス
ユーザーと金型メーカーはどちらかが欠けても成り立たない「イコールパートナー」だと訴えてきました。我々の事業を安定させるためにも、値上げは粘り強く要求していくべきで、そのためには足並みをそろえることも大切です。何より金型業界の弱体化はお客様にとってマイナスにしかならないからです。
それは数字を見ても明らかです。国内の金型事業所は90年代のピーク時の1万3000社から21年には5000社を切るまでに減っています。特に10人以下の減少が顕著で、金型の供給能力は低下しています。だから、「次の回復時には金型が供給できなくなります」と訴えています。そうなると困るのはお客様です。
とはいえ、金型の値上げは難しい。定価もなく、需給バランスによって価格が決まるからです。多段構造の取引も難しさに拍車をかけています。それでも取引適正化を訴えてきたことと、原料高の影響などから値上げに応じてくれる企業も増えています。
一方で、いまだに値下げ要求する会社や、交渉のテーブルに付いてくれない企業もあります。こうした企業にも粘り強く「利益を無視しては受注できない」と伝えることは大切です。
「予算がある」と言われることもありますが、これも本来はおかしな話。予算は顧客側の問題であって、我々は適正な価格を提示しているわけですから。取引の関係上、受け入れざるを得ないことがありますが、その場合でも主張はすべきです。
また、値上げには価格交渉力を持つことが欠かせません。私は「広げる」ことが重要だと思っています。一つは顧客層を広げること。もう一つは、金型の種類を広げること。当社は鋳造だけでなく、ダイカスト、樹脂にも挑戦しています。最後に金型以外の仕事にも広げること。ユーザーの現場には、治具などの機械加工の仕事も多くあります。金型以外の仕事をしたっていいはずです。
一方で、我々も努力はすべき点はあります。徹底した原価管理はその一つです。右肩上がりの時代は「どんぶり勘定」の企業も多く、紙で管理していたので、原価管理に甘さがあったのは否めません。顧客と交渉するためにも、原価管理の徹底は欠かせません。
最後に、何より重要なのは業界全体で足並みをそろえること。適正な競争は必要ですが、過度な競争は業界を疲弊させるだけ。足元は景気が悪く、価格競争が激化しており、足並みをそろえるのは難しい。けれど、我々の力が弱体化すれば、顧客にとってもマイナスになります。ものづくりを持続可能な産業にするために、足並みそろえて値上げを訴えましょう。

金型新聞 2023年6月10日
関連記事
魅力ある組織でなければ人は集まってきません。東北金型工業会をより魅力ある団体にするために、会長就任後すぐに、3つの分科会を作りました。若手が中心となって積極的に参加してもらい、勉強会などを通じ、メリットや魅力を感じてもら…
厳しくなる世界各国の燃費規制に対応するため電気自動車(EV)を始めとする、次世代自動車の浸透スピードは加速している。加えて、自動運転も次世代技術として注目を集めている。こうした自動車の変化は金型にどう影響するのか。電動…
EV化などによる金型需要の変化やAMをはじめとする新たな製造技術の登場など金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型メーカーには今後も事業を継続、成長させていくため未来を見据えた取り組みが求められてい…
各種工業用ヒーターや金型均熱システムなどを手掛ける平和電機(愛知県一宮市、0586-77-4870)は独自のエンジニアリング力を強みに、金型メーカーの様々なニーズに応える。近年はSDGsなど循環型社会への貢献を目指し、新…