金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

12

新聞購読のお申込み

浜松工業技術支援センター SUS系粉末で金型造形

静岡県工業技術研究所浜松工業技術支援センター(浜松市浜名区)は、ステンレス系粉末を用いたプラスチック用金型の造形技術を開発した。これまで3Dプリンタでの造形が難しいとされていたSUS420J2系金型材料に相当する粉末で残留応力を低減する造形条件を確立。150㎜角を超える大型金型の造形を可能にした。プラスチック用金型における金属3Dプリンタの適用拡大が期待される。

残留応力低減、大型品に対応

造形に用いた材料は大同特殊鋼(名古屋市東区)のステンレス系粉末「LTX420」。2023年に販売開始した同材料は造形時に発生する歪みを大幅に低減し、造形品の割れを抑制することで、大型品の造形を可能とする。ただ、150㎜角を超える大型品での適用はまだ限定的で、凹凸のある複雑形状の造形条件は確立されていなかった。

浜松工業技術支援センターは独SLMソリューションズ社製の金属3Dプリンタ「SLM280」を用いて「LTX420」の造形技術の開発を進めた。特に造形品の割れの原因となる残留応力を低減する条件設定を研究。テストピースを造形し、ポータブル型Ⅹ線測定器で残留応力を測定しながら、レーザー出力や造形スピードなどを調整し、最適な造形条件を見出した。この条件によって、造形物の変位量を低減させ、相対密度は99・95%以上を実現した。

SUS系粉末「LTX420」(大同特殊鋼)で造形した水管入り金型

また、エネルギー密度と相対密度の関係を検証。レーザー出力が高いほど最適なエネルギー密度も高い傾向にあることを解明した。加えて、相対密度と内部欠陥サイズの関係も検証し、高密度化を図ることで欠陥サイズを100μm以下に抑えることができることも明らかにした。

テスト造形では幅185㎜×奥行160㎜×高さ84㎜の水管入り金型を製作。実際の金型を想定した複雑形状を組み入れ、造形時間は48時間30分だった。

今後はマシンニングセンタ(МC)による仕上げ加工や、水管内部の表面処理などの後工程を研究し、最終的な金型に仕上げる。また、完成した金型を使って成形し、性能評価や検証も行っていく予定。

「後工程でもノウハウが必要になる。例えば、造形品は55HRC程度と硬いため、そのままでは加工が難しい。熱処理を施すなどの工夫が必要。研究を重ね、知見を高めたい」(上席研究員の田光伸也氏)。

これまで金属3Dプリンタでの金型造形はマルエージング鋼相当の粉末が主流だった。しかし近年、金属3Dプリンタ用粉末の開発が進み、材料の選択肢が広がっている。ダイカスト用金型では熱間ダイス鋼「SKD61」相当の粉末が開発され、活用が進む。大型ダイカスト技術「ギガキャスト」向け金型などにも適用されている。

プラスチック用金型ではSUS420J2系金型材料に相当する粉末が開発されていたが、造形に時間がかかるなど実用化には課題が多かった。今後、浜松工業技術支援センターの研究によって、「LTX420」の造形技術が確立されれば、プラスチック用金型でもこれまで以上に金属3Dプリンタの活用が進む可能性が高い。

浜松工業技術支援センターは23年に「SLM280」1台を導入。静岡県内の企業向けに装置の利用を提供している。また、県内の企業や大学などを会員とした「静岡県積層造形技術(AM)協議会」を設立し、研究開発支援やセミナー開催などを行う。今回の開発もその一環。今後も金属3Dプリンタの活用促進や技術普及に向けた活動を進めていく考え。

金型新聞 2025年2月10日

関連記事

【特集:技能レス5大テーマ】4.磨きレス

新被膜やPCDでサブミクロン 仕上げや組付けなど金型の品質を決める領域には人の手は欠かせない。磨き工程もその一つ。しかし、磨きには時間や人手がかかることから、できるだけ機械加工で追い込み、磨きを減らしたいという声は多い。…

刃先交換式工具を拡充
MOLDINO

荒、仕上げ用など3製品  MOLDINO(東京都墨田区、03-6890-5101)はこのほど、刃先交換式工具シリーズから高送りラジアスミルなど3製品を発売した。製品ラインアップを拡充し、金型加工の多様なニーズに対応する。…

フクハラ 圧縮空気中のオイルミスト測定、新型検知器発売

コンプレッサー周辺機器メーカーのフクハラ(横浜市瀬谷区、福原廣社長、045-363-7373)は、圧縮空気中に混入するオイルミストの濃度を検査する「オイルミスト検知器」の販売を開始した。低価格で簡単に取り付けでき、短時間…

ニコン 金型補修・肉盛り溶接工程の自動化、金属3Dプリンタで微細な肉盛

ニコン(東京都品川区、德成旨亮社長、03・3773・1111)が、金属3Ⅾプリンタを活用した金型補修の自動化を提案している。これまでの金属3Ⅾプリンタでは難しかった微細な補修に対応可能。少子高齢化により深刻化する熟練技能…

シー・アイ・エム総合研究所 個別受注生産向け管理システムをリリース

専任管理者が不要 シー・アイ・エム総合研究所(東京都目黒区、03・5745・1181)はこのほど、個別受注生産向けプロジェクト管理システム「Dr.工程Navi」をリリースした。同製品は、大日程とイベントのみで計画の立案が…

トピックス

関連サイト