金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

20

新聞購読のお申込み

金型取引改善分科会会長 渡辺隆範氏に聞く 金型業界で足並みそろえ、値上げを実現【特集:どうする値上げ】

業界の弱体化は顧客にマイナス

ユーザーと金型メーカーはどちらかが欠けても成り立たない「イコールパートナー」だと訴えてきました。我々の事業を安定させるためにも、値上げは粘り強く要求していくべきで、そのためには足並みをそろえることも大切です。何より金型業界の弱体化はお客様にとってマイナスにしかならないからです。

それは数字を見ても明らかです。国内の金型事業所は90年代のピーク時の1万3000社から21年には5000社を切るまでに減っています。特に10人以下の減少が顕著で、金型の供給能力は低下しています。だから、「次の回復時には金型が供給できなくなります」と訴えています。そうなると困るのはお客様です。

とはいえ、金型の値上げは難しい。定価もなく、需給バランスによって価格が決まるからです。多段構造の取引も難しさに拍車をかけています。それでも取引適正化を訴えてきたことと、原料高の影響などから値上げに応じてくれる企業も増えています。

一方で、いまだに値下げ要求する会社や、交渉のテーブルに付いてくれない企業もあります。こうした企業にも粘り強く「利益を無視しては受注できない」と伝えることは大切です。

「予算がある」と言われることもありますが、これも本来はおかしな話。予算は顧客側の問題であって、我々は適正な価格を提示しているわけですから。取引の関係上、受け入れざるを得ないことがありますが、その場合でも主張はすべきです。

また、値上げには価格交渉力を持つことが欠かせません。私は「広げる」ことが重要だと思っています。一つは顧客層を広げること。もう一つは、金型の種類を広げること。当社は鋳造だけでなく、ダイカスト、樹脂にも挑戦しています。最後に金型以外の仕事にも広げること。ユーザーの現場には、治具などの機械加工の仕事も多くあります。金型以外の仕事をしたっていいはずです。

一方で、我々も努力はすべき点はあります。徹底した原価管理はその一つです。右肩上がりの時代は「どんぶり勘定」の企業も多く、紙で管理していたので、原価管理に甘さがあったのは否めません。顧客と交渉するためにも、原価管理の徹底は欠かせません。

最後に、何より重要なのは業界全体で足並みをそろえること。適正な競争は必要ですが、過度な競争は業界を疲弊させるだけ。足元は景気が悪く、価格競争が激化しており、足並みをそろえるのは難しい。けれど、我々の力が弱体化すれば、顧客にとってもマイナスになります。ものづくりを持続可能な産業にするために、足並みそろえて値上げを訴えましょう。

日本金型工業会 経営労務委員会 金型取引改善分科会 会長 渡辺隆範氏(日型工業社長)

金型新聞 2023年6月10日

関連記事

【特集】ユニークな社内制度

従業員が満足して働ける、働きやすい魅力的な職場を作ることで、多様な人材が企業に集まってくる。そうして集まった人材は、長く会社にいて力になってくれる。そんな考え方から独自の社内制度を設け、活用する企業は多い。では、金型メー…

〜精度よく、早く、安く・作る〜特集

〜精度よく、早く、安く・作る〜特集

高難度型を早く安く 自動化活用し品質安定  難易度の高い金型や、オンリーワン技術に高い付加価値があるのは当然。しかし、全てがそんな金型ばかりではない。大半の金型は、高精度は当然ながら「早く、安く」作ることが求められている…

鉄やアルミをマグネシウムに置き換え 藤岡エンジニアリングが進める軽量化提案

脱炭素社会に向けた取り組みがものづくりで加速し、金型業界でもその動きが広がりつつある。先手を打つ金型メーカーの対応には大きくは2つの方向性がある。一つは、太陽光パネルの設置や設備の省エネ化などによる自社の生産活動でCO2…

スワニー 耐久性高い金型、協業で製造【特集:金型づくりで広がる金属AM活用】

5万個の部品生産可能に 製品設計会社のスワニーは、樹脂型を3Dプリンターで製造し、量産材料で射出成形が可能な「デジタルモールド」を手掛ける。同社はこれに加え、金属3Dプリンターで製造する金型「アディティブモールド」を岡谷…

KMC 社長 佐藤 声喜氏
〜鳥瞰蟻瞰〜

IOTの狙いはスピード 現場の正しい情報捉え、瞬時に改善することが重要  金型メーカーが今より儲けるためには、受注を増やすか、製造原価を下げるかの2つ。では、どうやってそれを実現するか。私は「スピード」だと考えています。…

トピックス

関連サイト